- 2017
- 11/25
モデル、女優、エッセイスト、登山家、写真家・KIKIの瀬戸内紀行
「鷲羽山、児島、松島、下津井。瀬戸内のアートとクラフトを巡る旅。」04
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- KIKI(モデル、女優、エッセイスト、登山家、写真家)
モデル、女優として、またエッセイスト、写真家、登山家として、幅広く活躍するKIKIさんの、瀬戸内紀行。KIKIさんが旅しているのは、岡山県倉敷市の海辺と島。鷲羽山にある備前焼の窯元で人生初めてろくろを使って陶芸に挑戦。「デニム、ジーンズの聖地」として世界に知られる児島では、デニム職人や藍染め職人の工房を訪ねて。瀬戸大橋のたもとの小さな港、下津井に、手回しロースターでコーヒーを自家焙煎する女性がいる聞き、訪ねます。そして、渡船に乗って、島民が現在2人だけという小さな島へ。工芸、民芸、アート、コーヒー、それぞれの分野で手仕事を極めようとしている職人たち、クラフト・パーソンたちに、KIKIさんが出逢い、言葉を交わす瀬戸内紀行。また今回KIKIさんは愛用のライカを持参(デジタルではなくフィルム)。旅の景色を作品として撮影しています。
これは、コーヒー豆。まだローストする前の、生豆です。
これは、手回しのコーヒーロースター。生豆をロースト=焙煎するための、焙煎器です。焙煎のための火力はガスを使いますが、ローストする際ずっと手回し、人力によるロースターです。
こちらは、手回しロースターでローストし終わったコーヒー豆。ケニア、タンザニア、ピーベリーなど、豆ごとに丁寧にローストされ、ジップロックに分けて入れられています。
ローストして間もない豆を挽いて……、これからコーヒーを淹れてくださいます。
ローストしたてで挽かれたコーヒー粉にお湯を注ぐと、最初、コーヒーの粉がいっきにふくらみます。ローストして時間が経つとこのような膨らみは得られません。お湯を最初少しだけ注いでコーヒーの粉全体に染み渡らせると、ぷっくりと粉全体が膨張するように膨らんで、そして豊かなコーヒーの香りが辺り一帯に漂います。コーヒー好きにはたまらない至福の瞬間。ちょっと間を置いて、しばし香りを楽しんだら、ゆっくりお湯を注ぎ入れます。
ここは、岡山県倉敷市の海辺の町、瀬戸大橋の起点の町でもある児島の、小さな漁港がある海辺、下津井。小さな港町に、ひとりで「珈琲店watermark」を営むコーヒーロースターの女性がいると聞き、KIKIさんはやって来ました。手回しロースターで少しずつコーヒーの生豆をローストし、コーヒー豆を販売。時々、イベントやマーケットに呼ばれ出かけていって、コーヒーを淹れることもあるそうですが、基本、住居でもある下津井の古民家のキッチンを工房にして、そこでコーヒー豆をローストして、パッケージしています。
「珈琲店watermark」
北海道生まれ、今は岡山県のこの海辺の港町、下津井に暮らす、栗原しをりさんです。
挽き立て、淹れたてのコーヒーが、カップに注がれます。
「いい香り……!」KIKIさん。コーヒーロースター栗原しをりさんの工房は、住居でもある家のキッチンと入り口の辺り。家は、下津井の港からすぐの小道を入った奥の方にあって、小さなお庭のある古民家風の一軒家。とても素敵です。コーヒーに関係したあれこれと、キッチン用品と、栗原さんがあちこちで集めてきたらしい小物が、雑然と、でもそれがすべて心地いい感じに、並べられたり置かれたり飾られたりしています。「すべてがちょうどいいところにある」という感じの空間で、そこでいただいた1杯のコーヒーは格別でした。玄関にあるゴムの樹が「大きくなってきてしまい、どうしようかと思っています」と笑っていましたが、その緑がどことなく南洋を思わせ、瀬戸内の海辺の風土とも似合っているように感じました。
この人が選んだ生豆、この人がローストした豆、そして、この人が淹れてくれたコーヒーだから飲みたい、栗原しをりさんはそのような方でした。大きな焙煎機ではなく、小さな手回しロースターを使うことを、栗原さんはこう語りました。「まず、自分の手だけで充分できる範囲でやってみようと。実は今も時々忙しくて手が足りないというか、これじゃ難しいかなと思うときもありますが、でも、とりあえず自分で、自分の手だけでできるところまで、やれるところまで、やってみようと。これまでも何でもそうでしたが、自分の手の届く範囲とか、自分の目で見える範囲というような、その中でまず精一杯やってみることが自分に合っているというか。でも、そのせいで今も、オーダーしていただいて長くお待ちいただいているお客様もいて、申し訳ないのですが……」
栗原さんが暮らす下津井の名前が入ったコーヒー豆を、お土産にいただきました。栗原さんがローストしたコーヒー豆は、watermarkのHPから購入できます。
栗原さんが暮らし、日々コーヒーをローストしている下津井は、居心地のいい、美しい港町でした。
KIKIさん撮影。愛用のライカで、フィルムで撮影された写真です。
Photography by KIKI
旅人プロフィール
KIKI
人気モデルとして数多の媒体で活躍するほか、女優として映画やテレビ、CMなどに出演。近年は女性クライマーとして国内はもちろん、世界各地の山を登り、登山とともにロング・トレッキングの歓びを著書やエッセイなどで伝えている。エッセイスト、写真家としても活躍。主著に『美しい山を旅して』(平凡社)、『山が大好きになる練習帖』(雷鳥社)、『山・音・色』(山と渓谷社)、『山スタイル手帖』(講談社)、『LOVE ARCHITECTURE』(TOTO出版)ほか。
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