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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

24.08.05

オリンピック選手への誹謗中傷問題

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。


今日はダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。神庭さんが注目した話題はこちらです。


「オリンピック選手への誹謗中傷問題」

村田:パリオリンピック、日本人選手の活躍で盛り上がっていますが、一方で選手や審判などに対する誹謗中傷が問題になっています。そうしたなか日本選手団は1日、SNSなどを通じた誹謗中傷について「侮辱や脅迫などの行き過ぎた内容に対しては、警察への通報や法的措置も検討する」との緊急声明を出しました。


神庭さん:実際にSNS上での目に余る誹謗中傷があり、JOCもようやく重い腰を上げたということです。例えば、柔道女子52キロ級・阿部詩選手のケースでは、敗退して号泣する阿部詩選手に対して「日本の恥」「幼稚園児みたいでみっともない」といった声が出ました。阿部詩選手はInstagramで《情けない姿を見せてしまい申し訳ありませんでした》と謝罪しましたが、阿部詩選手が取り乱し、泣き叫ぶ姿はとても痛々しく背負ってきたものの大きさ、プレッシャーの強さを感じさせました。人生を賭けて打ち込んできたことが伝わってきて僕はグッときてしまいました。会場で自然発生的に「ウタ、ウタ」というコールが起こりましたが、あれが1つの答えかなと思います。4年後ぜひ、再起して欲しいと思います。


ユージ:阿部詩選手のこともそうですし、「誹謗中傷」と「批判」の線引きは難しいですよね。


神庭さん:線引きが難しいですが、しっかり線引きしないといけません。阿部詩選手の一件で言えば、「グッドルーザーとしての立ち居振る舞いはどうあるべきか?」「相手選手は立派だったじゃないか」「泣いている間、他国の選手が入場できず、迷惑をかけてしまったのではないか?」といった指摘自体は、正当な批判としてあっていいと思います。


ユージ:そうですね。これは誹謗中傷ではないですね。


神庭さん:ただ、言い方や表現の仕方には一定の配慮があってしかるべきですし、正論であっても、いや正論だからこそものすごい数が集まった時に、選手のメンタルがえぐられるということはあり得ると思います。そこへの想像力は必要かなと思いました。


村田:思いやりが大切だと思いますが、他にはどうでしょうか?


神庭さん:競歩の柳井綾音選手は、男女混合リレーに専念するため、個人種目の方を辞退しました。それに対して「身勝手すぎる」などの声があがりました。柳井綾音選手はXでこのように投稿しています。《辞退の件ですが、沢山の方から厳しい言葉に傷つきました。試合前は余計神経質になり、繊細な心になります。批判は選手を傷つけます。このようなことが少しでも減って欲しいと願っています》「批判」という言葉は「誹謗中傷」に置き換えた方が適切かなと思いますが、どちらにしても選手にどんな影響が出るか投稿する前に想像することが大切かなと思います。なかには、国をまたいだ中傷もあります。


ユージ:どんな事例ですか?


神庭さん:柔道カナダ代表の出口クリスタ選手と韓国代表のホ・ミミ選手はともに日本にゆかりのある選手ですが、激闘の果てにホ・ミミ選手の反則負けで出口クリスタ選手が金メダルに輝きました。出口クリスタ選手のSNSには、様々な言語で「立ってるだけで金メダル」などと書き込まれたといいます。これに対して出口クリスタ選手はXやInstagramでこう反論しました。《コメント欄を見ていて悲しくなる。選手を庇いたくなる気持ちも分かるけど、こういう所での不毛な争いは国や選手、色んな人を巻き込んでマイナスなイメージを植え付けるだけで得する人は誰一人としていない》と書かれていて、本当にその通りだなと思います。


ユージ:本当にそうですよね。気になる部分でいうとIOCの対策はどういったところでしょうか。


神庭さん:日経新聞によると、IOCは今回のパリ大会で初めてAIによるSNS監視システムを導入しました。35以上の言語で悪質投稿をモニタリングして、運営事業者に対して削除を要請しているようです。ただ、五輪に関する投稿は期間中に5億件にのぼるとみられており、このうち悪質投稿が数%と考えてもとんでもない数になります。AIですべて弾けるかというと限界もあります。通報したところでSNS運営がすぐに対応するとも限らないです。実際、先ほど紹介したいくつかの事例でも、中傷的な投稿が放置されたままになっています。


ユージ:選手への誹謗中傷について、神庭さんはどう考えてますか?


神庭さん:「誹謗中傷はいけない」というのは当たり前の話です。それでも繰り返す人間は「これは誹謗中傷ではない」と考えているか、「誹謗中傷だと知っていてもやめられない」かのどっちかだと思います。前者に関しては、たとえ中傷でなく正当な批判だとしても、ものすごい数が集まると巨大なプレッシャーになるということを念頭に置く必要があると思います。後者に関しては、ある種病的な心理で対処が難しいですが、僕はQ「怒りの日替わり定食」と呼んでいますが、「シャーデンフロイデ」と言って、人間には他人の不幸を喜ぶ暗い欲望があります。SNS上の炎上や誹謗中傷の多くは「高低差」によって起こります。高いところにいる人を引きずり下ろしたいという心理。だとすると、そもそもむやみに高いところに上げないのも大事かなと思っていて、メディアがやたらと美談をありがたがり、英雄視報道をするから反発して引きずり下ろしたいと考える歪んだ人が出てきます。なので、変に高低差をつくらない、無駄に上げない。アスリートも1人の人間と考えて淡々と報じる方が選手へのプレッシャーも、誹謗中傷も減るのではないかと思います。

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