- 今月の旅人
- 沖仁(フラメンコ・ギター奏者、ギタリスト)
沖仁さんが、広島県尾道市を旅していきます。路地と坂と猫の港町、尾道を歩き、渡船に乗って瀬戸内の海に浮かぶ向島へ。尾道と島に暮らす様々なクリエイター、アーティスト、作家たちと出逢い、言葉を交わします。そして、出逢った彼らの工房やスタジオで、独創的なギターを奏でていきます。ギターを連れた沖仁さん、海から山へ、町へと、フラメンコの調べとともに、瀬戸内旅をしていきます。
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
沖仁さんが、広島県尾道市を旅していきます。路地と坂と猫の港町、尾道を歩き、渡船に乗って瀬戸内の海に浮かぶ向島へ。尾道と島に暮らす様々なクリエイター、アーティスト、作家たちと出逢い、言葉を交わします。そして、出逢った彼らの工房やスタジオで、独創的なギターを奏でていきます。ギターを連れた沖仁さん、海から山へ、町へと、フラメンコの調べとともに、瀬戸内旅をしていきます。
ニャンさん、おはようございます。
尾道本通り商店街の、小さな脇道のひとつ。尾道水道へと抜けるこの小径の途中に、今日の目的地があります。通称「チャイダー」。
古来、瀬戸内海の要衝でもあった港町、尾道。昔も今も、国内はもちろん、世界各地からの大勢の「旅人」でにぎわいます。ここは、あらゆる人たちが交差し出逢う町。でも、そんな尾道も、近年はずっと地域過疎、少子高齢化などの課題を抱えてきました。小津安二郎の名作映画『東京物語』、大林宣彦監督の『転校生』『時をかける少女』などの舞台にもなり、観光地として人気が高まった一方、市内の空き家の数は数百軒にもなり、町中心部の空洞化が大きな問題になっていきました。そんな中、2007年、「尾道空き家再生プロジェクト」が発足。これを機に尾道に、移住定住者が増え始めました。一度尾道から出て、戻ってきた人々もいました。やがて尾道は、(しまなみ海道を中心とした)瀬戸内サイクリングの拠点として、まちづくりやものづくりの町として、ゲストハウスやオルタナティブな小商店、アート・ギャラリーなどクリエイターやアーティストたちが暮らす場所として、古民家や空き家を使ってのソーシャル・カルチャーが盛り上がっていったのです。そしてそれは、今に繋がっています。
風通しよい港町、尾道にあるユニークなゲストハウス「ヤドカーリ」は、そんな「古くも新しい尾道」を代表する場所。ここには、子供から大人まで老若男女の地元民が日々訪れます。同時に、日本人はもちろん、中国、韓国、タイ、ベトナムなどアジアから、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ブラジル、フランス、イタリアなど、世界中からの旅人が日々、バックパックを担いでやって来ます。尾道水道を望む路地の一角。築100年を越えるぼろぼろだった古民家2棟を、半年かけてほぼDIYで再生して誕生した、ゲストハウス&カフェ。
「ヤドカーリ」
ヤドカーリの、こちらがカフェ、「Chai Salon Dragon」。
ヤドカーリとChai Salon Dragonのオーナー、村上博郁(むらかみ・ひろふみ)さん。ローカルの人たちからは「ヒロ」「ヒロフミ」と呼ばれ、この辺りで村上さんのことを知らない人はいません。また、村上さんも「ほとんど知っている人ばかり」と言います。ある人はこう言いました、「(村上さんは)尾道の台風の目のような人」。つまり、この人の周りでぐるぐるいつも何かがハプニングしている! あらゆる旅人と移住者、移住を考えている人たち、そしてもちろん地元民たちにとっての、交流と発信の場である「ヤドカーリ」オーナーで、NPO法人「まちづくりプロジェクトiD尾道」代表。「たとえば朝ここに、スペインからバックパッカーがやって来て、ひとりだったら、晩ご飯を一緒に食べないかと誘います。そうやっていると次々人が集まってきてパーティみたいになります。それが毎日続いています。だから僕は、ここをオープンして以来、ずっとパーティしているんです」と村上さん。
ヤドカーリの3階、共有スペースからの風景。目の前が尾道水道で、素晴らしい眺めです。
よく晴れた土曜日の午後、Chai Salon Dragonで、沖仁さん、ミニ・アコースティック・ライブを開きました。入場は無料。アンプラグドで、聴ける人は自由にその辺で聴いていってください、という、ヤドカーリ・スタイルの自由ライブ。大勢の人たちが集まりました。
今回の旅で出逢った尾道の人たち、尾道と向島で創作活動をしている人たちに、沖さんは1曲ずつ、ギター演奏を捧げました。「アトリエ・アントワープ」の井出雄士さんと鳴輪裕子さんに、「桃の家」の山岸聡美さんとあき津さん母娘に、新開を案内してくれたアーティストのナッツポンチョンさんこと丸山勇治さんに、そして、ここ「ヤドカーリ」オーナーの村上博郁さんに……。
ずっと、沖さんとユザーンさんの間で(LINEやinstagramなどを通して)旅の道中に盛り上がり続けていた「既婚者トーマス」さんとも、ついに出逢いました! トーマスさんはアメリカ人で、今は結婚して向島に暮らしています。広島大学大学院に通いながら、ファーマーでもある人。Thomas Klopferさんのおはなしは、TOKYO FM「NAGOMI Setouchi」のPODCAST番組で、聴くことができます。「Mukai-shima」篇に登場しています。
「NAGOMI Setouchi PODCAST」
尾道、向島を巡った、フラメンコ・ギター奏者、沖仁さんの瀬戸内紀行も、そろそろ終わりです。