2017
11/04
モデル、女優、エッセイスト、登山家、写真家・KIKIの瀬戸内紀行 「鷲羽山、児島、松島、下津井。瀬戸内のアートとクラフトを巡る旅。」01
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」 。
今月の旅人
KIKI(モデル、女優、エッセイスト、登山家、写真家)
モデル、女優として、またエッセイスト、写真家、登山家として、幅広く活躍するKIKIさんの、瀬戸内紀行。KIKIさんが旅するのは、岡山県倉敷市の海辺と島です。鷲羽山にある備前焼の窯元で人生初めてろくろを使って陶芸に挑戦。「デニム、ジーンズの聖地」として世界に知られる児島では、デニム職人や藍染め職人の工房を訪ねます。瀬戸大橋のたもとの小さな港、下津井に、手回しロースターでコーヒーを自家焙煎する女性がいると聞き、訪ねます。そして、渡船に乗って、島民が現在2人だけという小さな島へ。工芸、民芸、アート、コーヒー、それぞれの分野で手仕事を極めようとしている職人たち、クラフト・パーソンたちに、KIKIさんが出逢い、言葉を交わす瀬戸内紀行。また今回KIKIさんは愛用のライカを持参(デジタルではなくフィルム)。旅の景色を作品として撮影していきます。
KIKIさんがやって来たのは、岡山県倉敷市の、鷲羽山。港町の児島から、山の方へ坂道を少し上っていくと、そこが鷲羽山。「鷲が羽を広げたように見える」ことから、鷲羽山(わしゅうざん)と名づけられたのだとか。その山の中腹に、備前焼の窯元「鷲羽窯」があります。KIKIさんは愛犬と一緒に来た……のではなくて、こちらは鷲羽窯のワンちゃんです。
山へと続く小道をのぼっていくと、辺りは森になり、いろんな鳥のさえずり、虫の声が響いてきます。備前窯元「鷲羽窯」は、森に囲まれたそんな場所にあります。窯は工房と繋がっていて、工房では「陶芸教室」や「陶芸体験」もおこなわれています。週に1回、2回と学ぶ教室の参加者は地元の人たちが多いですが、体験の方は、旅行者でも気軽に参加できる内容です。瀬戸内旅の途中で「ちょっと数時間だけ、備前焼体験」というのも可能。最近では海外からの観光客も多いそうです。ギャラリーでは作品や日常使いの器や皿を気軽に手に取ることも。また同じ敷地の中に、地元の旬の食材にこだわった滋味で滋養たっぷりな食事が味わえるレストラン「HÜTTE(ヒュッテ)」があります。詳しくは、「鷲羽窯」のホームページをご覧ください。「備前焼窯元 鷲羽窯×HÜTTE」
尾鷲高明さん、お父さん、お母さんが、KIKIさんを迎えてくださいました。
備前焼とは、岡山県備前市とその周辺を産地として伝承されてきた陶器です。釉薬を一切使わないこと、酸化焔焼成によって堅く締められた赤みの強い色合いや、窯変によって生み出されるひとつとして同じにはならない模様など、独自の特徴があります。「土を感じる」「大地を感じる」風合いや手触りを愛するファンは、日本国内はもちろん、世界中に大勢います。
窯の中。11月、そろそろ火入れがおこなわれている頃かもしれません。
こちらは、火入れ前の器たち。「火入れすると、2割くらい小さくなります」と尾鷲高明さんは教えてくれました。
尾鷲高明さんに教えてもらいながら、KIKIさん、人生初という電動ろくろを使っての陶器作りに挑戦です。
KIKIさんが作ろうとしているのは、比較的薄めで、浅くて、大きく口が開いた器。煮物などを盛ってもいいし、温かい麺を入れても似合うような、そんな大皿のイメージ。作業を始める前に、尾鷲さんが渡してくれた紙に、おおまかなデザインを描きます。そのイメージを先生である尾鷲高明さんが共有して、ところどころ手伝ってもらいながら、作業は進みます。
「思っていたよりずっとずっと難しい。でも、形になってきたかな……」KIKI
こちらは、KIKIさんが撮った写真です。できあがりを、KIKIさんは自分のライカで撮影しました。左奥の小さい皿は、最初にろくろや土に慣れるために作った練習の品。乾かして、秋の火入れのときに一緒に入れてもらいます。焼いて、乾いて、できあがったお皿が届くのは、12月頃。 Photography by KIKI
工房の庭には高明さんのお父さん、孝峰さんの鶏や……(しかも、とてもフレンドリー! 猫や犬のように、撫でても大丈夫)
そして、工房の裏山には、お父さんの果樹園、養蜂園が、広がります。
夕方、高明さんが、自分の田んぼに連れて行ってくれました。(その後、10月末に、稲刈りは無事終わったそうです)
自分たちで育てた米や野菜を、瀬戸内でとれた魚を、自分が焼いた皿や器に盛って、いただく。野菜や米はもちろんオーガニック、農薬や肥料などを一切使わない自然農です。「完全な自給自足は難しいかもしれませんが、そういったオーガニックな循環の中で生きていけたらと思っています」と尾鷲高明さん。「工房のすぐ横の家に、以前両親が暮らしていましたが、引っ越してそこが空いたので、今はそこをAirbnbにしています。海外からの宿泊客も多くて、この夏も盛況でした。庭には父と(レストランHÜTTEの)ドンさんが2人で手作りしたピッツァ窯があります。火入れのときには地元の友人や仲間たちを呼んで、ピッツァを100枚焼くパーティをします(笑)。まだまだこれからやりたいことがたくさんあるので、ゆっくり焦らず、やっていきたいなと思います」と高明さんは、夕陽を浴びる稲穂を前に、語りました。
尾鷲高明さん、お父さんお母さんも、たっぷり1日、何から何まで、ありがとうございました!
KIKIさん撮影の、今日の1枚。愛用のライカで、フィルムで撮影された1枚。鷲羽窯の裏山の、高明さんのお父さん、尾鷲孝峰さんの果樹園で。たくさんの落ちた栗の実と、秋の光。 Photography by KIKI
旅人プロフィール
KIKI
人気モデルとして数多の媒体で活躍するほか、女優として映画やテレビ、CMなどに出演。近年は女性クライマーとして国内はもちろん、世界各地の山を登り、登山とともにロング・トレッキングの歓びを著書やエッセイなどで伝えている。エッセイスト、写真家としても活躍。主著に『美しい山を旅して』(平凡社)、『山が大好きになる練習帖』(雷鳥社)、『山・音・色』(山と渓谷社)、『山スタイル手帖』(講談社)、『LOVE ARCHITECTURE』(TOTO出版)ほか。
KIKI
Instagram
KIKIさん写真展