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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

24.07.16

「長期かつ粘着的に続く可能性」がある人手不足

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。


今日はダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。神庭さんが注目した話題はこちらです。


【「長期かつ粘着的に続く可能性」がある人手不足】

吉田:先週、政府の2024年版労働経済白書の概要が判明しました。それによりますと、人口減少や高齢化の影響で人手不足は、「長期かつ粘着的に続く可能性」があると指摘しています。神庭さん、まずは今回の白書の概要を教えて下さい。


神庭さん:共同通信の独自報道によれば、最新版の白書にはこんな内容が記載されるようです。今の人手不足は、長期かつ粘着的に続く可能性がある経済回復による労働力需要の増加、高齢化の進展が特徴です。求人に対して実際に採用できた人数の割合は過去半世紀で最も低い水準です。こういった内容が記載されています。


吉田:人手不足の影響は、これまでも色々とニュースになっていますが、大きなところですとどんな影響が出ていますか?


神庭さん:人手不足倒産が過去最多ペースになっています。帝国データバンクによると、従業員の退職や採用難、人件費高騰などによる「人手不足倒産」は、今年上半期に182件発生しました。年間で見ると、過去最多を大幅に更新するペースだということで、内訳を見ると建設業53件、物流業27件。残業時間の規制を厳格化する「2024年問題」の影響が直撃した格好ですよね。


ユージ:物流はずっと前から言われていましたが、建設は一時期携わっていたのでこういうのを聞くと本当に残念だと思います。その業界以外では、どういった問題で人手不足が問題になっていますか?


神庭さん:飲食や介護の人手不足はよく知られていますが、日本中あらゆる業界が人手不足に直面しています。例えば、自衛隊です。自衛官の定員は24万7,000人余りですが、実際は2万人近く不足しており、充足率は92%にとどまっています。足もとでも、昨年の自衛官の採用率は計画に対して51%で過去最低でした。最近、安保に関する「特定秘密」の不適切な取り扱いをめぐって、自衛官が大量処分される不祥事がありましたが、この背後にも人手不足があったと言われています。国防の要である自衛官不足について、産経新聞は防衛省内に危機感が広がっていると報じています。


吉田:人手不足をどうにかするため、それぞれの業界ではどんな努力をしているのでしょうか?


神庭さん:変わったところでは、モスバーガーがMOS RECORDS(モスレコーズ)という音楽レーベルを立ち上げて話題を呼びました。モスでバイトしながらデビューを目指す、ミュージシャンの卵を応援する企画です。他にもJNNの報道によれば、岐阜県白川町の藤井電気工業という会社が「釣り人採用」をやっています。近隣に鮎の友釣りで有名な川があるのを生かして、鮎釣りの解禁日に合わせて連続5日の「鮎釣休暇」を取得できることや釣り遠征の交通費、釣り竿など趣味のグッズ購入補助をする。昼休みに会社裏で釣りができるといったメリットを打ち出しています。ウソの求人情報などを載せる「釣り広告」は問題ですが、こういう「釣り」だったら、釣り好きな人も大歓迎です。


ユージ:ユニークな作戦を出しているところも沢山ありますが、企業もあの手、この手で頑張っていますね。


神庭さん:もちろん、正攻法で給料を上げるという手もあります。人手不足=安い給料で働いてくれる人が足りないという話です。人を集めたければ給料を上げればいい。特にインバウンドで潤う観光地では顕著ですが、日経新聞によると、北海道ニセコ町の求人平均時給は1,524円と神奈川県箱根町は1,503円で、東京の1,434円より高いです。箱根は時給1,700円でも人手不足だという報道もありましたから今大変な状況です。リゾートバイトというと、昔は学生が長期休暇にやるイメージでしたが、今はシニアの雇用も増えているそうです。


吉田:神庭さんは人手不足の問題について、どう考えていますか?


神庭さん:少子高齢化社会で、人手不足を解消するための選択肢というのは限られています。定年延長などで高齢者に長く働いてもらう。女性が働きやすい環境をつくる。この辺はすでにやっている会社も多いですが、AIやロボットによる自動化です。少しずつ進んでいますが、本格的な社会実装にはまだ時間がかかりそうです。特定技能など海外から人を呼ぶ。結果として安い賃金が放置される、地域社会で摩擦が起きるといったデメリットもあります。そんな中で、まだあまり進んでいないなと思うのが、労働移動による最適化です。


ユージ:労働移動?どういうことでしょうか?


神庭さん:デスクワークの事務職など労働者側に人気の仕事は企業側からすると「人余り」の状態になっています。そういった人余りの業界職種から人手不足の業界へ、人材の移動がこれから進んでいくかもしれません。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アメリカのZ世代の間で「肉体労働はクール」だということで人気が高まっています。電気技師や配管工などブルーカラーの現場系インフルエンサーの動画が、TikTokで何百万回も再生されています。


ユージ:労働は、クールですよ。


神庭さん:すごくいいことだと思いますし、日本にも早晩この流れが来るのではないかなと思います。近年、技術系の資格が集めていますし、令和の金の卵として高卒社員の人気も高まり企業間で争奪戦になってます。ホワイトカラーの仕事が徐々にAIに代替されていくなかで、くだらない学歴主義みたいなものが薄まって、ブルーカラーの復権、「現場」の復権が進んでいくんじゃないかなと思います。


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