yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

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ストーリー

第416話 子どもの頃描いた理想を大切にする
-【医学の発展に貢献したレジェンド篇】アルベルト・シュバイツァー-

[2023.08.19]

Podcast 

©Alamy/amanaimages


今から70年前に、ノーベル平和賞を受賞した、「密林の聖者」がいます。
アルベルト・シュバイツァー。
彼が受賞した部門が、なぜ医学・生理学賞ではなく、平和賞だったのか。
40年にわたる、アフリカ、ガボンでの献身的な医療活動が評価されての賞だと、誰もが思いました。
しかし、彼の90年の生涯を知れば、平和賞こそが最もふさわしい賞であることがわかります。

『生命への畏敬』。
それは、シュバイツァーが一生を捧げて全世界に伝道した哲学です。
この世の生命は、全て、生きようとしている。
自己を実現したいという意志を持っている。
それは、どんなことよりも優先されるべきものであり、畏れと尊敬を持って、他人の命は尊重しなくてはならない。
彼は戦争を心から憎み、排除したいと願いながら、世界中で講演や演奏活動を行い、アフリカの密林で多くの患者と向き合ったのです。
彼が医学部に学んだのは、30歳のときです。
すでに名門シュトラスブルク大学の神学科の講師の職を得ており、学長は驚きました。
「シュバイツァー君、君はもうすぐ神学科の教授になろうという人間だ。
なぜ、今更、医師の資格を得たいと思うのかね?」
シュバイツァーは、学長にこう答えました。
「満足な医療を受けられずに目の前で亡くなっていく人を見たら、なんとしても救いたい、そう思うのは自然なことではないでしょうか。
私は21歳の時、決めたのです。
30歳までは、学門と芸術を身につけよう。
そして30歳からは、ひとのために尽くそう。
私の理想の実現に、医学が必要なのです」
二度の世界大戦を経験し、一時は捕虜収容所にとらえられても、己の理想を手放さなかった賢人、アルベルト・シュバイツァーが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

©Alamy/amanaimages

医師で哲学者、アフリカの風土病で苦しむ人々を救った偉人、アルベルト・シュバイツァーは、1875年1月14日、ドイツ帝国カイザースベルクで生まれた。
父は牧師。家は裕福だった。
幼いシュバイツァーは、教会で説教をしたり、オルガンをひく父を見るのが大好きだった。
父にオルガンを習う。
音が教会に響き渡る。
心が鎮まり、神様に会えるような気がした。
小学校に通うようになって、ある忘れられない出来事が起きた。
同級生と喧嘩になった。
シュバイツァーは、あっという間に相手を組み伏せる。
「どうだ、まいったか!」というと、倒れたままの相手が言った。
「ボクだって、おまえんちみたいに、週に二回、お肉入りのスープを食べていれば、負けないんだけど」
ショックだった。
あらためて、相手の服を見る。ボロボロで、つぎはぎだらけ。
初めて、貧富の差を知る。
自分の家が裕福であることを、恥ずかしいと思った。
それから、わざと服を汚したり、寒い日にコートを着ずに歩いたりした。
でも、もやもやは晴れない。
きちんと世界を眺めてみれば、貧しい人、困っている人がたくさんいた。
なぜ、貧富の差が起こるのか。
困っている人に、自分は何ができるのか。
シュバイツァーは、このとき感じたことを深く心に刻んだ。
彼はのちに、こんな言葉を残した。
「少年の頃の理想主義の中に、人間にとっての真理が隠れている。
そして、少年の頃の理想主義は、何ものにも換えることが出来ない、人生の財産である」

アルベルト・シュバイツァーが、7歳の時、不思議な出来事が起こった。
当時、Y字の木にゴムを取り付けた、通称「パチンコ」で鳥を打つという遊びが流行った。
友だちと森に入る。
シュバイツァーは思っていた。
「ほんとうは、鳥を打つのは嫌だな。
この世の生き物は、みんな、尊い命を持っている。
むやみに殺すのは、嫌だ」
枝にとまる、山鳩がいた。
友だちが狙えと言う。
ああ、嫌だなと思いつつ、構える。
打たなければ、友だちにバカにされる。
でも、「ああ、どうか、あたりませんように」。
打とうとした瞬間!
教会の鐘が鳴った。高らかに鳴った。
鳥たちは、いっせいに飛び立つ。
シュバイツァーは、そのとき、神様の意志を感じた。
鐘の音は、教会で父が奏でるオルガンの音に似ていた。
「命を大切にしよう、この世に生きる、ありとあらゆる生命のことを考えて生きよう」
シュバイツァーは、もうひとつ、心に誓った。
「たとえ他の人がどう思おうが、なんと言おうが、自分が正しいと思うことを貫こう」
真っ青な空に飛び立っていく無数の鳥たちの姿を、いつまでも見ていた。

アルベルト・シュバイツァーが最初に夢中になって学んだのは、音楽だった。
ピアノでは厳しい指導を受け、やがて15歳でパイプオルガンを演奏するようになる。
かつての父の姿が重なる。うれしかった。
バッハの曲に心うたれた。
先生はいつも言った。
「豊かな心を持ちなさい。
音楽とは、他を慈しむ心から生まれたものです」

18歳で、シュトラスブルク大学に入学。
神学と哲学を専攻した。
順調に学問を収めつつ日々を過ごしていたが、心のどこかに、幼い日の理想が生きていた。
生命への畏敬。
裕福で満ち足りた環境にいる自分に、やれることは何か。
27歳で神学部の講師になり、ときおり、バッハの演奏家として各地に呼ばれた。
アフリカのコンゴの宣教師がいないというニュースを知った。
すぐに思い出したのは、幼い頃見た、黒人の銅像。
たくましい体に似合わない、哀しい目をしていた。
いますぐ、アフリカに行こう。彼は思った。
恵まれない黒人のために働きたい。
そう、強く思った。
シュバイツァーは、鉄人でも聖人でもない。
ただ彼が凄かったのは、幼い日の理想を忘れなかったこと。

「成功は幸せの鍵ではない。幸せが成功の鍵だ。
もし自分のしていることが大好きなら、あなたはきっと成功する」
アルベルト・シュバイツァー

【ON AIR LIST】
I LOVE PEOPLE / 小坂忠
キリストを我ら讃えまつらん(BWV611「13のコラール・プレリュード」より) / J.S.バッハ(作曲)、アルベルト・シュバイツァー(オルガン)
REVERENCE (THE STORY OF A MIRACLE) / Richard Bona
UNDER AFRICAN SKIES / Paul Simon

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