撮影／中村征夫 Photography by IKUO NAKAMURA
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
撮影／中村征夫 Photography by IKUO NAKAMURA
沖縄の海から、北海道の流氷の海、東北の海、東京湾、そして、ミクロネシアの珊瑚礁の海、オーストラリアのイルカやクジラが回遊する海、アラスカ北極圏の極夜まで……世界中の海と大地を旅してきた中村征夫さんが、愛用のカメラと共に冬の瀬戸内を旅していきます。大好きな牡蠣の海を求めて広島湾へ。瀬戸内海の島々を巡ります。
「日本の渚100選」に選ばれた、風光明媚な桂浜。古くは万葉集にも詠われたという由緒ある浜辺です。倉橋島の倉橋町にある美しいビーチ。サーモン・ピンクの色をしたその砂浜は、何処か異国の南の島のよう……。夏になると、広島県内はもちろん、県外からも大勢の観光客が訪れるという桂浜ですが、冬の今はとても静か。この美しい浜辺に、老舗旅館があります。
「シーサイド桂ヶ浜荘」。中村征夫さんの、今宵の宿。
佇まいは古き良き日本のザ・旅館。各お部屋の名前は、この辺りでとれる魚の名！
「はまち」ルーム。
部屋の窓辺に置かれた椅子に座っていると、時間を忘れます。
窓のすぐ外に瀬戸内の海が広がります。
窓を開けると、こう！ まさに文字通りon the beach（オン・ザ・ビーチ）の宿なのです。
窓の真下に、静かな波が寄せています。潮騒をかすかに感じながら夜は眠りに……。
撮影／中村征夫 Photography by IKUO NAKAMURA
1972年（昭和47年）創業。時間が経っても、時代は移り変わっても、窓の外に広がる瀬戸内の風景は、「開業当時と変わらぬ美しさですよ」と、宿の女将、宮下幸子さんは語ります。まさにその通りの滞在になりました。「なごみ・せとうち」の風景と時間が、ここにはあります。
「シーサイド桂ヶ浜荘」
撮影／中村征夫 Photography by IKUO NAKAMURA
建物の1階に、素敵なカフェがオープンしたのは、2016年3月のこと。創業者の娘さんご夫婦が島へ戻ってきて、ここにブックカフェを開きました。天本雅也さん、奈津子さんご夫妻です。奈津子さんと雅也さんは、雅也さんの故郷である福岡で学生時代に知り合い、結婚。横浜で仕事をして暮らしていましたが、ある想いと共に倉橋島へ移住。カフェ・オーナーの天本雅也さんは言います。「もともとここには、シーサイド桂ヶ浜荘の創業者であった妻の祖父が始めた『喫茶アルファ』があったんです。地元の漁師さんたちが、朝の漁のあとにコーヒーを飲みにやって来るような、地元に愛された喫茶店だったそうです。が、お父さんが他界され、そのアルファは残念ながら閉じてしまいました。結婚する前、初めて妻の実家のあるこの場所を訪れ、なんて美しい、そして穏やかな場所なんだろうと僕は思いました。穏やかな空気が流れる倉橋を、桂浜を、そしてこの宿を守りたい、これからも人々が集まる場所にしたいと思い、僕と妻は横浜から移住して（妻は故郷に戻って）、ここにカフェを開いたのです」
海をテーマにした本がたくさん並びます。小説、ノンフィクション、写真集、絵本、洋書も和書も童話も。中村征夫さんの貴重な写真集がそこにはありました。
美しい瀬戸内の海をそばに感じながら、どこか異国の海の写真集を眺める……。
このカフェには、「旅の時間」がゆったりと流れているようです。
カフェの大きな窓からは、美しい桂浜と青い海。
「seaside cafe ALPHA」
撮影／中村征夫 Photography by IKUO NAKAMURA
美味しいランチを食べました。倉橋島、江田島、能美島と連なるこの辺りは、牡蠣生産量が日本一を誇る広島県の中でも、特に有名な牡蠣の名産地。中村征夫さんが選んだお昼ご飯は、「牡蠣フライ定食」。
地元の人たちがやって来て、のんびり時間を過ごしていました。
牡蠣フライ定食は、やっぱり一番人気のようです。
天本奈津子さん、天本雅也さん、美味しいランチ、美味しいコーヒー、穏やかな時間を、ありがとうございました。ごちそうさまでした！
撮影／中村征夫 Photography by IKUO NAKAMURA
宿の女将、宮下幸子さん、（娘の）天本奈津子さん、天本雅也さん、1泊2日の短い滞在でしたが、穏やかな時間をありがとうございました。 幾度も訪れたい、そんな宿でした。なごみ瀬戸内の時間が流れる場所でした。
宿の夕食は、牡蠣づくし！ 倉橋の地酒と共に……。牡蠣に始まり、牡蠣に終わった冬の一日でした。
撮影／中村征夫 Photography by IKUO NAKAMURA
1945年秋田県昭和町（現・潟上市）生まれ。19歳のとき、神奈川県真鶴岬で水中写真を独学で始める。撮影プロダクションを経て31歳でフリーランスに。1977年東京湾に初めて潜り、ヘドロの海で逞しく生きるいのちに触れ感動、以降ライフワークとして取り組む。数々の報道の現場の経験を生かし、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、講演会と様々なメディアを通して海の魅力や海を巡る人々の営みを伝えている。2009年、秋田県潟上市に、フォトギャラリー「ブルーホール」を開設。
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