yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

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第463話 日常におかしみを見つける
-【静岡にまつわるレジェンド篇】戯作者 十返舎一九-

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江戸時代後期に大ベストセラー『東海道中膝栗毛』を書いた戯作者がいます。 十返舎一九(じっぺんしゃいっく)。 戯作者の戯作とは、江戸時代に流行った、通俗小説を含む、読み物のこと。 36歳のときに、自分は書くことで自立すると決意して、以来、戯作だけを生業とした一九は、執筆活動だけで生計をたてた最初の作家だと言われています。 一念発起して、わずか1年後に出した『東海道中膝栗毛』は、主人公の弥次郎兵衛と喜多八、いわゆる、弥次さん喜多さんの東海道の旅を描いた連載小説。 「膝栗毛」とは、自分の膝を栗毛の馬にたとえた表現で、「歩いて旅する」という意味です。 1802年に初編が出版され、人気が人気を呼び、8年間の連載。 気がつけば売れっ子作家になり、うんうんうなって執筆する机の隣で編集者が原稿を待つという、現代に通じる光景が、彼の随筆に残っています。 なぜ、『東海道中膝栗毛』は、そこまで庶民の心をつかんだのでしょうか。 一九は、同時期に活躍した作家、山東京伝(さんとう・きょうでん)や『南総里見八犬伝』の曲亭馬琴(きょくてい・ばきん)に比べると、圧倒的に知的教養が劣っていたと言われていますが、彼には、普遍的な「人間のおかしみ」を捉える感性があったのです。 『東海道中膝栗毛』に、時代の風刺や、政治や経済についての皮肉はありません。 あるのは、ただ、日常のおかしみだけ。 そこに人々は共感し、失敗して騒動を起こす弥次さん喜多さんを笑うことで、日々の苦しさやストレスから解放されたのです。 一九の出自や生涯については、明確な文献がとぼしく、所説ありますが、ただ一点、彼が大切にしたものは一致しています。 それは、彼に偏見がなかったこと。 当時の江戸は地方者をさげすみ、笑うという風潮がありました。 でも、一九は違いました。 彼はひとの生まれ育ちではなく、人間本来が持つ、どうしようもない哀愁、おかしみを見ていたのです。 静岡が生んだ唯一無二の作家、十返舎一九が人生でつかんだ、明日へのyes!とは? 江戸時代後期の作家、十返舎一九は、1765年、駿河国、現在の静岡県静岡市に生まれた。 出生は明らかではないが、駿河の町奉行に仕える下級武士、同心の子だったと言われている。 今も駿府城界隈は、一九ゆかりの石碑や史跡が多くみられ、駿府城を背景に弥次喜多の銅像と写真を撮ることができる。 一九は、父にならい、10代から町奉行の職についた。 彼が奉公したのは、そのとき、駿府に赴任していた旗本、小田切直年(おだぎり・なおとし)。 小田切は幕府の信頼が厚い名君だった。 10代後半の最も多感な時期に、小田切の裁きを間近で見ることができたのは、一九にとって、人生の宝物を贈られたのも同然だったに違いない。 いきなり立ち会ったのは、男性同士の心中事件。 小田切は、公平で冷静。どんな裁きにも偏見や差別がなかった。 小田切は、一九に言った。 「先入観や他人の情報で、目を曇らせてはなりません。 大切なのは、行動の源にある、欲望を見据えることなのです」 十返舎一九は、16歳で江戸に武家奉公に出た。 初めての江戸の町。活気あふれる雰囲気に圧倒される。 スラっと背が高く、なかなかの二枚目だったが、口がうまくない。 田舎者と思われるのも怖く、人とうまく話せなかった。 そんなとき、彼が夢中になったのが、木版で刷られた本だった。 浮世草子、黄表紙、浄瑠璃本。 主君の目を盗んでは、版元に通った。 物語の世界にのめりこむ。 読んでいる間は、辛い日常を忘れることができた。 見よう見まねで、絵を描く。文章を書いてみる。 誰かに見せるわけでもなかったが、幸せな気持ちになれた。 それから7年後、小田切直年に同行して、大坂の地を踏む。 このときすでに、素人とは思えない、物語をつむぐ才覚を発揮していた。 近松与七(ちかまつ・よしち)というペンネームで浄瑠璃本を書いた。 ただ、あくまでも二足の草鞋。 「文章だけで食べれるようになりたい」 いつしかそれが、一九の、人生の目標になった。 30歳の時、再び江戸に戻った十返舎一九は、真っ先に、かつて通った版元を訪ねた。 その版元の頭こそ、洒落本や浮世絵のヒットメーカー、蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう)だった。 蔦屋に頼み込み、食客、すなわち、住み込みの書生になることを願い出る。 飯炊き、掃除、木版の手伝い、挿絵画きまでして、文章を学ぶ。 ある日、一九は、蔦屋に相談した。 「先生、僕は、筆だけで生きていきたいんです。 でも、そんなひとは先人にいません。 みんな他に生業を持っている。 どうしたら良いでしょうか」 蔦屋は、煙管をポンと叩き、言った。 「とてつもなく売れる本を、お書きなさい」 「とてつもなく売れる本とは?」 「それは、江戸のひとだけではなく、日本中のひとが読みたくなる本です。 もっと言えば、ふだん本を読まないひとが読む本です」 そうして、一九は、他のひとがやらない方法で物語を書いた。 自分で歩いて、その実感をもとに日常のおかしみをしたためる。 名所案内ではない。食と色。 人間の欲望に寄り添った、誰もが笑える滑稽本。 『東海道中膝栗毛』は200年以上経った今も、愛され続けている。 【ON AIR LIST】 ◆弥次さん喜多さん / 榎本健一 ◆真夜中の弥次さん喜多さん / 長瀬智也、中村七之助 ◆I'm Walkin' / Harry Connick Jr. ◆Rainy Song / Tiny Step "Southside" Trio ◆旅人 / スピッツ
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RECIPE

レシピ

霜降りひらたけのマヨわさサラダ

十返舎一九が生まれた、現在の静岡県静岡市が“わさび栽培発祥の地”と言われていることにちなみ、わさびを使った料理をご紹介します。

材料 (2人分)
  • 霜降りひらたけ 100g
  • アボカド 1/2個
  • まぐろ(刺身用) 50g
  • 【A】わさび 5g(お好みで)
  • 【A】マヨネーズ 大さじ2
  • 【A】しょう油 少々
写真 カロリー / 179kcal(1人分)
調理時間 / 15分
使用したきのこ / 霜降りひらたけ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、耐熱容器に入れ、お湯を張った深めのフライパンに入れてフタをして中火で3分ほど蒸す。
  • 2.
  • アボカドとまぐろは食べやすい大きさに切る。
  • 3.
  • 【A】を混ぜ合わせ、(1)と(2)と和える。

yesとは?

番組概要

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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