NAGOMI Setouchi

2019
09/28

瀬戸内国際芸術祭 edition
Setouchi Triennale 2019
「夏の終わりの小豆島。後編」

もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」

瀬戸内国際芸術祭2019も終盤、秋会期の季節になりました。瀬戸芸スペシャル・ナビゲーターの前田エマさんは、芸術祭の舞台となる島や町、集落を訪れ、取材を続けています。今週は、小豆島。ここは、「小豆島 二十四の瞳映画村」。サウダージを感じる、美しい海辺です。
「瀬戸内国際芸術祭2019」

小豆島町の馬木(うまき)地区。「醤の郷」とも呼ばれます。明治時代あるいはそれ以前に建てられた醤油蔵、佃煮工場がいくつもあります。小豆島は、フェリーを下りた瞬間に「醤油の匂い」がしますが、この馬木の辺りは、特に醤油の匂いが濃く強いところ。「この匂いだけでご飯一膳食べられる」なんていう人もいます。そんな醤の郷の馬木バス停のところに、一軒の古民家があります。木の壁に、「ジョルジュ・ギャラリー コヒラ・カフェ」とサインがついています。そしてお馴染みの、瀬戸芸の青い幟が。前田エマさん、写真家ジョルジュ・ルースのアート作品を見にやって来ました。この古民家の中に展示があるのでしょうか。

入ると、こんな小径が。とても素敵なエントランスです。歩いていると、タイムスリップしてしまうような感じ。

この家の持ち主が住んでいた時代に、時間が巻き戻されたような空間が広がります。白いエアコンだけが現代のもの、ほかはすべて、古い、ある時代・時間がまるごと保存された装置のような部屋。

この家に暮らした人たちは、夏、この縁側に座ってスイカを食べたりしたでしょうか。古い時代が偲ばれます。この古民家が、「ジョルジュ・ギャラリー」になっています。フランスの写真家ジョルジュ・ルースの作品が展示されるほか、その作品の基となった世界が残されています。

「ジョルジュ・ルース 小豆島アートプロジェクト」のプロジェクトリーダー石井純さんが、おはなしを聞かせてくれました。フランスの写真家ジョルジュ・ルースは、世界中を旅し、各地の廃墟、取り壊される運命にある建造物や空間あるいは場所を、キャンバスに見立て、そこに幾何学的な絵を描きます。ときにそれはとても巨大で、幾人もの人々、ボランティアらと一緒に描くこともあるといいます。そのようにして「不思議な絵、図案」ができあがると、あらかじめセッティングしてあったカメラのシャッターをおします。このようにして、その「空間、場所」と、そこに描かれた「絵」と、両方を記録して、作品は完成。作品完成後その場所は、後に本当に取り壊され、描かれた絵もろともすべて、この世から消え去ります。そう、ジョルジュ・ルースの作品は、その作品作りの工程も含めすべて、一期一会のアートなのです。ところが、小豆島のこの古民家と、その内部に描かれた絵は、取り壊されることなく、今もそこに残されています。

一期一会のアート作品にこだわってきたジョルジュ・ルース。そんな彼が、初めて「完成後も(その場所、空間を)残す」ことにした作品、それが、小豆島町にある「ジョルジュ・ギャラリー」。この古民家はかつて石井純さんの祖父母が暮らしていた家でした。時が経ち、人が住まなくなり、古民家となり……、長く誰も住まない場所になっていました。石井さんは、「この家で何かできないだろうか」と考えました。ずっと以前、それは阪神淡路大震災直後のことでしたが、まったく別のプロジェクトですでに出逢っていたジョルジュ・ルースに石井さんは声をかけました。石井さんとジョルジュ・ルースとの、個人的な「リスペクト」「友情」があったからこそ、小豆島のこのアートはあるのだと思います。いったいどんなアート作品なのか、ここで詳しくは書きません。見て、驚き、感動する、体感型のアートです。ぜひ訪れて、ご覧ください。
「ジョルジュ・ギャラリー」

ギャラリーのすぐ裏が、素敵なカフェになっています。「コヒラ・カフェ」。「コヒラ」とは、石井純さんのおばあちゃんの名前。

小豆島でとれる旬の野菜や果物を使った美味しいスイーツやキッシュが並びます。他にもメニューがあります。ぜひ訪れてみてください。

完熟トマトのゼリー、イチジクのタルト、美味しかった!です。

こんなところにも、アート作品が……

前田エマさんがやって来たのは、「小豆島 二十四の瞳映画村」。瀬戸内海を見渡す海岸沿いおよそ1万平方メートルの敷地に、大正・昭和初期の小さな村が出現します。映画『二十四の瞳』のロケ用オープンセットをここに改築したもの。そう、映画の名場面はここで撮影されました。木造校舎、男先生の家、漁師の家、茶屋、土産物屋……。壺井栄文学館では、生前に壺井が愛用していた調度品や作品の生原稿なども展示されています。小さな映画館があり、そこでは『二十四の瞳』が常時上映されています。とても美しい眺めが広がる懐かしい場所です。ぜひ訪れてみてください。
「小豆島 二十四の瞳映画村」

映画村の海辺は、ほんとうに美しいのです。瀬戸内ブルーが広がります。

島を出る日になりました。フェリーに乗って1時間、高松港へ帰ります。後ろ髪をおもいっきり引かれながら……。男木島も豊島もそうでしたが、小豆島も、愛すべき大好きな島になりました。また必ず戻ってきます。

穏やかな瀬戸内の海。大好きな海がここにあります。

最後に、高松でうどんを食べました。「NAGOMI Setouchi」の取材で幾度も訪れた瓦町の「うどん職人さぬき麺之介」です。大将、いつも美味しいうどんを、ごちそうさまです。たくさんお世話になりました。また来ます。

前田エマさん、「麺之介」大将に頼まれて、サインを一筆。店内にあります、訪れたら探して見てください。うどんと、瀬戸内の島と海、風と光、人々と自然と……すべてに感謝です。ありがとうございました。

また必ず来いにゃん。

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