2018
04/07
坂本美雨の瀬戸内紀行 「猫と子供、音楽とアート。男木島、高松、丸亀、春の旅」01
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」 。
今月の旅人
坂本美雨(歌手、音楽家)と、なまこちゃん
坂本美雨さんが、愛娘のなまこちゃん(愛称)と一緒に瀬戸内を旅していきます。人より猫の方が多いと言われる男木島へ。高松では鉄の作家と、ガラスのアーティストに出会います。丸亀の森にある樹木をテーマにした空間では母娘で遊び、丸亀の美術館でおおはた雄一さんとの「おお雨」ライブ。もちろん、讃岐うどんを食べて、瀬戸内の新鮮な魚に舌鼓を打ち、青い海と春の光に寄り添って……。坂本美雨さん、盛りだくさんの春の瀬戸内旅、はじまり、はじまり。
高松港から海上タクシーに乗って、男木島へ。坂本美雨さんにとって、愛娘なまこちゃんとの初めての船旅です。そう、2歳のなまこちゃんにとってこれが、人生初の船旅。小さな船、男木島までわずか20分ほどの短い移動ですが、幼い彼女にとっては、すべて初めての体験、大きな想い出になったかな? 母娘ふたり旅、春の潮風をたっぷり浴びながら、島へと向かいます。
男木島は、よくこんなふうに言われます、「人より猫の方が多い島」。
港に着いて早速、「ねこ吸いタイム」が始まりました。
なまこちゃんは、猫より島のお花に興味津々のよう。なまこちゃん、いつでも何処でも自由すぎて、飛んでいってしまいそう!(笑)
ギリシャの小さな島のように、港からせり上がる斜面に沿って、集落が広がっています。小径の多くは徒歩か自転車、原付バイクしか通れません。島にある車は数台で、それらは港周辺で使われているだけ。猫たちに、車の心配は無用です。島の人たちは猫を保護し去勢手術などを施しています。食餌を置いてあげている人も大勢いて、集落全体で猫の世話をしているような感じです。男木島という島全体が、猫の庭になっています。
坂本美雨さんとなまこちゃんがやって来たのは、港から小径を少し上がったところにある「ダモンテ商会」。ダモンテ海笑さんと、奥様の祐子さん、お2人が営むベイカリーカフェです。島に移住してきた2人は、1年以上かけて、セルフ・ビルドのような感じで(もちろんプロの大工さんや島の人たちの協力も得ながら)とても素敵なお店を昨年秋にオープンさせました。お店の名前が、「ダモンテ商会」。こちらの、と~っても美味なるグラノーラたちは、祐子さんの手作りです。「NAGOMI Setouchi」取材チームは、毎回この島を訪れる度に、このグラノーラを、どっさり買い込んで帰ります。「ダモンテ商会」
祐子さんは、この2月に、お子さんを無事出産されました。男の子、名前は「凪(なぎ)」。ダモンテ凪くん、です。穏やかで、ピースフル、ほんとうに凪のような赤ちゃん! 海笑さん、祐子さん、ほんとうにおめでとうございます。
Hello NAGI! You are an Ogi Island Boy!
NAGIと、アルファベットで書くと、なんだか「NAGOMI Setouchi」の「NAGOMI」に、見事に寄り添うような名前です。「NAGOMI Setouchi」では、2016年の12月に、初めて男木島でダモンテ海笑さんと祐子さんに出逢いました。以来、年に何度か、取材で島を訪れお逢いしてきています。彼らのお店ができるずっと前から取材をさせていただいてきたので、お2人に赤ちゃんが誕生したことは、なんだか人ごととは思えず、まるでこの番組から新しい生命が生まれたような、そんな感動と歓びと愛おしさを感じてしまいます。凪クン、すくすく元気に、大きな元気な男の子になれ!
