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24.11.25

厚生年金の保険料を国民年金に流用。会社員と公務員は割に合わない?

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。


「厚生年金の保険料を国民年金に流用。会社員と公務員は割に合わない?」

吉田:国民年金の給付水準を底上げするため、会社員等が入る厚生年金の積立金の一部を国民年金の給付にあてることを厚生労働省が検討しているというニュースが物議を醸しています。神庭さん、改めて国民年金・厚生年金とは、どういうものか教えてください。


神庭さん:年金は3階建てになっていて、1階が「国民年金」。自営業者や主婦・学生も含めて、日本に住む20歳以上60歳未満の全ての人が入るもので「基礎年金」ともいいます。そして、2階が会社員や公務員が加入する「厚生年金」です。報酬によって増減します。さらに、その上の3階に私的年金であるiDeCoや企業年金がきます。今回のニュースを簡単にまとめると、「1階の国民年金がピンチだから、2階の厚生年金から流用するね。厚生年金を積み立ててきたサラリーマンの人はゴメンね!でもお金余ってるからいいでしょ?どうせサラリーマンだって国民年金には入ってるんだし」とこんな感じです。


ユージ:なるほど。SNSではどんな反応でしょうか?


神庭さん:夏に同様の報道が出た時には、なぜか反応が鈍かったですが、今回はX(旧Twitter)上で批判が殺到しています。「厚生年金の横流しは横領」「人が貯めたお金勝手に使うとか、泥棒じゃん」「サラリーマンをATMだと思っている」「これはもう働いたら負けですね」などなど、厳しい指摘が相次いでいます。


ユージ:その気持ちも分からなくありません。この反対があっても厚労省は、何で流用したいのですか?


神庭さん:これは「マクロ経済スライド」といって、年金の給付と負担をバランスさせるための仕組みが関係しています。高齢化で年金支給額がどんどん増えるからといって、現役世代の保険料負担を青天井で増やしまうと現役世代が支えきれずにパンクします。そこで、2004年に導入したのがマクロ経済スライドです。保険料率の上限、負担の天井を決めて、それ以上は増やさないようにする。物価や賃金の伸びに比べて、年金額を抑制する仕組みです。マクロ経済スライドによる給付額の抑制が、2階の厚生年金に関しては、2年後の2026年度に終わるのに対して、1階の国民年金部分は33年後の2057年度まで長期化する見通しです。それだと、国民年金しか払っていない人は低年金で生活が立ち行かなくなるかもしれない。「だから好調な厚生年金さん、助けてください」という話です。


吉田:会社員からすると、あまりいい話のないように感じますが、逆にメリットはありますか?


神庭さん:1階にあたる国民年金の給付水準は、今の仕組みよりも3割ほどアップする見込みです。擁護意見も紹介しておくと、日経新聞の田村正之編集委員は、「2階部分の厚生年金が少し減っても基礎年金が大きく増えるため、大半の会社員の年金合計額は一部期間を除いて最終的に増える」とコメントしています。年収が40年間、1,080万円を超える会社員の場合は給付水準が下がってしまいますが、田村正之編集委員によると、厚生年金受給者の0.1%の話で、99.9%の会社員の年金額は増えるそうだ。


吉田:年金をめぐっては、働く高齢者の「在職老齢年金制度」の見直しも検討されていますね?


神庭さん:「在職老齢年金制度」というのは、65歳以上で働いている高齢者のうち、一定の収入がある人の年金額を減らす仕組みです。現状、給与と厚生年金を合わせて月50万円を超えると、超過した分の半額が支給されなくなります。これだと高齢者の働き控えにつながるので、ボーダーラインを月50万円から62万円や71万円に基準額を引き上げる案が出ています。「働き損」の解消はいいですが、問題なのが、その財源として現役世代である高所得の会社員で保険料負担を増やそうとしていることです。高齢世代で、それも比較的稼いでいる人のために現役世代に負担を求めるのは筋が違うのかなという気がします。


ユージ:一連の年金改革、神庭さんはどう受け止めましたか?


神庭さん:現役世代の負担が増えすぎないように、高齢者への給付を抑えるための仕組みがマクロ経済スライドだったはずです。給付が減るのは制度の狙い通りの結果であって、「減りすぎちゃうから厚生年金から流用させて」というのはおかしいと思います。給付を減らしたいのか、減らしたくないのかどっちなんだい、という話です。高所得者だけだからいいだろうとか、会社員にもメリットがあるというのは的外れで、僕は、流用自体が良くないと思います。民間の保険に置き換えてみたら分かりますが、「A保険は好調だから、B保険に保険料回させてもらいますね」なんて言ったら暴動が起こると思います。保険というのは本来、自分や家族に起こり得るリスクに備えて、保険料を支払うものですから、低年金の人、無年金の人を助けよう、再分配しようというならサラリーマンだけでなく、全世代の人に公平に負担を求めて、税金で手当てするべき話だと思います。国民年金の未納者は79万人もいます。サラリーマンの財布に手を突っ込む前に、まず未納者から1人残らず保険料を徴収していただきたい「順番が違うでしょ」と言いたいです。

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