- 2017
- 08/26
バンドネオン奏者・小松亮太の瀬戸内紀行
「小豆島、サウダージの旅。バンドネオンをつれて」04
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- 小松亮太(バンドネオン奏者)
バンドネオン奏者の小松亮太さんが、香川県の島、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島へ旅をしています。壺井栄の小説『二十四の瞳』、その映画の舞台となった海辺の校舎の教室で、緑の稲穂が揺れる棚田を見渡す神社の庭で、瀬戸内の静かな青く輝く海を見渡す浜辺で、小松亮太さんはサウダージの調べを奏でます。島人たちに出逢い、言葉を交わし、島の伝統に触れ、その香りと味に感動して……。小松亮太さんがバンドネオンをつれて、島を旅します。
旅の最後の日。小松亮太さんは、「寒霞渓(かんかけい)」を訪れました。「日本三大渓谷」のひとつとされ、秋の紅葉シーズンには国内外から大勢の観光客を集める名所、「寒霞渓」。
ロープウェイで頂上付近へと上がっていく途中、早くも絶景が広がります。
秋の紅葉の頃、つまり毎年11月下旬~12月初旬が、寒霞渓の観光旅行者のピークなんだとか。秋の頃にここへ来れば、渓谷の山肌は赤や黄色、茶色など、美しい秋色に染まり、そしてそのずっと下には、いつも青い瀬戸内海が。温かそうに見える青い海と、秋の紅葉と、そのコントラストは、たとえば北の山では見られない景色。寒霞渓が特別な証。
寒霞渓展望台からの眺めに、ちょっぴり放心状態の小松亮太さん。
ここは、「二十四の瞳 映画村」。瀬戸内海を見渡す海岸沿いにある、大正・昭和初期の小さな村……
昭和3年の春、田舎の島の、小さな半島に、大石久子先生は自転車に乗ってやって来ました。岬の突端に小さな分教場があり、そこには、瞳をきらきらと輝かせる、小学1年生12人の生徒たちが先生を待っていました。子供たちはみんな、大石先生を心から慕います。その後、先生は本校へと戻ります。そしていつしか日本は戦争へと進んでいきました。やがて、終戦を迎え、大石先生は、10数年ぶりに島の小さな分教場へと戻ります……
壺井栄の小説、『二十四の瞳』。幾度も映画化されてきた その名作の世界を再現したテーマパークが、小豆島「二十四の瞳 映画村」です。日本映画と文学によるテーマパーク。映画『二十四の瞳』のロケ用オープンセットを改築して生まれた場所。映画『二十四の瞳』はもちろん、その他にもいろんなドラマやCMなどの撮影に使われています。
小豆島「二十四の瞳 映画村」
支配人を務める有本裕幸さんに、「二十四の瞳 映画村」を案内してもらった小松亮太さん。懐かしさ、美しさ、そして悲しさの交わるその場所で、バンドネオンを奏でました。
夕方。青々と葉を茂らせたオリーブの林。その小径を抜けて着いたのは……
小松さんを訪ねてきてくれたのは、小豆島町の塩田幸雄町長。島で生まれ育ち、その後東京でばりばりと仕事をしていた塩田さん。島に戻り、今は小豆島の魅力を世界に発信することに尽力しています。
小松亮太さんは、夕陽が当たるオリーブ公園で、
ビル・エヴァンスを奏でました。
短くて濃い夏休みのような、小豆島の旅。そろそろ島を去る時間が近づいてきました。
旅人プロフィール
小松亮太
1973年 東京生まれ。
1998年、ソニーミュージックよりCDデビューを果たして以来、国内はもとより、カーネギーホールやタンゴの本場ブエノスアイレスなどで、タンゴ界における記念碑的な公演を実現している。アルバムもすでに20枚以上を制作。「ライブ・イン・TOKYO~2002」がアルゼンチンで高く評価され、03年にはアルゼンチン音楽家組合(AADI)、ブエノスアイレス市音楽文化管理局から表彰された(授与者はレオポルド・フェデリコとカルロス・ガルシーア)。08年にはアストル・ピアソラの幻のオラトリオ「若き民衆」を東京オペラシティで日本初演。13年にはピアソラの「ブエノスアイレスのマリア」をピアソラ元夫人の歌手アメリータ・バルタールと共演し、ライブアルバムをリリース。
タンゴ界にとどまらず、ソニーのコンピレーション・アルバム「image」と、同ライブツアー「live image」には初回から参加。作曲活動も旺盛で、フジテレビ系アニメ『モノノ怪』OP曲「下弦の月」、TBS系列『THE世界遺産』OP曲「風の詩」、映画「グスコーブドリの伝記」(ワーナーブラザース配給・手塚プロダクション制作)、「体脂肪計タニタの社員食堂」(角川映画)、NHKドラマ「ご縁ハンター」のサウンドトラックなど多数を手掛けている。
これまでのタンゴ界以外での共演者は、ミッシェル・ルグラン、バホフォンド、イジョク(Juck Lee)、ジェイク・シマブクロ、ブロドスキー・カルテット、ミルバ、上妻宏光、石井一孝、NHK交響楽団、小曽根真、織田哲郎、佐渡裕、葉加瀬太郎、宮沢和史など。タンゴ界ではビクトル・ラバジェン、ラウル・ラビエ、マリア・グラーニャ、オスバルド・ベリンジェリ、フアン・カルロス・コーペス、藤沢嵐子など。
15年にリリースした大貫妙子との共同名義アルバム『Tint』は、第57回 輝く!日本レコード大賞「優秀アルバム賞」を受賞した。
16年12月「小松亮太 meets ワールド・バンドネオンプレイヤーズ」開催、17年7月にイ・ムジチ合奏団と共演するなど海外アーティストとの公演も重ねている。
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