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24.07.30

遺族厚生年金の見直し案について

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。


今日はダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。神庭さんが注目した話題はこちらです。


「遺族厚生年金の見直し案について」

吉田:厚生労働省は、配偶者の死亡に伴って受け取る「遺族厚生年金」の男女差を是正するため、子どものいない20〜50代の男女が受給する場合、5年間の有期給付とする方向で調整に入りました。神庭さん、そもそも遺族年金はどういう仕組みでしょうか?


神庭さん:遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。「遺族基礎年金」は、子どものいる家庭が対象で国民年金の加入者が亡くなった時に配偶者か子どもが受け取ることができます。「遺族厚生年金」は、サラリーマンらが加入する厚生年金の加入者が亡くなった時に遺族が受け取れるものです。今回見直しが検討されているのは、後者の「遺族厚生年金」の方です。


吉田:遺族厚生年金の何がどのように変わるのでしょうか?


神庭さん:現状の遺族厚生年金は、亡くなったのが夫か妻か、子どもがいるかいないか、また年齢によって受給条件が細かく分かれています。夫が死亡した時に妻が30歳以上の場合、子どもがいてもいなくても一生涯年金を受け取れます。妻が30歳未満でも、子どもがいる場合は一生涯年金が受け取れます。ただ、妻が30歳未満でかつ子どもがいない場合は5年間の有期給付となります。一方、会社員の妻が死亡した場合、その時点で夫が55歳未満だと受給する権利すら得られません。55歳以上だとしても、実際に貰えるのは60歳からになります。こんな風に、性別や年齢などによって貰える年金額が全然変わってきます。


ユージ:男女でずいぶん違いますね。何でこんなに違うのですか?


神庭さん:制度の大前提として「専業主婦が大黒柱の夫に先立たれた場合」を想定しているというのが大きいです。なので、男性には塩対応で「自分で稼げ」という立て付けになっているわけです。女性の場合も30歳未満で子どもがいないなら、5年の有期給付の間に就職して自分で稼いでくださいという無言のメッセージを感じます。


ユージ:今は多様化している時代の中で、男女の働き方もすごい変わっています。想定の条件と見合っていないなと思いますが、どのように変えるのでしょうか?


神庭さん:報道によると、こんな見直し案が検討されています。子どものいない20代〜50代の配偶者が遺族厚生年金を受給する場合、男女とも受給期間を一律5年間にする。子どもがおらず、夫を亡くした40歳〜64歳の妻は現状、月5万円ほどの「中高齢寡婦加算」を受け取っていますが、段階的に廃止する方向で検討します。つまり、男性側は待遇アップ、女性は待遇ダウンになります。いきなりやると大混乱になるので、見直しは数十年かけて段階的に進め、今すでに遺族厚生年金を受け取っている方は対象外になるとのことです。家族のあり方が多様化し、会社員の夫と専業主婦の妻という家庭ばかりではなく、共働き家庭も増えています。そんななかで男女の格差を是正しよう、というのが見直しの表向きの理由になっています。


吉田:今回の見直し案に対して、どんな反応があるのでしょうか?


神庭さん:X上では反対意見の方が目立ちます。主だったものを紹介すると「私の老後終わった。唯一の頼りだったのに」「専業主婦で家のために子育てや介護してきた女性にムチ打ちすぎ」「女性が結婚して子どもを産むリスクがすごく高くなる」「子どもを産まずに仕事に専念する人が増えて少子化が加速する」「若い人が老いた母親に仕送りする世界になる」といった声がありました。当事者の方、あるいは専業主婦とみられる方々は特に反発が強いようです。見直しに賛成寄りの意見としては「そもそも遺族厚生年金は優遇され過ぎている」「現状が著しく不平等。フルタイムで働く妻が亡くなった場合、年金が夫側に行かず払い損になるから、女性に対しても差別的」「変更すべき。現状は働けないのに遺族厚生年金がない人もいれば、働けるのに貰い続けている人もいる」などの声がみられました。


吉田:今回の遺族厚生年金の見直しについて、神庭さんはどう見ていますか?


神庭さん:政府の本音は「支出を減らさないと年金財政がヤバイ」「いま専業主婦をしている方々にもできるだけ外で働いて、社会保険料を納めて欲しい」といったところだと思います。だとしたら、「男女平等」「格差の是正」みたいなキレイなオブラートに包まず、耳の痛いことも含めて正直に国民に説明すべきだと思います。共働き世帯との公平性を考えると、政府は将来的に「主婦年金」と呼ばれる3号被保険者の優遇措置についても、手をつけたいのではと思います。そのための地ならし、布石のようにも見えます。そうやって給付を絞るのではあれば、そのぶん保険料も下げて欲しいです。また、男女間だけでなく現役世代と高齢世代の受益と負担のバランスもきちんと見直して欲しいなと思います。


ユージ:確かにそうですね。課題は何かありますか?


神庭さん:40代後半〜50代になって夫に先立たれ、「あとは自力で働いてなんとかしろ」と言われても、なかなか就職先が見つからない人もいると思います。取りこぼされる人が出ないように、移行措置は丁寧に進めないといけないかなと思います。「女性も働いて稼げばいいでしょ」というスタンスの割に男女間の賃金格差が放置されているのも気になるところです。「働け働け」と言うなら、性別や年齢に関係なくしっかり稼げるような社会環境を死に物狂いで整えていく必要があるのではないかと思います。

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