NAGOMI Setouchi

2019
06/29

瀬戸内国際芸術祭 edition
Setouchi Triennale 2019
「小豆島篇①」

もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」

4月26日から5月26日まで開催されていた、瀬戸内国際芸術祭2019の春会期。瀬戸芸スペシャル・ナビゲーターの前田エマさんは、開幕式直前から開幕直後まで高松に滞在し、瀬戸芸の舞台となる島や町、集落を訪れ、取材しました。そのときの旅から、今週からは小豆島の旅をご紹介します。

瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。高松港から向かうフェリーも大型です。草壁港に向かうフェリーの中には、こんなスペースも。

前田エマさん、小豆島に到着しました。こちらは草壁港。

瀬戸内国際芸術祭2019の幟やポスターを、あちこちで見かけます。

船から下りて、島の道を歩き出すと、どこからともなく、醤油の匂いが漂ってきます。醤油の匂い……。ほんとうに、島のどこにいても、時にふわーっとかすかに、時に濃くしっかりと、旅人は、この島では醤油の匂いを感じるはず。たとえば、フランスの、パリ・シャルル・ドゴール空港に着いて、飛行機を降りると、「バターの香りがする」とよく言われます。そう、フランスはバターの国。それと同じように、ここでは、人々がこう言います、「小豆島では、いつも醤油の匂いがする」。小豆島には、「醤の郷(ひしおのさと)」と呼ばれる地区があります。主に明治時代に建てられた醤油蔵や、佃煮工場が、いまも軒を連ねる場所。瀬戸芸・実行委員の藤本彩乃さんに連れられて、前田エマさんは、醤の郷の小さな路地へと入っていきました。

古い醤油蔵が今も残ります。

酵母がたっぷりついた、醤油蔵の樽や壁。

オリーブ農園、手延べ素麺の製麺所、醤油の蔵、農村歌舞伎の舞台、棚田、二十四の瞳……。そんな この島ならではの風景の合間に、現代アートが現れます。小豆島の、醤の郷(ひしおのさと)の路地を入った奥の方。オリーブ畑の中に突如現れる、「オリーブのリーゼント」。それは、瀬戸内国際芸術祭2013の、アート作品のひとつ。石井岩男さんが持つオリーブ畑の中に、その「オリーブのリーゼント」はあります。

「岩ちゃん」の名で親しまれる石井さん、いろんな「インスタ映えポーズ」を、エマさんに教えてくれます。岩ちゃんが用意してくれたカツラをつけて……。

2人のカツラのリーゼントが眉毛です。

こちらは、「手にのった、リーゼントくん」。

「岩ちゃん」こと石井岩男さん。この作品が設置された2013年から、ほぼ毎日、この「オリーブのリーゼント」を磨いてきました。岩ちゃんは言います、「はじめはペンギンかと思ったよ。白いから汚れるんだ。汚れたら、拭いてあげたくなる。まず上の顔みたいなところを磨く。そのあと、下の方を磨いていく。そうやって磨いていると、自分の腕や肘がこのリージェントくんに触れるんだ。触れていると、どんどん可愛くなって、愛おしくなっていく。愛着がわいて、自分の子供のような気持ちになるんだよ」岩ちゃんは、この作品名「オリーブのリーゼント」のことを、「リージェントくん」と呼び、ほんとうに大切にしています。今日も、世界中から旅行者が岩ちゃんのオリーブ畑へやって来て、ぴかぴかに磨かれたリージェントくんと記念写真を撮っていきます。

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