2017
11/11
モデル、女優、エッセイスト、登山家、写真家・KIKIの瀬戸内紀行 「鷲羽山、児島、松島、下津井。瀬戸内のアートとクラフトを巡る旅。」02
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」 。
今月の旅人
KIKI(モデル、女優、エッセイスト、登山家、写真家)
モデル、女優として、またエッセイスト、写真家、登山家として、幅広く活躍するKIKIさんの、瀬戸内紀行。KIKIさんが旅しているのは、岡山県倉敷市の海辺と島。鷲羽山にある備前焼の窯元で人生初めてろくろを使って陶芸に挑戦。「デニム、ジーンズの聖地」として世界に知られる児島では、デニム職人や藍染め職人の工房を訪ねて。瀬戸大橋のたもとの小さな港、下津井に、手回しロースターでコーヒーを自家焙煎する女性がいる聞き、訪ねます。そして、渡船に乗って、島民が現在2人だけという小さな島へ。工芸、民芸、アート、コーヒー、それぞれの分野で手仕事を極めようとしている職人たち、クラフト・パーソンたちに、KIKIさんが出逢い、言葉を交わす瀬戸内紀行。また今回KIKIさんは愛用のライカを持参(デジタルではなくフィルム)。旅の景色を作品として撮影しています。
やって来ました、「KOJIMA JEANS STREET」。ここは岡山県倉敷市の港町、児島です。名前に「島」とつくとおり、その昔ここは島で、江戸時代に埋め立てによって陸続きになったそうです。塩田で有名だった児島には、その後、綿花畑が広がり、そこから繊維産業が発展。日本における軍服や学生服、足袋などの生産地として、長く知られてきました。最盛期にはなんと、日本の学生服の9割以上が児島で製産されていたそう。一方、1965年にこの港町で、日本初の国産デニム、日本製のブルージーンズが誕生。日本人のものづくりスピリットと、児島に培われた繊維産業の歴史などが相まって、いつしか児島は「デニムの聖地」として広く世界にも知られるようになっていきました。Made in Kojima Jeansはホンモノの証とばかりに、今では世界各国の有名ブランドから、児島の小さな工場や工房、アトリエなどが注文を受けて大忙し。今回KIKIさんは、そんなデニムの工房をいくつも訪ねました。
「デニムの聖地」児島の、案内人をしてくださったのは、梶山嘉拡(かじやま・よしひろ)さん。児島に半世紀以上続くものづくり工場、老舗のボトム・ファクトリー「三野産業株式会社」の若き職人のひとりであり、6年ほど前から自分がデザインを手がけるデニムとカジュアルウエアのブランド「CUMO(くも)」を主宰しています。「CUMO」
老舗の三野産業株式会社の工房。児島ナンバーワンの「デニムの裁断師」、大塚誠一さん。17歳でこの世界に入り、現在75歳の現役です。1984年生まれの梶山さんは言います「児島のものづくりは、60代、70代の職人さんたちに支えられているところもあります。今も先輩たちに教わりながら僕らはやっているんです」。若い人たちの工房やブランドもあるし、一方で大塚さんのような生粋の職人さんたちがばりばり働いているのも児島のデニム・ワールドです。
大塚さんが、「昔のやり方」を見せてくださいました。今では、電動の大きなカッターマシンを使って多くの作業がおこなわれていますが、昔はこの専用のカッターと木製の定規を使って、デニムを切っていたそうです。すごい切れ味のナイフで、熟練した職人さんしか扱えないとか。
デニム作りの過程で使う専門の機械が、いくつもありました。
こちらは、英語でIndigo Blueと呼ばれる、藍染めのファクトリー「高城染工場(たかしろせんこうじょう)」。地面にある丸い穴の中に、藍が入っています。
デニムはもちろん、シャツや布バッグ、掛け軸、スカーフ……、いろんなものが藍に染まります。児島デニムに藍染めはなくてはならないもの。
染め職人、角南浩彦さんの手も、藍に染まっていました。
児島の町には、有名なデニム・ブランドやファクトリーから独立して、個人でデニム作りの仕事に関わっている職人さん、デザイナーさん、デザイナーやブランド立ち上げをめざしている人たちがいます。「モリスエソーイング」の森末早智(もりすえ・さちえ)さんも、そんなおひとり。有名なデニム・ブランドで働いていましたが、独立して、住まいのリビングルームをアトリエ兼仕事場にしています。この街でずっと裁縫の職人として働いてきた先輩の女性に手伝ってもらいながら、今は下請けのお仕事をしています。「私よりずっと経験があって、手先の技術も確かなので、今も教えていただきながら一緒に作業をしています」と森末さん。案内してくれた梶山さんは言います「児島のデニム産業にとって、森末さんのような個人の職人も重要な存在です」
児島では知らない人はいないデニム加工のファクトリー「美東有限会社」の、西山範彦(にしやま・のりひこ)さん。背後にあるのは最新のマシン、デニムに直接レーザープリントを施せる機械です。KIKIさんが手にしているモナリザは、今プリントされたばかりのもの。若い職人さんたちが、有名ブランドのデニムにダメージ加工を施したり、なかなかふだんは見せてもらえない裏側を見させてくださいました。「ふだん何気なく履いているデニム、ジーンズが、こんなふうにできあがっているんですね!」とKIKIさんもびっくりです。
「児島ジーンズ・ストリート」の人気店のひとつ、「BLUXE」。SOULIVEというオリジナル・ブランドのデザイナー田中正人さんが、児島デニムの歴史や成り立ち、プライドと愛を語ってくれました。「SOULIVE」
こちらは、ファクトリーの取材もした三野産業のオリジナル・ブランドの直売ショップ。児島ジーンズ・ストリート発祥の時代からある老舗3ブランドのひとつでもあります。「SAIO(サイオ)」。ボーダーシャツの三野高明店長は、三野産業の社長さん!
児島ジーンズ・ストリートの入り口近くにある、老舗のひとつ、オリジナル・デニム・ブランド「カミカゼアタック」のお店「バンザイ帝国」。社長……ではなく「総統」と呼ばれる金澤憲彦さんは児島デニム界の番長です。「カミカゼアタック」
「カミカゼアタック」のお店の前にいつもいる人気者、 金澤総統の愛犬「シロ」!
KIKIさん撮影の、本日の1枚。愛用のライカで、フィルムで撮影された写真です。児島のランチに、梶山さんが「友人、知人が来ると、必ず連れていく店」と言って連れていってくれました。知らないとなかなか見つけられない住宅地の一画です。「児島うどんの名店です」と言うとおり、絶品の天ぷらうどんでした。ごちそうさまでした! Photography by KIKI
旅人プロフィール
KIKI
人気モデルとして数多の媒体で活躍するほか、女優として映画やテレビ、CMなどに出演。近年は女性クライマーとして国内はもちろん、世界各地の山を登り、登山とともにロング・トレッキングの歓びを著書やエッセイなどで伝えている。エッセイスト、写真家としても活躍。主著に『美しい山を旅して』(平凡社)、『山が大好きになる練習帖』(雷鳥社)、『山・音・色』(山と渓谷社)、『山スタイル手帖』(講談社)、『LOVE ARCHITECTURE』(TOTO出版)ほか。
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