yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

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ストーリー

第414話 誰かの役に立ちたいと願い続ける
-【医学の発展に貢献したレジェンド篇】ルイ・パスツール-

[2023.08.05]

Podcast 

©Brooks/Brown/Science Source/amanaimages


近代細菌学の父と言われる、フランスの科学者がいます。
ルイ・パスツール。
パスツールの功績は、はかりしれません。
牛乳やワイン、ビールなどが腐らないようにするため、低温で殺菌する方法を発見。
そのおかげで、私たちは今も安心して、牛乳やワインを飲むことができるのです。
彼の最も大きな偉業は、ワクチンという概念の構築と、予防接種の開発かもしれません。
ジェンナーの考えた天然痘を予防する種痘法に「ワクチン」という名前をつけ、ワクチンが他の病気にも応用できるのではないかと考えたのが、パスツールでした。
近代医療は、伝染病との戦いと言っても過言ではありません。
さまざまな伝染病に対抗するため、事前にワクチンを打って免疫をつくるという発想は、細菌学において、いわばコペルニクス的転回。
予防接種のおかげで救われた命は、全世界で今も増え続けていますが、それがパスツールの絶え間ない努力の賜物であることを知っているひとは、それほど多くはないかもしれません。

フランス、パリにあるパスツール研究所に、不思議な銅像があります。
犬に噛まれそうになっている少年の銅像。
少年の名は、ジュピーユ。
彼は、多くの仲間を助けるため、ひとりで狂犬に立ち向かいました。
奮闘のさなか、噛まれてしまいます。
狂犬病の犬に噛まれれば、命はありません。
でも、ジュピーユは助かった。
なぜなら、彼はパスツールが開発したワクチンを打っていたから…。
さらに、こんな話もあります。
フランスがナチス・ドイツに占拠されたとき。
パスツール研究所も没収されました。
守衛のジョゼフは、パスツールの墓を掘り起こそうとするナチスに鍵を渡すのを拒みました。命にかえて。
なぜならジョゼフは、9歳のときに狂犬に噛まれますが、ワクチンのおかげで助かったのです。
パスツールへの恩義は、一生をかけて守られたのでした。
近代細菌学の扉を開いたパスツールは、聖人君主、生まれながらの天才、だったのでしょうか。
ひとつでも多くの命を救いたいと願い続けたレジェンド、ルイ・パスツールが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

©Marion Kaplan/Alamy/amanaimages

ルイ・パスツールは、1822年12月27日、フランスに生まれた。
父は、牛や羊の毛皮を加工する、皮なめし職人。
自宅の地下を掘り、作業場を作った。
石油ランプを灯し、多くの薬品の匂いに包まれ、父は一日中、そこで作業した。
幼い頃からパスツールは、父がいる地下室の匂いが大好きだった。
棚に並んだ瓶を眺めていると、父が魔法使いに思えた。
父も母も、満足に学校を出ていない。
読み書きができなかった。
一家の生活は貧しかったが、明るい母と働き者の父のもとで、パスツールは元気に育つ。
父は、我が息子に、ちゃんとした教育を受けさせたいと願っていた。
戦争で戦地におもむいたとき、恥ずかしい体験をした。
ふるさとにいる家族に手紙が書けない。
仕方なく仲間の兵士に頼む。
「なあ、すまない、家族に手紙を出したいんだ、代わりに書いてくれないか?」
「え? おまえ、字が書けないのか? そうなんだ…書けないのか」
そのときの兵士の蔑んだような、呆れたような表情を、父は忘れなかった。
悔しかった。
戦争から戻ると必死で読み書きを覚えた。
こんな思いを子どもたちにさせたくない。
家は貧しかったが、中等教育だけは受けさせたいと願った。
パスツールの成績はいたって平凡。
どちらかというと要領は悪く、物覚えも遅い。
勉強よりも父と一緒に絵を画いたり、地下室で仕事を手伝うほうが好きだった。
そんなパスツールに、運命を変える出会いが待っていた。
のちに彼は、こんな言葉を残している。
「偶然というのは、準備のできていないひとを助けない」

近代細菌学の父、ルイ・パスツールは、小学生のとき、どちらかというと勉強ができない生徒と思われていた。
問題を出されても、すぐに答えられない。
試験でもたった一問に全ての時間を使ってしまう。
しかも頑固で、先生が解き方を示しても、自分で納得するまで先に進まなかった。
そんなパスツールを、じっと見つめるひとがいた。
小学校のロマネ校長。
彼はパスツールの、学問に対する粘り強い探究心を見抜いていた。
ある放課後、彼は廊下でパスツールを呼び止めた。
「キミ、パリの学校で学んでみないか?」
ロマネ校長は、小学5年生のパスツールに、パリで有名な高等師範学校、エコール・ノルマル・シュペリユールをすすめた。
通称 エコール・ノルマルは、フランスにおいて最高クラスの難関校。
でも、ここを卒業すれば「パリオルの学者」として、絶大なる尊敬を集めた。
思ってもみなかった目標を与えられ、パスツールは、天にも昇る気持ちになる。
父の作業場である地下室で薬品を眺めながら、科学者になる自分を想像してみる。ワクワクした。
どうすれば、エコール・ノルマルに合格できるか、さっそく調べた。
彼の言葉にこういう名言がある。
「偉大なひとは目標を持ち、そうでないひとは願望を持つ」

ルイ・パスツールは、憧れのエコール・ノルマルに入るため、まずは、パリのサンルイ高等中学校に入学する。
しかし、思わぬ挫折が待っていた。
激しいホームシック。
初めて親元を離れた彼は、あまりの寂しさに夜眠ることができず、毎日泣いて過ごす。
勉強など手につかない。
結局、2か月ほどで退学。
両親が住む田舎町に戻った。
そのとき救いだったのは、父も母も決して怒らなかったこと。
特に母は、笑顔で迎えてくれた。
「よく帰ってきたねえ、無理することなんかないよ。
人生長いんだから、どうすればいいか、ゆっくり考えればいいんだよ」
しかし、失意と後悔の地獄が待っていた。
ダメな自分を責め、クラスメートに置いていかれた恥ずかしさで、食事ものどを通らなかった。
地下室にいると、すっと心が楽になる。
どうしてエコール・ノルマルに行きたかったのか。
「そうだ、ボクは誰かの役に立つ人間になりたいと願ったんだ。
その目標に辿り着くための道は、ひとつではないはずだ。
ボクはボクのやり方で、道をさがそう」
地元の中学に編入したパスツールは、もうくじけることはなかった。
失意の日々があったからこそ、学べる環境がうれしかった。

「ひらめきは、それを得るために長い間苦しみ、準備した人間にのみ与えられる」
ルイ・パスツール

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