- 今月の旅人
- 平野啓一郎(小説家)
小説家の平野啓一郎さんが瀬戸内を旅します。旅の舞台は、兵庫県、淡路島。島で生まれ育った人、外から移住してきた人、島にルーツのある人……。いろんな人たちが交差して、淡路島で生まれているいろいろなこと、そして、様々な場所。平野啓一郎さんが、「今、淡路島に生きる人たち」のライフ・ストーリーに耳を傾けます。
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
小説家の平野啓一郎さんが瀬戸内を旅します。旅の舞台は、兵庫県、淡路島。島で生まれ育った人、外から移住してきた人、島にルーツのある人……。いろんな人たちが交差して、淡路島で生まれているいろいろなこと、そして、様々な場所。平野啓一郎さんが、「今、淡路島に生きる人たち」のライフ・ストーリーに耳を傾けます。
淡路島の北部。棚田、畑、雑木林が広がる里山に、「ノマド村」はあります。
迎えてくれたのは、猫の「ノマ」ちゃんと、なんと!バンクシー!
廃校になった小学校。2009年からここは、「ノマド村」です。
平野啓一郎さんを迎えてくれたのは、やまぐちくにこさん。いただいたご名刺には、こんな肩書きが……「淡路島を耕す女」。1969年淡路島の洲本市生まれのやまぐちくにこさん。美術系短大卒業後、タイルメーカー勤務を経てUターン。2005年、特定非営利活動法人淡路島アートセンターを設立。ローカルコミュニティマガジン『ぴと』発行人。まなびの島事務局長。「わたしは淡路島に生まれ、淡路島で育ちました。でも、ずっと淡路島のことが大嫌いで」と微笑みながら、でも真面目に、やまぐちさんは言いました。「そんなわたしの意識が変わり、『淡路島を耕す女』として今は活動を続けています」 島に生まれ育ちこの島で何かやりたい人、外から島へ移住してきてここで何かやりたいという人、「わたしは、『こんなことをやりたい』というアイディアを聞くと、『よっしゃ、任せとき!』と応えて島中走り回って、協力してくれる仲間を増やします。ひとりじゃできないことも、知り合いが何人か集まればできちゃうこと、たくさんあるんです。そして淡路島は、それが可能な島なんだと思います」
「ノマド村」
平野さんは今回、東京から新大阪まで新幹線で、新大阪でレンタカーをして、車で明石海峡大橋を渡って淡路島に入りました。ノマド村に到着したのは、午後1時過ぎ。平野さんも、スタッフも、みんなお腹がぺこぺこで。この日は、木曜日。ノマド村の「カフェ・ノマド」は、4月から11月の土曜日、日曜日が営業日なのですが、この日特別にカフェのランチメニューを用意してくださいました。カフェ・ノマド店長でシェフの、藤田祥子さんが、人気のランチをクッキング中。
廃校になった小学校の、かつてここは職員室だった場所なんだとか。
バンクシーが、あちらこちらに!
「ここにしばらく住みたいなぁ」と平野さん。網戸の窓の向こうからは、いろんな鳥のさえずりが聞こえ、柔らかな光が注ぎ、気持ちのいい風が抜けます(もちろん、真夏はとても暑くて、冬にはとても寒くなります・笑。ちょうど気持ちのいい季節にお邪魔できて幸運でした)。アーティスト・コミュニティとしてスタートしたノマド村。確かにここは、アーティスト、作家たちが、創作活動するのにパーフェクトな場所なのかもしれません。
やまぐちくにこさんが、2階の作家たちのアトリエを案内してくれました。いわゆる、Artist in Residenceとして使われている現場です。
2009年の秋、写真家で映像作家の茂木綾子さんと、夫でドイツ人の映像作家、ヴェルナー・ペンツェルさんは、ずっと暮らしていたスイスから、淡路島に移住してきました。茂木さんとヴェルナーさん夫妻、2人の子供、という4人一家は、それまで、スイスの小さな村で、ワゴン車を住まいにしていました。ノマド、遊牧民のような、土地に根を生やさない生活です。淡路島へやって来た一家は、縁あって、廃校になった小学校に暮らし、そこを「ノマド村」と名づけ、アーティスト、いろいろな作家たちのコミュニティを立ち上げました。教室をアトリエにし、職員室はギャラリー兼カフェに……。自分たちでリノベーションをしながら、ノマド村は少しずつ形を整え、今では、一般の人たちが利用できるカフェ、ショップもあります。そして2016年からは、「ハタラボ島」のノマド事業の拠点にもなり、島の「新しいはたらく場」をここで提案しています。島と世界を繋ぐコミュニティ・スペースでもある、ノマド村。2階には、茂木さんとヴェルナーさん一家が暮らす部屋と彼らのアトリエがあります。茂木綾子さんは書きます、「ノマドとは、もともと遊牧民や移動民という意味ですが、遠い昔の祖先を辿れば、誰もがみんな狩猟の民、ノマドでした。だから、どんな人の記憶の底にも、ノマドの心が眠っているはずです。ここは、そんなみんなのノマド村」。
淡路島でとれた野菜や肉がたっぷりの、ランチ・プレート! 右上から、島菜園さんのトマトと北坂養鶏場(次週HPでご紹介します)の玉子のタルタル、そのすぐ右側下が「森の木ファームさんのしいたけクミンいため」、その右下が「きのこのクリームスープ」、メインは、「玉ねぎカレー(淡路島の玉ねぎは驚きの甘さ、美味しさです!)」と「オリジナル・ソーセージ」で、のっているお野菜は、「新玉ねぎとキャベツと校庭のキンカンナムル」「カリフラワーの塩なるとオレンジあえ」「日本蜜蜂のはちみつの花びらオブ」。
いただきま~す!!
やまぐちくにこさん、藤田祥子さん、南野佳英さん、ノマちゃん(猫)、茂木綾子さん、ありがとうございました。
1975年愛知県蒲郡市生まれ。北九州市出身。京都大学法学部卒業。1999年大学在学中に文芸誌『新潮』に投稿した『日蝕』による第120回芥川賞を受賞。以後、数々の作品を発表、各国で翻訳紹介されている。2004年、文化庁「文化交流使」として1年間パリに滞在。2008年より三島由紀夫文学賞選考委員。
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