25.01.16
高校の授業料無償化、期待と課題
ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
本日は、情報社会学がご専門の城西大学助教、塚越健司さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
「高校の授業料無償化、期待と課題」
吉田:自民党、公明党と日本維新の会は先週、教育無償化に関する3回目の政策協議を国会内で開きました。日本維新の会は、所得制限のない高校授業料の無償化を今年4月から実施するよう要求しています。そこで今朝は、高校の授業料無償化について塚越さんと考えていきます。
ユージ:塚越さん、高校の学費の現在も支援金制度がありますよね?
塚越さん:そうですね。今の制度では、年収目安で590万円未満の世帯では、公立高校の授業料でおよそ12万円。私立高校だとおよそ40万円まで助成されます。それ以外にも年収910万円未満の世帯にも助成がありますが、それ以上の世帯にはありません。人にもよりますが、現状でも支援はある程度全国で展開されています。
吉田:こうした国の制度に加えて、自治体独自の制度もありますよね?
塚越さん:東京都と大阪府は、2024年度から独自に、所得制限の撤廃と助成金の上限引き上げを決定しています。原則として東京都と大阪府に住んでいる人が対象で、東京の場合は都内の私立校の授業料の平均である、およそ48万円を上限としています。大阪は段階的に助成を広げて、完全無償化を目指しています。また、日本維新の会は「全国で」この所得制限のない無償化を要求していて、自民公明と3党協議を進めています(よくニュースにもなっていますね)。補助の水準を引き上げて、実質的な無償化を今年4月から始めたいということですが、現実的には難しく、できても2026年度からという声もあります。
ユージ:高校の授業料が無償化されると、どんな効果が期待できそうですか?
塚越さん:1つは、特に収入の厳しい世帯の進学率向上が挙げられます。教育格差の是正につながる点です。もう1つは、私立は公立に比べて授業料が高いわけですが、補助によって私立高校も選択肢に入る生徒が増えるという意味で、良い点かなと思います。もちろん、子育て世代への経済的負担が大幅に軽減されるので、そうした家庭への支援にもなります。同時に、授業料分を塾の費用などにも回せるというメリットがあります。
吉田:では、課題は何でしょうか?
塚越さん:まずは「財源」ですね。維新によれば、財源は6,000億円とのことです。他にも、例えば大阪では2024年度から本格的な無償化を導入していますが、私立への進学率が上がる一方、公立では定員割れを起こす高校が増えたというデータもあります。生徒の進学先がこれまでと大きく変わることで、学校ごとに教員の負担が過度に増えたり減ったりする学校も出てくると思います。さらにいうと、授業料で横並びなら、特に私立ではこれまで以上に学校独自の魅力を伸ばさなくてはなりません。これ、良い意味で競争原理が生まれるとも言えますが、教育の場合、過度な競争は格差の助長にもつながる可能性があります。あるいは逆に、補助金が同じ額になると、これまであった競争がなくなって、これまた「悪い意味で」競争が生まれなくなってしまうかもしれません。こう考えると、けっこう判断が難しいですよね。実際は細かな調整を続けていく必要があるかなと思います。さらなる課題は、最初に話した内容と裏返しになりますが、所得制限のない完全無償化は、結局のところ富裕層が塾の費用などに回す。結局、受験戦争の過熱を呼んで、教育格差が広がるという話もあります。さらに、私立は授業料が無償になっても、例えば修学旅行等で海外に行くなど公立より何かとお金がかかります。ここで生徒間の格差が出てきてしまうことも課題に挙げられます。こう考えると、いいことだけど課題も多いということも感じますね。
ユージ:塚越さんは、高校の授業料無償化についてどう思いますか?
塚越さん:教育無償化は、名前だけ聞けば素晴らしいことだと思います。実際には細かな点で課題がありますので、絶えず細かな調整が必要です。一方、教育無償化の議論は共産党が長年主張してきましたし、維新もいろんな案を出していて、政策に関する議論が増えるのも良いことです。自民党が少数与党となっている現在、政局的な報道もありますが、私たちも内容をきっちりと理解して、政策の細かな部分で判断するのも大事かなと思います。お話ししたように、けっこう論点があるかなと思います。制度が新しくなっていくので、周知徹底が大事です。お子さんのいるご家庭はちょこちょこ制度が変わるので、確認が必要になります。私たちも、きちんとお伝えすることが大事かなと思います。
ユージ:全員、一律で無償化なのか、申請をしなければいけないのか。申請が必要な場合は書類が複雑だったりとか、色々向き合わないといけない問題があるのかな?と思いますね。
塚越さん:その辺りをどうするかですね。自治体ごとに多少違いもあって、やり方もあると思うので、その辺りの判断も重要になってくるのでよく見ておくこと。政策では、まだまだ様々な議論するべき点があるので、ここも見ていく必要があると思います。