- 2017
- 11/18
モデル、女優、エッセイスト、登山家、写真家・KIKIの瀬戸内紀行
「鷲羽山、児島、松島、下津井。瀬戸内のアートとクラフトを巡る旅。」03
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- KIKI(モデル、女優、エッセイスト、登山家、写真家)
モデル、女優として、またエッセイスト、写真家、登山家として、幅広く活躍するKIKIさんの、瀬戸内紀行。KIKIさんが旅しているのは、岡山県倉敷市の海辺と島。鷲羽山にある備前焼の窯元で人生初めてろくろを使って陶芸に挑戦。「デニム、ジーンズの聖地」として世界に知られる児島では、デニム職人や藍染め職人の工房を訪ねて。瀬戸大橋のたもとの小さな港、下津井に、手回しロースターでコーヒーを自家焙煎する女性がいる聞き、訪ねます。そして、渡船に乗って、島民が現在2人だけという小さな島へ。工芸、民芸、アート、コーヒー、それぞれの分野で手仕事を極めようとしている職人たち、クラフト・パーソンたちに、KIKIさんが出逢い、言葉を交わす瀬戸内紀行。また今回KIKIさんは愛用のライカを持参(デジタルではなくフィルム)。旅の景色を作品として撮影しています。
朝、一般社団法人クリエイターズ・ラウンジ代表理事、そして彫刻家でもある、片山康之さんと待ち合わせました。待ち合わせ場所は、児島の下津井釣り場そばの、田土浦公園という場所。倉敷市児島は、岡山県側の瀬戸大橋の起点の町ですが、この公園はまさに瀬戸大橋の真下にありました。
見上げれば、真上がこんな感じ。これまでいつも、どこか離れた場所から眺めていた瀬戸大橋。その真下にいるというのが、なんだか不思議な感じです。ここ下津井は、倉敷市児島の小さな港町。かつてここに橋はなく、空はどこまでも広く、その風景を遮るものはありませんでした。今は空を眺めるといつもこの大きな人工の構造物があります。
これからKIKIさんは、島民が現在2人という松島へ渡ります。島へ行くのに定期船はありません。渡船に乗って、島へと渡してもらいます。乗車代を支払う場所のすぐそばに、ワンちゃんがいました。KIKIさん、ライカで1枚。
こちらが、渡船。漁師さんの漁船にお邪魔する感じです。
瀬戸内の海風が心地いい渡船での短い船旅。下津井から松島へは、わずか5分程度です。片山康之さんは、あるお仕事のため、この渡船にしょっちゅう乗っています。KIKIさんが松島へ渡る理由も、片山さんが関わっているあるお仕事に関係しています。
この小さな島が、松島です。オフィシャルには現在「島民が3人」となっていますが、片山さんによると、「実際には2人の方しか暮らしていません」ということ。松島は、周囲およそ1.2kmの島。
松島の港が近づいてきました。写真の左側の方に見える集落が、島の住居のすべてです。戦後間もない頃には100人を越える島民がいたそうです。集落の右手に、ひとつだけ少し大きな建物があります。それが、片山さんがKIKIさんを案内したかった場所。
この建物は、1902年(明治35年)に分教場として創設された歴史を持つ「下津井西小学校・下津井中学校松島分校」。島民の減少とともに子供が不在となり、11年間の休校の後、2000年4月に廃校となったそうです。
片山さんを中心にした芸術家と児島の住民グループの皆さんが、この場所を美術館にする計画を立ち上げました。倉敷市は、瀬戸内海に浮かぶ松島の景観がアート展示にもマッチし、(アーティストたちが)滞在しながらの制作も可能として、廃校になっていた建物とその一帯の再整備を決めました。計画では、鉄骨2階の旧校舎を改装して展示スペースを設置。約1400平方メートルの校庭跡に有料キャンプ場を作るそうです。
新しい吹上美術館のオープン予定は「来年春、4月です」と片山さん。KIKIさんが児島と島に滞在しながら撮影をしての写真作品展示も「面白そうですね!」と話は盛り上がりました。もしかしたら来年のどこかで、KIKIさんはまたここへやって来ているかもしれません。
「吹上美術館」
その後、この島を隅から隅まで知り尽くした片山さんの案内で、松島という小さな島の探索へ。島の片側から片側へ、歩いてみることにしました。
人がほとんど暮らさなくなってずいぶん時間が経っているため、草木がどんどん成長してジャングル化している場所も。それでも、歩いていると、この島が美しい魅力的な島であることが感じられました。
島の片側の端には、小さな神社がありました。これは、ライカで、フィルムで、KIKIさんが撮影した1枚です。
Photography by KIKI
島のもう片側には、瀬戸大橋と瀬戸内を見渡すすばらしい展望がありました。岩場へ降りて、海をすぐそばで感じるKIKIさん。
島に現在いる2人の住人(島民)のおひとりが、野良仕事をしていました。誰が見ているからということではなく、誰も見ていなくても、その人は草を刈って小道を整備し、畑に野菜を育て、家の玄関に至る小道に小さな花々を植えていました。「いいところなんですよ。ぜひまた来てくださいね」と笑顔で温かい言葉をかけてくださいました。
KIKIさん撮影のもう1枚。愛用のライカで、フィルムで撮影された写真です。松島への渡船の乗車代を支払う場所のすぐそばにいた、ワンちゃんポートレイト。
Photography by KIKI
旅人プロフィール
KIKI
人気モデルとして数多の媒体で活躍するほか、女優として映画やテレビ、CMなどに出演。近年は女性クライマーとして国内はもちろん、世界各地の山を登り、登山とともにロング・トレッキングの歓びを著書やエッセイなどで伝えている。エッセイスト、写真家としても活躍。主著に『美しい山を旅して』(平凡社)、『山が大好きになる練習帖』(雷鳥社)、『山・音・色』(山と渓谷社)、『山スタイル手帖』(講談社)、『LOVE ARCHITECTURE』(TOTO出版)ほか。
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