- 今月の旅人
- 片渕須直(アニメーション映画監督)
映画『この世界の片隅に』を手掛けた片渕須直監督が、作品の舞台となった広島、そして呉を歩きます。今週は、物語の主人公すずさんが嫁いだ町、呉へ。広島の宇品港から松山行きのフェリーに乗り込みました。広島から呉へはおよそ40分の船旅。進行方向左側に本州の海岸線を臨みながら。
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
映画『この世界の片隅に』を手掛けた片渕須直監督が、作品の舞台となった広島、そして呉を歩きます。今週は、物語の主人公すずさんが嫁いだ町、呉へ。広島の宇品港から松山行きのフェリーに乗り込みました。広島から呉へはおよそ40分の船旅。進行方向左側に本州の海岸線を臨みながら。
呉が見えてきました。呉はかつて「東洋一の軍港」とうたわれた港町。いまは大型タンカーの建造を請け負う造船の町です。
呉の町中を抜けて、片渕監督が向かったのは倉橋島です。本州と倉橋島を隔てるのは、わずか90メートルの海峡「音戸の瀬戸」。かつて平清盛が一日で切り拓いたという伝説が残されています。現在は大小二つの橋がかかっていますが、監督が選んだのは昔ながらの渡し船です。
船着き場にはいい感じでできあがった地元のお父さんたち。
対岸にいる渡し船の船長さんを笛で呼び寄せてくれました。
音戸の渡し船に乗り込んで、およそ90メートルの瀬戸を渡ります。
倉橋島は、かつては呉軍港の一部を成し、島全体が要塞の役目も果たしました。島特有の急斜面には段々畑が築かれ、リアス式海岸には美しい景色が広がっています。中でも有名なのが桂浜。「日本の渚100選」にも選ばれた白砂のビーチが広がります。
桂浜のシーサイドカフェ「ALPHA」は瀬戸内を一望できるビュースポット。サイフォンで入れるスペシャルティコーヒーも人気です。
窓からはこの眺め。瀬戸内サイクリングのお客さんもカフェで一休み。
seaside cafe「ALPHA」
倉橋島伊目木の海岸にある「マリン倶楽部カープボート」は2017年にオープンした施設。SAPやカヤックなどウォーターアクティビティが楽しめるスポットです。2018年7月の西日本豪雨では裏山の土砂が施設に流れ込み、一時営業休止を余儀なくされましたが、いまは営業を再開しています。
「マリン倶楽部カープボート」のマネージャー、有居篤史さん。祖父母が倉橋島の出身。幼いころに遊んだ楽しかった思い出から「倉橋島の海と自然をもっと多くの人に楽しんでもらいたい」と施設をオープンしました。
「マリン倶楽部カープボート」は愛犬と一緒にウォーターアクティビティを楽しめるスポット。白浜が広がるビーチはドッグランとしても人気。
ワンチャンも満足げな表情。RV PARKの認定を受けているので、キャンピングカーでの宿泊も可能です。BBQやボートの貸し出しも行っています。
マリン倶楽部カープボート
アニメーション映画監督
1960年生まれ。日大芸術学部映画学科在学中から宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本家として参加。『魔女の宅急便』(89/宮崎駿監督)では演出補を務めた。TVシリーズ『名犬ラッシー』(96)で監督デビュー。その後、長編『アリーテ姫』(01)を監督。TVシリーズ『BLACK LAGOON』(06)の監督・シリーズ構成・脚本。2009年には昭和30年代の山口県防府市に暮らす少女・新子の物語を描いた『マイマイ新子と千年の魔法』を監督。口コミで評判が広がり、異例のロングラン上映とアンコール上映を達成した。さらに2016年には『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)の監督、脚本を務めた。映画はクラウドファンディングによる資金調達も話題となり、幅広い世代の支持を受けて大ヒット。人気は海を越え、これまで、世界60以上の国と地域で上映されている。2018年12月には『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開に。
映画『この世界の片隅に』オフィシャルサイト