- 今月の旅人
- 池澤夏樹(作家)
作家の池澤夏樹さんが、敬愛する民俗学者宮本常一の故郷、山口県周防大島を訪ねています。旅も終盤。池澤さんが船で向かうのは、周防大島の西に浮かぶ笠佐島。
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
作家の池澤夏樹さんが、敬愛する民俗学者宮本常一の故郷、山口県周防大島を訪ねています。旅も終盤。池澤さんが船で向かうのは、周防大島の西に浮かぶ笠佐島。
笠佐島出身のご主人、河村幹雄さんと、韓国出身の妻、柱銀さんが営むのが、漁家民宿「かささ」。
幹雄さんは、若いころに島を離れて大阪へ。波乱万丈の人生を送る中で出会ったのが、3人目の妻、柱銀さんでした。
幹雄さんが釣った新鮮な魚を、柱銀さんが料理。二人三脚で客をもてなしています。関アジ、ブリ、タイ、サザエ、タコ・・、いや~、たまりません!なにより幹雄さんの豪快なトークが最高のおもてなし。
翌朝は定期便で笠佐島から周防大島へ。「気を付けて帰ってください、あんまり人生難しく考えずに。気楽にね、気楽に!」
漁家民宿かささ(電話0820-74-3946)
次に向かったのは、周防大島の東の端にある伊保田地区。デジタル詩人西山喬さんは高校卒業後一旦島を離れて四国の大学に進学し、その後故郷に帰ってきました。
いまは周防大島の魅力を探して、島内を訪ね歩く日々。10年ほど前から、詩や写真を通して、ブログで情報を発信しています。自宅から撮影した周防大島の風景をポストカードに。「見ている風景が、いろいろ回っている間に、また景色を変えていて。宮本常一さんも同じことを感じたんじゃないか。大島が好きだから、一生かけて続けていきたい。」
周防大島デジタル詩人西山喬さんのブログ
周防大島を舞台にした池澤夏樹さんの瀬戸内紀行もそろそろ終わり。目の前に広がるのはどこまでも穏やかな瀬戸内の海です。
作家。1945年、北海道帯広市に生まれる。小学校から後は東京育ち。
30代の3年をギリシャで、4-50代の10年を沖縄で、60代の5年をフランスで過ごして、今は札幌在住。
ギリシャ時代より、詩と翻訳を起点に執筆活動に入る。
1984年、文明への懐疑と人間の性を描いた『夏の朝の成層圏』で長篇小説デビュー。1987年発表の『スティル・ライフ』で第98回芥川賞を受賞し、ワープロで書いた初めての芥川賞作家となる。その後の作品に『母なる自然のおっぱい』(読売文学賞)、『マシアス・ギリの失脚』(谷崎潤一郎賞)、『楽しい終末』(伊藤整文学賞)、『静かな大地』(親鸞賞)、『花を運ぶ妹』(毎日出版文化賞)など。自然と人間の関係について明晰な思索を重ね、数々の作品を生んでいる。
2014年より全著作の電子化プロジェクト「impala e-books」を開始。また「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」全30巻に続き、「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」全30巻の刊行を開始。
世界を辺境から見つめるのが池澤夏樹流。文学の眼鏡と科学の眼鏡を携えて、今日も旅先で執筆を続ける。
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