- 今月の旅人
- 長塚圭史(劇作家、演出家、俳優)
長塚圭史さんが、広島県の瀬戸内海サイドを旅します。造船と基地の街・呉から、古き町並みが残る酒蔵の街・竹原へ。
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
長塚圭史さんが、広島県の瀬戸内海サイドを旅します。造船と基地の街・呉から、古き町並みが残る酒蔵の街・竹原へ。
呉の街を歩く長塚圭史さん。広島市、尾道市には、これまで幾度となく訪れている長塚さんですが、同じ広島県でも呉は初めて。
初めての街なので……案内人をお願いしました。「(株)制服のフジ」の、河崎圭一郎さん。朝の港から、夜の屋台街まで、隅から隅まで知り尽くした(生まれは呉ではないのですが、今ではすっかり)呉男の、河崎さん。心強いガイドです。
案内人・河崎さんの会社をまずはご訪問。呉駅から徒歩5分ほどのところに「制服のフジ」がありました。そしてここで、驚きの「ご縁」を知らされた長塚圭史さん。昨年12月、東京の新国立劇場にて、長塚さんの演出で公演されていた舞台『かがみのかなたはたなかのなかに』。河崎さんがこう語ります、「その中で、海軍士官役の方が履かれていた靴が、こちら制服のフジの靴でした。この白皮靴を、昨年11月にご注文いただき、納品いたしました」。なんと、いきなりびっくりのご縁です。
海上自衛隊の制服や帽子、靴などを作っています。一般の人たちが買えるものもたくさん。キャラクターグッズやステッカー、ピンバッチ、「水兵あられ」なども!
「(株)制服のフジ」
河崎さんが次に長塚さんを誘ったのは、「歴史の見える丘」と呼ばれる場所。軍港都市から平和産業都市への道を歩んだと言われる、明治以降の呉の歴史が一望できる場所として、1982年に作られた展望地。丘の上からは、戦艦大和を建造した船渠(ドック)の上屋(当時の骨組み)を眺めることができます。そして、広大な船渠は、現在はJMUことジャパン・マリン・ユナイテッドの造船所。巨大な船がここで建造されています。
「歴史の見える丘」
建造中の巨大な船。
「僕はけっして船マニアというわけではないのですが」と長塚さん。「でも、大きなもの、巨大なものには、不思議ですがひかれますよね。一度、造船所という場所や、巨大な船を、間近で見てみたいと思っていました」
呉は、造船所の街、そして、軍と基地の街。港付近、海沿いを歩けば、軍艦や潜水艦が次々と視界に入ってきます。
港界隈には、古いレンガ造りの倉庫や建物が今も残ります。使われている建物もあれば、そうでないところも。赤レンガの倉庫は、港でとても絵になります。もしここが、北海道小樽のように再開発されて、クラフト・ビールの工房&お店や、レストラン、ギャラリー、バーなどになったら……
呉にゃん。
港の前を走っていく、JR呉線。
呉さんぽ。
そして夕方。長塚さんは「夕呉クルーズ」へ。建造中の巨大タンカーや護衛艦、戦艦大和建造ドック跡地などを、船の上から眺めることができる30分間のクルーズ「呉湾艦船めぐり」。その1日最後のクルーズは、日没に合わせての、その名も「夕呉クルーズ」。
「呉湾艦船めぐり」
大きなタンカー、船は、こうして間近で見ると、唖然とするほどの巨大さ…
いやはや、なんとも……
巨大です!
日暮れ前、船に灯りがついて、独特の眺めです。
クルーズ船は30分後、呉港へと戻ります。灯りのついた呉の街をこうして海から眺められるのも、このクルーズの魅力のひとつ。ちなみに、クルーズを案内してくれるのは、海上自衛隊のOBの皆さん。呉の港と船について詳しいのはもちろん、「呉愛」「船愛」が、皆さん、スゴイです。楽しい夕呉を、ありがとうございました。