- 2017
- 12/23
世界的マエストロ、指揮者・井上道義の小豆島紀行
「マエストロの特別レッスン!苗羽小学校音楽部との二日間」04
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- 井上道義(指揮者)
世界的マエストロ、指揮者・井上道義さんにとって、初めての小豆島。今回の旅の目的は、いくつかありますが、その最大のミッションは、島の小学生に音楽を教えること。小説「二十四の瞳」の作者・壺井栄の故郷、そしてオリーブとそうめん、醤油や佃煮の島。この島には、他に類をみない小学生オーケストラがあるのです。70年の歴史を持つ、この小さなオーケストラに、70歳のマエストロが特別レッスンを授けます。この島で、井上さんは何を感じ、島のひとたちは、マエストロからどんなプレゼントを受け取るのでしょうか。
いよいよ、井上さんの苗羽小学校音楽部へのレッスンが始まりました。まずは、子どもたちの演奏を、マエストロはじっくり聴きます。曲は、コンクールの課題曲、スッペの『軽騎兵序曲』。体育館に、高らかにトランペットの音が響きます。指揮をするのは、音楽部を率いる江口麻由先生です。
今度はマエストロが指揮をして、
子どもたちの音を引き出します。
「立って演奏しよう!」井上道義さんが、言いました。音が出ていないからです。返事をする声も小さい。「自分がしゃべるようにしか、音は出ない。自分が想像しているものしか、出せないんだよ」マエストロは、子ども扱いせず、真摯に語りかけました。
休憩時間、江口先生は子どもたちを校庭に連れ出しました。先生は、校庭のいちばん端のプールのところに行きます。「ここまで声が聴こえたら、体育館に戻ってよし!」
子どもたちが、自信を持ち始めました!
マエストロが言いました。「よし!音に表情が出てきた!」
苗羽小学校音楽部が出場する西日本大会の決勝は、12月27日です。
マエストロの想いを受けて、彼らは思い切り演奏してくれることでしょう。
旅人プロフィール
井上道義
1946年東京生まれ。桐朋学園大学にて齋藤秀雄氏に師事。1971年ミラノ・スカラ座主催グィド・カンテルリ指揮者コンクールに優勝して以来、一躍注目を集める。以来、国内外でめざましい活躍を続けている。“クラシック界の異端児”との呼び名を持ち、古典から近現代までカバーする幅広いレパートリー、ジャズとのコラボ、野田秀樹とタッグを組んだ「フィガロの結婚」など既成概念にとらわれない企画性は、クラシック界に強いインパクトを与え続けている。
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