- 今月の旅人
- 池澤夏樹(作家)
旅を愛する作家、池澤夏樹さんが訪ねるのは、山口県周防大島。民俗学の巨人、宮本常一の故郷です。宮本は1907年生まれ。戦中、戦後の日本をくまなく歩き、人々の暮らしを見つめ、記録しました。旅のスタートは周防大島の南に浮かぶ沖家室島から。この橋を渡って、さっそく池澤さんの旅が始まります。
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
旅を愛する作家、池澤夏樹さんが訪ねるのは、山口県周防大島。民俗学の巨人、宮本常一の故郷です。宮本は1907年生まれ。戦中、戦後の日本をくまなく歩き、人々の暮らしを見つめ、記録しました。旅のスタートは周防大島の南に浮かぶ沖家室島から。この橋を渡って、さっそく池澤さんの旅が始まります。
全長およそ380メートルの沖家室大橋を挟んで、向こう側が周防大島、こちら側が沖家室島。橋が架かったのは1983年。それまでは渡し舟が二つの島を結んでいました。
出迎えてくれたのは、沖家室島で民宿「鯛の里」を営む、松本昭司さん。「いやいやどうも。ようこそ沖家室にお越しくださいました。」「いいところですね。風が大変気持ちいい。」
祖父も父も漁師だったという松本さん。「鯛の里」も地元の漁師が釣り上げる新鮮な魚が自慢です。
明治から昭和にかけて、沖家室島は鯛の一本釣り漁で栄え、「家室千軒」と呼ばれるほどの家や店が立ち並びました。かつて「沖家室の銀座通り」と呼ばれた島のメインストリートも、いまは静けさが広がっています。
沖家室島の浄土宗のお寺、泊清寺。
新山玄雄さんは泊清寺の21代目の住職です。「沖家室は古くは九州大名が参勤交代の途中で立ち寄った瀬戸内海の要衝。泊清寺はその本陣でした。」
宮本常一が最晩年に立ち上げた研究会『周防大島郷土大学』。島の歴史や宮本常一の教えを学び、いまに伝えています。池澤さんの来訪を受け、メンバーが歓迎の宴を開いてくれました。和やかに島の一日が暮れていきます。
来週は周防大島で宮本常一ゆかりの地を訪ねます。島の北側に浮かぶ「新宮島」は、干潮のときだけ周防大島と砂の道で繋がる無人の島。この島にかつて暮らした老人がいました。詳しくは来週の番組で。
作家。1945年、北海道帯広市に生まれる。小学校から後は東京育ち。
30代の3年をギリシャで、4-50代の10年を沖縄で、60代の5年をフランスで過ごして、今は札幌在住。
ギリシャ時代より、詩と翻訳を起点に執筆活動に入る。
1984年、文明への懐疑と人間の性を描いた『夏の朝の成層圏』で長篇小説デビュー。1987年発表の『スティル・ライフ』で第98回芥川賞を受賞し、ワープロで書いた初めての芥川賞作家となる。その後の作品に『母なる自然のおっぱい』(読売文学賞)、『マシアス・ギリの失脚』(谷崎潤一郎賞)、『楽しい終末』(伊藤整文学賞)、『静かな大地』(親鸞賞)、『花を運ぶ妹』(毎日出版文化賞)など。自然と人間の関係について明晰な思索を重ね、数々の作品を生んでいる。
2014年より全著作の電子化プロジェクト「impala e-books」を開始。また「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」全30巻に続き、「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」全30巻の刊行を開始。
世界を辺境から見つめるのが池澤夏樹流。文学の眼鏡と科学の眼鏡を携えて、今日も旅先で執筆を続ける。
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