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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

24.08.13

話題の“座ってイイッスPROJECT”

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。


今日はダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。神庭さんが注目した話題はこちらです。


「話題の“座ってイイッスPROJECT”」

吉田:アルバイト情報サイトが始めた「座ってイイッスPROJECT」という企画が注目されています。神庭さん、どんなプロジェクトでしょうか?


神庭さん:アルバイト情報サイトのマイナビバイトが始めたプロジェクトで、パートやアルバイトの仕事中に腰掛けられるようなイスをつくって賛同する企業に一部無償配布しています。靴の販売店や書店、ドラッグストア、ディスカウントストア、複合商業施設など、様々な企業が参加しています。


ユージ:どんなイスでしょうか?


神庭さん:どっかり座り込むようなイスではなく、背もたれや肘掛けのない、いわゆる「スツール」です。ちょこっと腰掛けるようなイスで、作業中でも立ったり座ったりしやすいです。軽くてコンパクトであること、お客さんからのイメージが悪くならないように「姿勢よく座れる」ことを意識して、イスの製造会社とわざわざ共同製作したということです。


ユージ:なるほど。少し高めのイスなんですね。


神庭さん:プロジェクトの担当者は「アルバイトの“立ちっぱなし問題”解決に向けて、本プロジェクトを通して少しでも貢献できれば」とコメントしています。


吉田:なるほど。接客業の方々も当然、仕事中でも座りたいという思いがありますよね。ずっと立っているのも大変ですからね。


ユージ:そうだよ。足がパンパンになっちゃうからね。


神庭さん:「座ってイイッスPROJECT」のアンケート調査によれば、パート・アルバイトで働く人の65%が接客中に「座りたくなる時がある」と考えています。そして、イスに座りたくなる時のトップ3は、「疲れている時」61.2%、「体調不良の時」50%、「お客さんがいない時」45.7%。何でいない時まで立っていなきゃいけないんだということですよね。一方、接客中にイスに座ることを許可している雇用主は23.3%と少ないです。許可しない理由は「お客さんからの印象の悪化を防ぐため」が33.8%で最多。そして、次が「なんとなく・特に理由はない」が25.6%もあります。


ユージ:理由がないなら、全然、座っていいですよ。


神庭さん:僕もそう思います。実は他にも似たような動きがあって、「#座ってちゃダメですか」というプロジェクトもあります。こちらは、スーパーなどで立ち仕事をしている労働組合の人たちが参加しているもので、5月に厚生労働省へ要望書を提出しています。実は「労働安全衛生規則」の615条には次のように定められています。事業者は、持続的立ち仕事に従事する労働者が就業中しばしば座ることのできる機会のあるときは、当該労働者が利用することのできるイスを備えなければならないルールがあります。弁護士ドットコムニュースによれば、このプロジェクトのメンバーは安全衛生規則に凡例して、「イスを設置する具体的な事例集を作成すること」「各事業所が省令を実践できるよう周知を徹底してほしい」というようなことを要望しています。厚労省の担当者も「非常に大切な指摘で、重く受け止めています」と答えたそうです。


吉田:座ったままでの接客、神庭さんはどう見ていますか?


神庭さん:どんどん進めるべきだと思います。しっかりお会計さえしていただけるなら、店員さんが途中座っていようがお水を飲んでいようが、お客さんからしたら全然問題ありません。ただでさえ人手不足で、接客業・サービス業に人が集まりづらくなっています。時給を上げるのももちろんですが、職場環境も改善していかないと労働者の方々にそっぽを向かれてしまいます。雇用主の側も、従業員に「ここで働きたい」と思ってもらえるような努力をしていく必要があると思います。


ユージ:僕も激しく同意します。ただ、従業員さんが座ってると、クレームを言うお客さんがいるかもしれません。例えば、従業員が沢山いるなかで1人だけ座っているとコイツ、何か不真面目だなとみえてしまいます。そのあたりはどうですか?


神庭さん:この話はカスタマー・ハラスメント、カスハラ問題とも地続きになっています。労働組合でつくるUAゼンセンのアンケート調査によれば、直近2年以内にカスハラ被害に遭った人は46.8%。


ユージ:すごい多いですね。


神庭さん:2人に1人です。でも、「店員は客を立ってもてなすべきだ」「勤務中に座るなんてけしからん」という発想自体、度が過ぎるとカスハラになりかねません。そもそも論で、そんな風に考えている人がどれくらいいるのか?という疑問もあります。雇用主が「お客さんの印象の悪化」を懸念して、座っての接客を許可していないというアンケート結果がありましたが、それを聞いて思い出したのが、太宰治の「人間失格」のこんなくだりです。(それは世間が、ゆるさない)(世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?)「お客さんが…」「世間が…」というのが、想像の中で膨らみ過ぎて、実態以上に恐れ過ぎている部分があるのかなと思います。実際には「別に座っててもいいじゃん」という人が結構いると思います。少なくとも「特に理由はないけど、なんとなく禁止している」というお店に関しては、座っての接客を解禁してもいいのではと思いますし、「お客様は神様、何でも要求できる」というのは過去のもので、昭和で終わらせなければいけなかったものだと思います。令和の時代にはお客さんの「人間宣言」こそが求められていると思いますし、お客さんも店員さんも対等で、「お客様」じゃなくて「お客さん」というスタンスでいいと思います。


ユージ:全然いいです。あと、お店側が「当店は、座って接客します」といったアナウンスをしっかりして欲しいですね。個人のアルバイトの方が座るのは、勇気がいるからお店側がそこは背負って言っていただけると助かるなと思います。

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