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24.08.06

OPECプラスが原油の減産を維持へ。日本への影響について

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。


今日はダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。神庭さんが注目した話題はこちらです。


「OPECプラスが原油の減産を維持へ。日本への影響について 」

吉田:OPEC加盟国と、ロシアなど非加盟の産油国を加えた「OPECプラス」は各国の原油の生産状況などを点検する監視委員会を開き、現行の減産計画を維持する方針を確認しました。社会科で習いましたが、改めてOPECについて教えて下さい。


神庭さん:石油輸出国機構。1960年にイラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの5カ国で設立されました。キッカケになったのは、石油メジャー(国際石油資本)が一方的に原油価格を引き下げたことです。こうしたメジャーの動きに対抗して、結束して産油国の利益を守るために設立されました。現在の加盟国は、先ほどの5カ国にリビア、アラブ首長国連邦、アルジェリアなど7カ国が加わった12カ国。そしてOPECプラスというのは、OPECにロシア、メキシコなどの11カ国が加わった枠組みで2016年に発足しました。OPECの12カ国に、11カ国が加わってOPECプラスは合計23カ国。加盟国には入れ替わりもありますが、日経新聞によるとOPECプラスの世界シェアは昨年の段階で、5割にもなります。


ユージ:世界の半分ってことですよね!これはかなり影響力の強い集まりですね。今回の「減産を維持する」というニュースについて詳しく教えてください。


神庭さん:時事通信やロイター通信などの報道によるとOPECプラスは、正式な枠組みとして1日366万バレル、サウジアラビアなど有志の8カ国の自主的な取り組みとして220万バレルの減産をしています。世界需要の実に5.7%に当たる量です。このうち前者の366万バレルについては来年末まで延長することが6月の段階で決まっています。後者の有志による220万バレルの自主減産に関しては、今年10月から来年9月までに段階的に縮小するということです。「減産の縮小」って二重否定のようでわかりづらいですが、減産する量を減らすのだから原油の供給は増えます。一方でOPECプラスは「自主減産の段階的な縮小は、一時停止もしくは撤回される可能性がある」とも含みも持たせています。


吉田:OPECが減産する狙いは何でしょうか?


神庭さん:産油国の利益を守り、最大化することです。供給が増え過ぎると原油価格が下がります。過去にはアメリカのシェールオイルに対抗する形でサウジアラビアが原油の増産に走り、値崩れしてしまったこともあります。そうならないように供給を絞って価格を維持しようとしています。ただ、OPECのメンバーも必ずしも一枚岩というわけではなく、拠出金を払いたくないとか、減産に従いたくないとかの理由で脱退していく国もあります。アフリカのアンゴラは、1日110万バレルの産油量がありますが「OPECにとどまっても何の利益も得られない」として、昨年末に脱退表明しています。


ユージ:こういった中で、やはり気になるのは日本への影響です。素人的には、ガソリン代は高いままなの?と思いますがどうですか?


神庭さん:そこ気になりますよね。あくまでも「減産によって原油価格が上がれば」という条件付きでの話になりますが、ガソリンや灯油、電気料金が上がることになります。またエネルギー価格の高騰は、製造業や運輸業に直撃しますから、ありとあらゆるモノの価格が上昇してインフレに拍車がかかるかもしれません。家計の負担が増えて消費が低迷すれば、経済成長は鈍化します。日本の貿易赤字が拡大し、為替は円安に振れるリスクもあります。電力政策を見直して原子力を増やそう、いや再生可能エネルギーを増やそうみたいな議論につながっていく可能性もあります。ただ、「原油価格が上がれば」という条件付きでお話ししたように、そもそも減産しても必ずしも原油価格が上がるとは限りません。


ユージ:え、そうなんですか!?どういうことでしょうか?


神庭さん:価格を決めるのは、供給と需要の2つの要素があります。原油の供給を絞ったところで、需要がしぼんでしまえば価格が下がるということもあり得ます。むしろ、最近そちらの可能性の方が増してきています。原油需要が旺盛な国といえば中国とアメリカです。中国は不動産バブルの崩壊で成長が鈍化し、経済が冷え込んでいる。これから日本のバブル崩壊の再来になるのではないか?と言われています。一方のアメリカも、7月の雇用統計で雇用者数の伸びが、市場の予想を下回りました。失業率も4.3%と3年ぶりの高水準になっています。景気後退への懸念から株価も急落しています。世界経済の牽引役であるアメリカと中国が失速すれば、当然、原油の需要も減ります。実際、原油先物相場も下がっています。


吉田:ということは、日本も安心かもしれないということでしょうか?


神庭さん:そうとは言い切れません。米中の景気が失速すると日本経済も大打撃で実際に株価も下がっています。たとえ原油価格が下がったとしても安心とは言えません。大事なのは、減産という供給側の論理だけでなく、需要についてもしっかり見ることです。いま説明したこと以外にも、原油価格が「上がる要因」としては中東などの地政学リスクの上昇があります。「下がる要因」としては中長期での再生可能エネルギーへのシフトなどがあります。こういった複雑な要素のせめぎ合いで価格が決まっていきます。なので、「木を見て森を見ず」にならないように、原油だけでなく、経済全体の動向を見据えて考えていくことが大事かなと思います。

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