- 今月の旅人
- 長塚圭史(劇作家、演出家、俳優)
長塚圭史さんが、広島県の瀬戸内海サイドを旅します。造船と基地の街・呉から、古き町並みが残る酒蔵の街・竹原へ。
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
長塚圭史さんが、広島県の瀬戸内海サイドを旅します。造船と基地の街・呉から、古き町並みが残る酒蔵の街・竹原へ。
この日の昼間、(株)制服のフジ、河崎圭一郎さんの案内で、造船所、「歴史の見える丘」、そして「夕呉クルーズ」と、呉の港界隈を散策した長塚圭史さん。取材はまだまだ終わりません。「呉は、夜が楽しいんです!」という河崎さんに誘われて、「呉ナイト・クルージング」へ。長~い呉ナイト、さぁ、まずはどこへ参りましょう!?
ということで、まずやって来たのがこちらのお店です。居酒屋「利根(とね)」。実はこちら、「NAGOMI Setouchi」取材チームが「呉にやって来たら必ずここで一度は食べる!(呑む!)」というお店でもあります(長塚さんは初訪問)。看板に「焼き鳥」と書かれていますが、地元の魚介類が最高に美味しいお店です。
夜の始まりは乾杯から。「カンパイ!」「Cheers!」「Cincin!」と、言葉は変われどこの作法は万国共通。ということで、「利根」の女将、原田淳子さんと盃を交わします、「おつかれさまでした~!」。
「こちら、看板に焼き鳥って書かれているのに、魚がすごく美味しい!」と長塚さん。女将の原田淳子さんが教えてくれました。「呉の人たちは呑むことも食べることも大好きで、いろいろ食べたいワガママな人が多いんです。飲み屋といえば焼き鳥という感じで、まず焼き鳥は外せないメニュー。ほかにも、おでんや煮込み、揚げ物とか、何でもある店が多いのが、呉の特徴です。魚が美味しいのは当たり前、だってここは瀬戸内の港ですから。あと、うちの人気メニュー、『鶏皮の味噌煮』は絶対食べてみて!」
ということで、名物「鶏皮の味噌煮」。めちゃくちゃ美味しいです!
向かって左が女将、原田淳子さん、そしてお母さん、初代女将の大賀クルミさん。「居酒屋 利根」は、創業60年以上の、呉の老舗中の老舗です。
カウンターにさりげなく置かれていた写真。右の少女が女将の原田淳子さん。ということは、向かって左の「シェ~っ!」している女性が、なんとお母さんの大賀クルミさん! お店の常連客から「クルミちゃん」と呼ばれている理由が、わかりました(笑)。クルミおばあちゃん、お茶目すぎます。
カウンターの常連さんとお話をしていたら(手前の赤のチェックの男性です)、実は、女将・淳子さんの旦那さん! 毎晩この美味しい&楽しいカウンターで晩ご飯(というか、呑み)なんて、うらやましすぎます。
呉といえば、屋台。呉の川沿いには、夜ごとずらっと屋台が並びます。全国でも珍しい上下水道完備の、市からもオフィシャルに認可を受けている、立派な屋台が、いくつも川沿いの遊歩道に。地元の人たちは「おでんならこの屋台」、「シメのラーメンは、ここ」というように、「MYお気に入り屋台」「MYこだわり屋台」があるといいます。「利根」でビールとにごり酒を呑み、新鮮な魚と名物の鶏肉に舌鼓を打った長塚圭史さん。お次は、ずらっと並ぶ屋台のひとつに目をつけました。「名前がいいですね。『あしあと』という屋台。ここに入ってみましょうか」
「あしあと」は、鉄板焼きとお好み焼きが名物の屋台。と言っても、メニューは食べ物も飲み物も多岐にわたります。こちら、店主のカヤさん! 大阪や東京では、お好み焼き屋というと、自分で焼いて作って食べるという店が多いと思いますが、広島ではお好み焼きは店の方が作って供してくれるもの(基本、自分で焼いたりはしない)。というのも、最初にクレープのように粉を敷いて、その上に具をのせて焼いていく広島風お好み焼きは、素人にはムズカシイ技。というわけで、呉では屋台でもお好み焼きはもちろん店主自ら焼いて供してくれます。それにしても、目の前にこんなに立派で大きな鉄板のある屋台なんて、東京ではお目にかかれません。呉ナイト、おそるべし。
呉(広島)では「お好み焼き」を、皆さん略して「お好み」と呼びます。そして、屋台の中で聞いているとこんな風に皆さんオーダーしています、「そば、ひとつちょうだい」。そう、具材に焼きそばが入るので、「そば」なのです(もはや「お好み」とも呼ばず、ただ「そば」と呼ぶ)。ちなみに、具にうどんを入れるのが好きな人もいて、その場合は「うどん、ひとつちょうだい」という風にオーダーします。隣に座った常連さんはこう語りました、「何入れてもいいんよ。ルールはないから。スパゲティ入れたかったらいれりゃあいいんよ。それが、自分の“お好み”じゃからね」。なるほど、「お好み焼き」の「お好み」の意味が、初めてわかりました!
メニューはたくさん! 「基本的に何でも焼けますから、気軽に言ってみてくださいね」とカヤさん。ちなみに、「NAGOMI Setouchi」取材チームのお気に入りは、「豚耳」「豚紅ショウガ炒め」「もやしレバー」。3人くらいで行くと、あれこれ食べて呑めて楽しいです。
「いろんな方がやって来る屋台は楽しいですよ。この中へ入っちゃったら、みんな同じ立場なんですよね。自由に楽しく、気軽に呑んで食べていってもらえたら。皆さん自分の足跡を残していって欲しいですね」。呉に来たら、自分のFOOTSTEPS=足跡を、ここに残していってください。「あしあと」カヤさん、美味しいごはんと酒と楽しい時間を、ありがとうございました。また来ます!
「利根」→「あしあと」とハシゴして……、お次はこちら、屋台「かさ」へ。
いつも笑顔、やさしく柔らかな語り口の店主、坂本さんが長塚さんを迎えてくれました。店主と客との距離感が近いのは屋台の醍醐味です。屋台の外側はそう大きく変わりませんが、内側=店内の雰囲気、空気感は、屋台ごとにがらりと変わります。その「空気」を作っているのが店主。坂本さんの空気とは、「ピースで穏やかな時間」そのもの。
まずは、黒霧島のお湯割りで乾杯! 今夜何度目の乾杯でしょうか……(笑)。何度しても、乾杯はいいものです。知らない誰かも「かんぱーい!」のひとことで距離はぐっと縮み、あれこれ知り合うきっかけに。客同士、肩を寄せ合うように座って飲み交わすのも、屋台の醍醐味。もうお腹はけっこういっぱいですが、やっぱり名物をオーダーしないと! 坂本さんの屋台「かさ」の名物といえば……
おでん! そして、
らーめん! どちらも、絶品です。(他にも、豚足やいろいろこだわり、美味なるメニューがたくさんあります)
呉の夜の皆さん、ありがとうございました! ちなみに……この後もまだもう少し長塚圭史さんの「呉Night」は(取材抜きで)続きました。瀬戸内は、海もいいですが、夜もいいのです。