- 今月の旅人
- 片渕須直(アニメーション映画監督)
映画『この世界の片隅に』の監督、脚本を手掛けた片渕須直監督が、作品の舞台となった広島と呉を旅しています。今週は作品の原作者、こうの史代さんと片渕監督のスペシャル対談。呉市立美術館にて。こうのさんの胸元にいるのは呉のゆるキャラ「呉氏」。
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
映画『この世界の片隅に』の監督、脚本を手掛けた片渕須直監督が、作品の舞台となった広島と呉を旅しています。今週は作品の原作者、こうの史代さんと片渕監督のスペシャル対談。呉市立美術館にて。こうのさんの胸元にいるのは呉のゆるキャラ「呉氏」。
この夏、呉市立美術館では『この世界の片隅に』マンガ原画展が行われました。
会場にはこうの史代さんの姿も。
こうのさんと片渕監督、
二人で原画展の会場をひとめぐり。
そしてさっそく、呉市立美術館の一室をお借りして、スペシャル対談が始まりました。対談は、原作執筆や映画化の苦労話、恋愛小説としての「片隅」、そして災害や日本人の価値観にまで及びました。
午後はこの日もう一つのイベントが行われる呉市の「大和ミュージアム」へ。
どこか懐かしさが残る呉の町並みを眺めながら。
「大和ミュージアム」ではこうの史代さんと片渕監督のトークイベントが行われました。2016年11月の公開からこの日で648日目。
一日も途切れることなく、世界のどこかで映画の上映が続いてきたと言います。
2018年12月『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開となります。オリジナルの映画に新たなシーンを加えたロングバージョン。作品の力、ファンの支持、そして呉の町と人に支えられて、映画は新たな船出を迎えます。
旅を終えて、片渕監督からこんな手紙が届きました。
映画「この世界の片隅に」を作るために、広島や呉に始まって、瀬戸内海西部の景色を周防灘・周防大島・安芸灘・さらには尾道まで、もう七年にも渡って眺め歩いて来ました。映画の画面に登場するものならば小さな島影までもおろそかにしない、という気持ちだったのですが、気がついてみたら、映画に直接登場しないので見逃してしまったもの、体験しそびれてしまったこともいくつも出来てしまっていたのでした。そのいくつかを今回の旅で経験できたのがうれしかったです。
手元には1937年版と1952年版の『内海水路誌』があります。船乗りたちのための本であるそれらには、「何々鼻」と名づけられた小さな岬たちや、小さな岩礁に至るまで記されていて、眺めるのが楽しいのです。名前のあるものはすべて愛おしいように思います。またいつか訪ね歩いてみたいです。
片渕須直
アニメーション映画監督
1960年生まれ。日大芸術学部映画学科在学中から宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本家として参加。『魔女の宅急便』(89/宮崎駿監督)では演出補を務めた。TVシリーズ『名犬ラッシー』(96)で監督デビュー。その後、長編『アリーテ姫』(01)を監督。TVシリーズ『BLACK LAGOON』(06)の監督・シリーズ構成・脚本。2009年には昭和30年代の山口県防府市に暮らす少女・新子の物語を描いた『マイマイ新子と千年の魔法』を監督。口コミで評判が広がり、異例のロングラン上映とアンコール上映を達成した。さらに2016年には『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)の監督、脚本を務めた。映画はクラウドファンディングによる資金調達も話題となり、幅広い世代の支持を受けて大ヒット。人気は海を越え、これまで、世界60以上の国と地域で上映されている。2018年12月には『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開に。
映画『この世界の片隅に』オフィシャルサイト