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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

25.04.09

パブリックコメントで異常な件数、相次ぐ…その原因と必要な対策は?

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
本日は、情報社会学がご専門の学習院大学・非常勤講師、塚越健司さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!


「パブリックコメントで異常な件数、相次ぐ…その原因と必要な対策は?」

吉田:行政機関が政省令などのルールを定めるときに、事前に一般から意見を募集する「パブリックコメント=パブコメ」の件数が従来と比べて急増する事態が相次いでいます。塚越さん、まずはパブリックコメントをめぐる今回の動きについて、詳しく教えてください。


塚越さん:パブリックコメント=パブコメという言葉、聞いたことがあるという人も多いと思います。国が政令や省令、また重要な政策方針を決定する際に、透明性や公正さを確保して国民の意見を反映させるために意見を募る「パブコメ」を行っています。こちらは法改正によって2006年から実施が義務付けられていて、募集期間は原則30日以上となっています。このパブコメ、政府によると2023年度は寄せられた意見は1案件あたり平均70程度だったのですが、2024年度はその8倍くらいに一気に増えています。ものによっては、1万件や2万件を超えるケースも増えているということです。例えば去年11月に募集した感染症予防に関する政令改正の時には9万件あまり、また去年12月から募集した国の「エネルギー基本計画」は、およそ4万件ほど意見を寄せられたとのことです。


吉田:こうした異常な件数の原因は、分かっていますか?


塚越さん:国民の関心が増えたから意見が増えたかというと、そうとも限りません。例えば、先ほどの「エネルギー基本計画」に寄せられたパブコメは、主に原発に反対する意見が多かったのですが、細かい表現を含めて全部同じ内容だったり、「反対」と一言だけ書かれただけのものも1,000件以上ありました。さらに、同じ人から400件以上も意見を出しているというケースもあったとのことです。この背景には、SNSでパブコメの提出を求める動員があり、意見の「雛形」を投稿しているケースがみられました。こういう意見の雛形を送るので、これを参考にしてみなさまに送りましょうと。この雛形にちょっと手を加えちゃえば、すぐに提出できます。さらには、生成AIを利用したり、匿名や偽名による連続投稿もみられるということです。自分の意見を届けるというより、数を出すことが目的になっちゃってないか?という疑念が持たれています。一方、大変なのは行政です。例えば農水省が行った、食糧不足の政策方針に関するパブコメは、およそ1万3,000件ほど寄せられました。その半数は、最後の数日に意見が寄せられたのですが、やっぱりここではネットの呼びかけがあって最後の数日で半分以上がありました。しかも、中身はほとんど同じものだったということです。複数の省庁の関係者も、SNSでみられた文面と明らかに同じような意見が多いと言っています。それでも、送られたら職員は読まないとならないので、農水省の担当者の方は、意見を汲み取る大事な制度だけれど、手作業で読むので大量すぎると意見の「くみ取り」が難しくなると話しています。1人が1回送るなら分かりますが、同じ方が大量に送るなど色々問題はあるのかなと思います。


ユージ:こうした状況を受け、どのような対策が必要だとお考えですか?


塚越さん:まず、いくつか対策が考えられています。1つは、ネットの住所といわれるIPアドレスがあります。IPアドレスが分かるので、同じIPアドレスから複数送られている場合は、原則受け付けませんよということになっています。政府内でもこういう案があるようです。もう1つは、提出の際にメールアドレスを記載してもらって、「同じメールアドレスから何回もダメ。1人につき、原則1回にしましょう」となっています。こういうことをやるとある程度、防げるのかなと思います。とはいえ、色々面倒ではありますがメールアドレスを大量に取得する、IPを別のものにするなど可能なので根本的な対策は、なかなか難しい点もあるのかなと思います。


ユージ:パブリックコメントをめぐる今回の動き、どうご覧になりましたか?


塚越さん:今回は、特にSNSで動員が行われてしまっているので、先ほどお話したように1人が何度も送れないようにする仕組みは大事かなと思います。ただし、その上で同じような意見が多い場合は、多数決ではありませんが、ある程度いろんな方が賛成・反対でもそうした意見があることを行政は把握する必要があるかなと思います。そういったものが現状で動員で起きたものなのか、民意なのか、なかなか完璧に判断するのは難しい部分もあるのかなと思います。専門家の方は、代案として複雑なテーマの場合はパブコメではなく、最初から無作為で選んだ人たちにアンケートをしたり、専門家にレクチャーしてもらってから深く議論する「熟議」などを行った方が適切だと述べています。今考えられている対策でも問題が解決しないなら、代案としてはいいのかなと私は思います。いずれにしてもSNSで関心が高まることはとても素晴らしいことですが、SNSで動員も簡単になると、何が国民の民意なのか。みんなが思っていることって何なんだろうって結構難しいですよね。サイレント・マジョリティが沢山いて、それが民意だと思いますが声が色々出てくる中で難しいです。この問題はパブコメだけでなく、SNSがもたらす副作用などの問題なのかなと思います。


そして、今日の #ユジコメ はこちら。





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