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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

24.07.23

価格転嫁について

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。


今日はダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。神庭さんが注目した話題はこちらです。


「価格転嫁について」

吉田:日本商工会議所は先週、中小企業の経営課題を話し合う懇談会を開き、賃上げの余力を確保するため「価格転嫁の商習慣化」を目指すことを確認しました。神庭さん、「価格転嫁」という言葉が出てきましたが、教えてください。


神庭さん:今のようにインフレで原材料やエネルギーが高騰している時などに、モノやサービスの価格にそういったコストの上昇分を上乗せして、値上げすることを価格転嫁といいます。


吉田:ここ最近、色々なものが値上がりしていますよね。すでに価格転嫁は起きていると思ってしまいますが、懇談会で「確認した」ということは、何かしら阻むものがあるということですか?


神庭さん:BtoC、対消費者であれば、商品を値上げした場合に、買っていただけなくなってしまうのではないか、ライバル社に負けちゃうのではないかという心配があります。そして、BtoBの企業間取引の場合、一番大きいのは、大企業と下請けの中小企業の圧倒的な力の差があります。利益を上げている大企業ほど外注費用を極限まで圧縮し、コストカットに努めています。一方の中小企業側は価格交渉力が弱く、なかなか言い出すことができない。結果、大手企業に比べても中小企業の賃上げはあまり進んでいないという実情があります。


ユージ:皺寄せが「中小」に向かっているわけですね。日本は中小企業がほとんどなので、これはよくない流れなのかなと思います。


神庭さん:もちろん下請けと共存共栄でしっかりとパートナーシップを結んでいる企業もあると思いますが、中にはパワーバランスを背景に下請けイジメをやっているような大企業もあります。時事通信によると、日本商工会議所の小林健会頭は、「下請法に抵触しそうなことをやっている大企業の名前は当然公表していい」「価格転嫁に応じない大企業が社名を出されるのは、法令順守違反よりもシェイム(恥)だと思う」と話しているということです。僕も下請けいじめをやっている企業、価格交渉の段階で門前払いするような企業はガンガン実名で公表すべきだと思います。


吉田:実際、価格転嫁はどこまで進んでいるのでしょうか?


神庭さん:中小企業庁の調査によると、今年3月までの6ヶ月間に価格交渉が行われた企業は59.4%。受注企業のうち、コスト増加分の全額を価格転嫁できた割合は19.6%、一部でも価格転嫁できた割合は67.2%。それぞれ昨年9月に比べると、3〜4ポイントほど増えています。じわじわと価格転嫁の機運が高まっているという状況です。一方、コストの1〜3割しか価格転嫁できなかった企業は23.4%で半年前から4ポイント増えています。全く価格転嫁できなかった、逆に減らされてしまった企業も合わせて2割ほどありました。中小企業庁は「価格転嫁できた企業」と「できない企業」で二極化の兆しがあると指摘しています。


ユージ:その調査では他にどんなことが分かっていますか?


神庭さん:原材料費に比べると、従業員への給与などを含む「労務費」は転嫁が進んでいません。価格交渉した企業の中でも、8.8%の企業が「労務費が上昇し、価格交渉は必要と判断したものの、交渉できなかった」と答えました。具体的には・労務費については「自助努力で解決すべきとして交渉自体を拒否」された。労務費上昇分について要求されるエビデンスを示す事ができず、諦めざるを得なかった。価格交渉しようとしたが、「労務費が上昇しているのは御社だけではありません」と言われ、交渉に応じてもらえなかったといった声が寄せられています。


吉田:中小企業は、これからどのように価格転嫁の交渉を進めていけばいいのでしょうか?


神庭さん:中小企業基盤整備機構のサイトに《マンガでわかる「価格交渉」》という記事が掲載されていて、とても参考になります。いくつかポイントを紹介すると、値上げ要求にあたって原材料価格やエネルギーコストの推移、人手不足による労務費の上昇など、根拠となる資料を作成して交渉に臨むということです。同業他社と比較した場合の、自社の強みを整理する。品質・納期・機能など価格以外のメリットについてもまとめる。取引先に提示する「提示価格」、自社として納得できる「目標価格」、これ以上は譲歩することができない「最低価格」の3種類の価格を設定して交渉します。テクニックとしては、最初に提示価格を提示し相手の反応を見ながら「目標価格」での妥結を目指します。色んな点があるので、そういった点に注意しながら交渉してみて欲しいなと思います。


ユージ:忙しい毎日に、交渉のための資料をつくるのは大変そうですね?


神庭さん:そこですよね。資料づくりということで難しい印象を持つ人もいるかもしれませんが、実は便利なツールがあります。「埼玉県」「価格交渉支援ツール」というワードで検索すると出ますが、このツールを使うと1,420品目の主要な原材料価格の推移を示す資料が簡単につくれます。他にも埼玉県は「収支計画シミュレーター」というツールを提供しています。これを使うと仮に価格転嫁ができない場合に経営にどういう影響があるのか?「どれくらい価格転嫁すればよいか」が視覚的にパッと分かるようになっています。交渉の武器になる便利なツールが色々あるので、ぜひ活用していただければと思います。

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