24.11.28
1万人に迫る上場企業の早期・希望退職者の募集数
ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
本日は、情報社会学がご専門の城西大学助教、塚越健司さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
「1万人に迫る上場企業の早期・希望退職者の募集数」
吉田:東京商工リサーチが先週、上場企業が今年に入って募集した早期希望退職者数が今月15日時点で9,219人に上ったと発表しました。年間で3,161人だった去年の3倍近くに達し、1万人の大台に迫っています。希望退職の募集は年末に増える傾向があり、今後さらに拡大する可能性もあるこの動き、背景には何があるのでしょうか?塚越さんと探っていきます。
ユージ:塚越さん、まずは東京商工リサーチが発表した上場企業の「早期・希望退職募集」の状況について教えてください。
塚越さん:今年の1月から11月15日までの「早期・希望退職募集」が判明した「上場企業」は53社です。去年が36社だったので、およそ1.5倍です。対象人数も9,219人と去年の3倍程度ということで、このペースだと、2021年以来、3年ぶりに1万人を超えることがほぼ確実ですね。
吉田:3年前、2021年は、コロナ禍でしたが、コロナ前などと比較するとどうでしょうか?
塚越さん:退職者募集、多かったのは、リーマンショックの翌年の2009年で2万2,950人。東日本大震災後の2012年は1万7,705人、コロナ禍で旅行や小売といったサービス業が打撃を受けた2021年は1万5,892人。こうした記憶に残る経済的打撃がない中で、1万人を超えるとなると、大きい規模なのかなと思います。商工リサーチの担当者によると、去年までは人手不足で退職募集は減っていたのですが、コロナの影響が落ち着いて、グローバルで展開する製造業で大規模な募集が増えているとのことです。
ユージ:どういう企業や業界でその動きがあるのでしょうか?
塚越さん:業種で多いのは「電気機器」メーカーです。シャープは大型液晶パネルの生産停止があり、500人規模の退職を募ったり、リコーは国内で1,000人程度を募集しています。ただ重要なのは、こうした早期・希望退職を募集した53社の上場企業の利益でいうと、黒字は60.3%。赤字が39.6%ということです。6割の企業は黒字なのに希望退職を募集しているのが特徴です。
ユージ:黒字なのに、赤字だから退職ではなく、黒字で退職という希望退職の募集が増えているのは何でしょうか?
塚越さん:これまでの希望退職者の募集は、リーマンショックや3.11、コロナなどの影響で業績が悪化したからであって、業績が回復すれば募集は落ち着く傾向があるということです。もちろん、今も経済が好調とは言えませんが、黒字企業であっても、コロナの影響でできなかった構造改革(不採算事業の見直しなど)を、このタイミングではじめているといえます。例えば、ソニーグループはゲーム子会社で国内外900人の希望退職を募集していますが、コロナの巣ごもり需要で伸びたけれど、今後どうなるか分からないので、余裕があるうちに身軽にしようと考えていると見られます。つまり、企業は5年〜10年先を見据えて先手を打っています。重要なのは、ミドル層だけでなく場合によっては入社3年目の若手の希望退職も募集するケースもあります。そうなると、若くても退職金の上乗せや一時金が出るケースがあります。
ユージ:企業も若手には、長く働いて欲しいような気もしますけどね。
塚越さん:そうですよね。ジョブ型雇用と言われますが、競争が激しい社会で、企業も新卒を育てるだけでなく、特定分野で流動的に働ける人材の中途採用を厚くしているところもあります。
ユージ:そうか。新卒を育てるのに時間やコストもかかりますからね。
塚越さん:とにかく動きが早いので、5年を超えたら変わってしまうこともあるわけです。終身雇用という考えも難しくなるので、ずっと企業にいたいという方は不利になるのですが、一方で退職金の上乗せや一時金でスキルアップを狙うことも考えられます。とりわけ20〜30代は有利な条件で再就職できるケースもあります。
吉田:希望退職の募集、塚越さんは、今後どうなっていくと思いますか?
塚越さん:基本的には業績悪化というところで募集は増えると思いますが、今度は企業が新規事業への投資のために退職募集をする動きもあるかなと思います。これは、基本的に大企業の話をしていますが、中小企業でも同じになってくるかなと思います。こういう状況では、我々、労働者は会社にいながらも気持ちは「個人事業主」という感じで、良くも悪くも会社におんぶにだっこではなく、自分で色んな経済の動向、政治の動向、業界動向をみていく必要があるかなと思います。企業が先手を打っていくので、厳しいと思うことも多いですし、そう思う方もいると思うのですが、逆に言うとこれをチャンスということにして、もし希望退職ということであれば、お金を一時頂いて次のステップのためによりいい業界にいくことも1つ考えられます。そういう風に考えていかないと、これは“ピンチはチャンス”にという考え方にしていく機会として、このニュースを見るのがいいのかなと思います。
ユージ:希望退職を求める企業がいれば、逆に人手不足で困っている企業もいるということで、上手くバランスにハマればいいなと思います。