ダモンテ海笑さんは、祐子さんと2人で営むこの店を、こう表現します、「メシのうまいパン屋」。
そう、ダモンテ海笑さんが手作りして焼き上げるパンは、とても、とても美味なのです。
坂本美雨さん、なまこちゃんが「ダモンテ商会」を訪ねたのは、ちょうどお昼どき。海笑さんと祐子さんは、すばらしい手作りランチを用意して待っていてくれました。美味、滋味、滋養あふれる、海笑さん&祐子さんワールド全開の、お昼ごはん。
滋養あふれるランチの後、大人たちは島のこと、島の暮らしのこと、島の子育てのこと、あれこれと、おしゃべりに花が咲き、なまこちゃんは、お店のカウンターでお花や顔を描いて。
美しい瀬戸内の海には、大小数多の美しい島々があります。人が暮らす島々のほとんどが、あるひとつの共通する課題を抱えています。少子化と、島民の数の減少です。毎年、人が減り続けている島々の中で、男木島は、ここしばらくの間ずっと「島民の数が横ばい状態」だと言います。そしてそれは「奇跡的なことだ」と言われます。男木島という小さな島が、今も人を惹きつけ、新しい島民を受け入れている証のひとつです。そしてここ1年で、3つの「新しい生命」が島に誕生しました。そのひとりが「凪クン」です。男木島は今、赤ちゃんの泣き声が響く島です。小径を歩けば子供たちの声が聞こえてきます。島のおばあちゃんやおじいちゃんたちは、凪クンのことを自分たちの孫のように愛し、「面倒を見てくれる」「いつも気にかけてくれている」と祐子さんは言います。「子供は男木の宝」だと、島の人たちは昔から語ってきたそうです。島に生きること、島に暮らすこと、島で子育てをし、島で仕事をしていくこと。坂本美雨さん、「ダモンテさん、祐子さんに会えてよかった。この島に来られて良かった」と語りました。
男木島には、使われていない(空き家になっている)古民家がいくつかあります。男木島に生まれ育った福井大和さんは、奥さんの順子さんとお子さんも一緒に、数年前、島へと戻ってきました。写真家、文筆家、アート・ディレクターとしても活動する順子さんは、集落にある築100年を越える古民家を改装して、「男木島図書館」を開きました。2016年の2月のことです。以来この場所は、島の人たちの交流の場であり、島を訪れた旅人にとっての休息の場であり、そしてもちろん、本を読むための場として、存在してきました。そして今も、男木島の大切な宿り木として、同じ場所にあります。順子さんと大和さん夫妻は、島への移住を考えている人たちへの相談にも乗っていて、その「移住相談の窓口」が、図書館にはあります。開館から少し後で、図書館の庭に、ダモンテ海笑さんがベイカリー&バーを開きました。「ダモンテ商会」が図書館から歩いてすぐのところに「新設」されたので、そのバーカウンターはその後、福井大和さんバーテンダーのカフェ&バーとして存続しています。自家栽培のミントをたっぷり使った大和さんお手製の「モヒート」は、ハバナもびっくりの美味しさです。 「男木島図書館」は、昨年の台風の被害によって雨漏りがひどくなり、現在、屋根を中心に工事をおこなっています。ゴールデン・ウィーク前には工事が終わり、春の連休時には、図書館は再開される予定です。
福井順子さん、福井大和さんのご夫妻が、男木島小中学校と保育所の「再開」のために、尽力されました。2人が、子供を連れて島に戻ってきたとき、島の学校は休校になっていました。順子さんと大和さんの子供は、休校になっている男木島の学校を見たとき、「ここに通ってもいいよ」と言ったそうです。そのひと言が、大和さんのエンジンになりました。高松市に交渉し、島民全員の「学校再開を望む」賛同署名を集め、そうして男木島小中学校と保育所は再開したのでした。福井順子さん、大和さんの2人は、男木島の新しいイブとアダムでした。彼らを媒介として、ダモンテ海笑さんと祐子さんはじめ、次々と、新しい島人が、誕生していったのです。
そして、夕暮れの時間になりました。西の桟橋付近には、日向ぼっこの猫たちが集まってきていました。ねこ吸い、そして、猫と一緒の時間・空間に佇む、坂本美雨さんです。
いつまでも、いつまでも……、猫たちと語り合っている美雨さんでした。