yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

STORY

ストーリー

第433話 人生にyesを
-【音楽家のレジェンド篇】ザ・ビートルズ-

[2023.12.16]

Podcast 

©Topfoto/amanaimages


今年11月2日、『ナウ・アンド・ゼン』という最後の新曲を世界同時発売した、伝説のロックバンドがあります。
ザ・ビートルズ。
オフィシャル・ミュージック・ビデオは、カセットデッキに、あるテープがセットされるところから始まります。
このカセットテープに、40歳のとき銃弾に倒れた、ジョン・レノンの歌声が録音されていたのです。
最新のAI技術を駆使し、デモテープから歌声だけを抽出。
そこに81歳のポール・マッカートニー、83歳のリンゴ・スターの声を重ね、58歳で亡くなったジョージ・ハリスンの歌声と演奏を加えました。
「時々、キミがいなくて、さみしい」
「時々、ボクたちは、スタート地点に戻らなくてはいけない」
そう歌うジョンの声はせつなく響きます。
この新曲の裏ジャケットに使われた時計のエピソードが話題を呼んでいます。
ジョージ・ハリスンの妻、オリヴィアの話。
それは…昔、ジョージが時計店に入ったときのこと。
壁にかかっていた時計に目を止めます。
家をモチーフにした壁掛け時計には、はめこまれたアルファベットで、「NOW」と「THEN」の文字がありました。
ひと目でそれが気に入ったジョージは、壁から時計をはずしてもらい、購入したのです。
彼は自宅にロシア風の小屋を建て、そこに時計を飾りました。
なんと25年間、時計はそこで時を刻んでいたのです。
ジョージ亡きあと、妻のオリヴィアは、ふと思い立ち、その時計を綺麗にして、暖炉の上に置きました。
とそこへ、一本の電話がかかってきたのです。
ポール・マッカートニーからでした。
「カセットテープに録音された歌があるんだけど」
それが…『ナウ・アンド・ゼン』でした。
そのとき今は亡き、ジョージ・ハリスンも、今回の新曲リリースに参加していたのです。
今も伝説を創り続けるロックバンド、ザ・ビートルズが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

ザ・ビートルズの最後の新曲『ナウ・アンド・ゼン』の、オフィシャル・ミュージック・ビデオには、お茶目にふるまうジョン・レノンの姿が合成され、映し出されている。
おどける姿が、かえって哀しさを誘う。
1963年のBBCスタジオでのメンバー紹介。
リンゴ、ポール、ジョージが、それぞれどんな楽器を演奏するかを話した。
ジョンが、とりをつとめる。
彼は、「I'm John, and I too play a guitar」と言ったあと、こう続けた。
「Sometimes I play the fool」
ときどき、バカもやるよ。
ジョンは、小学生のとき、通知表にこう書かれたという。
「成績は、最低。望みなし。クラスの道化者」
ジョンは、実の母に愛されたという思い出がない。
母は、他に男をつくり、出ていった。幼いジョンを残して。
やがて、母と暮らす機会を得たが、18歳の時、母は交通事故でこの世を去る。
人生で二度、母を失った。
彼は、おどける。ピエロになる。
ジョンは、求めていた。
自分がこの世に生きることを許される、物語を。

©ZUMA Press/amanaimages

1966年11月8日。
イギリス・ロンドンのインディカ・ギャラリーの前に、ひとりの男がやってきた。
彼の名は、ジョン・レノン。
リンゴ・スターがザ・ビートルズに加入して4年が経った年。
ザ・ビートルズが、来日を果たした年でもある。
その日は、ある女性アーティストの個展前日。
『すごく面白い女性アーティストがいる』と聞いて、ギャラリーのドアを開けた。
ギャラリーのオーナーが、女性アーティストを紹介してくれた。
彼女の名前は、オノ・ヨーコ。
彼女が差し出したカードには、こう書かれていた。
「息を、しなさい」
ジョンは、ハッとした。そういえば、この数年、走り続けてきた。
息をつく暇もなく。
彼女の目の前で、大きく息を吸い、大きく吐いた。
ヨーコは、くすっと笑った。
「もしかしたら、彼は、私の気をひこうとしているのかしら」、ヨーコは一瞬、そう思ったが、すぐに打ち消した。
言われたとおりに、大真面目に深呼吸する純粋さが、あまりに素敵だったから。

ジョン・レノンが、たまたま訪れたギャラリー。
そこで彼は、彼の人生を、そして、もしかしたら、ザ・ビートルズの運命を変える、二つのものに出会う。
ひとつは、オノ・ヨーコという女性。
もうひとつは…ギャラリーの中にあった、『天井の絵』という作品。
銀色の脚立がある。
その上には、天井に貼られた絵。
なぜか、虫メガネがぶらさがっている。
ジョンは、脚立にのぼり、虫メガネで絵をのぞく。
そこにあったのは、たったひとつの言葉。
「yes」
小文字で、ささやかに、yes。
感動して泣きそうになった。
それは、ジョンが、生涯を通して、ほしかった言葉だった。
「君はそこにいていいよ」
自分の存在を誰からも肯定してもらえず、自分で自分にYESと言えなかった。
だから、ぐれて、おどけて、誤解されてきた。
天井から降って来たyesを受け取り、彼はあらためて、誰かのために、yesを歌うことを誓った。

心を開いて「yes」って言ってみてください。
すべてを肯定してみると、あんがい、答えがみつかるものです。
ジョン・レノン

©ZUMA Press/amanaimages

【ON AIR LIST】
◆NOW AND THEN / The Beatles
◆REAL LOVE / John Lennon
◆JULIA / The Beatles
◆WOMAN / John Lennon

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