- 2017
- 08/19
バンドネオン奏者・小松亮太の瀬戸内紀行
「小豆島、サウダージの旅。バンドネオンをつれて」03
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- 小松亮太(バンドネオン奏者)
バンドネオン奏者の小松亮太さんが、香川県の島、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島へ旅をします。壺井栄の小説『二十四の瞳』、その映画の舞台となった海辺の校舎の教室で、緑の稲穂が揺れる棚田を見渡す神社の庭で、瀬戸内の静かな青く輝く海を見渡す浜辺で、小松亮太さんはサウダージの調べを奏でます。島人たちに出逢い、言葉を交わし、島の伝統に触れ、その香りと味に感動して……。小松亮太さんがバンドネオンをつれて、島を旅します。
小豆島では、いつも「醤油の香り」を感じます。400年の歴史を刻む小豆島の醤油は、伝統ある「木桶仕込み醤油」。島内にはおよそ20軒の醤油蔵があり、1000本以上の木桶が残されているそうです。それぞれの醤油蔵に棲む醤油酵母などの微生物が、蔵ごとの個性を引き出し、小豆島独特の美味なる醤油を生んでいます。小松亮太さんがやって来たのは、「金両醤油」。
金両醤油の原点は、江戸時代中期。塩を作り回船問屋を営んでいた金両醤油の先祖は、明治に入ると醤油作りを始めたそうです。
金両醤油の5代目、小豆島生まれ、島育ち、藤井寿美子さん。今回、小松亮太さんを案内してくださいました。
「香ばしい醤油の香りに包まれた蔵や倉庫。そのすべてが私の原風景です」
藤井寿美子さんはそう語ります。
「私は5代目。ただ愚直においしい醤油を作るために精を出していた祖父の影響でしょうか、なぜか5歳の頃、『わたし、お醤油屋さんになるんだ』と決めていました。醤油の香りに包まれていると、乱れる心も落ち着いてきます。そんな私の願いは、私たちが考えるごく当たり前のお醤油を、ひとりでも多くの方に味わっていただくことです」
醤油の香りは、町の空気の中に自然に存在していますが、蔵の中に入ると、いっきにその香りは「匂い」となります。その匂いに、全身包み込まれるような感覚が。「蔵のあらゆる場所に、いろんな酵母が棲み着いているんです」と藤井寿美子さん。そう、柱や天井、壁、床……あらゆるところに「お醤油の源」が。
小松さんは、醤油が生まれているその「音」を聞きました。
「ある夜明け、妖精の唄を聞いた」
藤井寿美子さんが言います。
「お醤油がどのように作られているか知っていますか? 原料は大豆、小麦、塩だけ。これに発酵という不思議が加わり、熟成の長い眠りを経て、薫り高いお醤油ができあがります。私の生家は、そんな昔ながらの作り方を頑なに守り続ける小さな醤油蔵でした。幼い私の子守歌は、発酵蔵の酵母たちの静かな歌声だった気がします」
「唄が歌いやすいように、手助けしてあげているんだよ」
藤井寿美子さんのお父さんは、そう語ったそうです。
温暖な小豆島の気候、澄んだ水と空気……、島の恵みの助けを借りて、酵母たちが「唄」を歌っている。なんて素敵な表現でしょうか。藤井さんたちは、蔵で働く人々は、毎朝毎夕、酵母たちが「唄」を歌いやすいように、心を込めてカイで彼らに新鮮な空気を送り込んであげています。仕込みから2年を経て、産声を上げる金両醤油です。
小松亮太さん、カイを手に、「唄」のお手伝いに挑戦!
金両醤油では、蔵の見学ツアーもおこなっています。金両醤油のお醤油は、お店で買えます。ホームページからも購入できます。
金両醤油
『shima fes SETOUCHI 2017 ~百年つづく、海の上の音楽祭。~』は、8月26日(土)、27日(日)に、小豆島「ふるさと村」にて開催されます。
チケット情報や内容については、こちらを!
オフィシャルサイト http://shimafes.jp
旅人プロフィール
小松亮太
1973年 東京生まれ。
1998年、ソニーミュージックよりCDデビューを果たして以来、国内はもとより、カーネギーホールやタンゴの本場ブエノスアイレスなどで、タンゴ界における記念碑的な公演を実現している。アルバムもすでに20枚以上を制作。「ライブ・イン・TOKYO~2002」がアルゼンチンで高く評価され、03年にはアルゼンチン音楽家組合(AADI)、ブエノスアイレス市音楽文化管理局から表彰された(授与者はレオポルド・フェデリコとカルロス・ガルシーア)。08年にはアストル・ピアソラの幻のオラトリオ「若き民衆」を東京オペラシティで日本初演。13年にはピアソラの「ブエノスアイレスのマリア」をピアソラ元夫人の歌手アメリータ・バルタールと共演し、ライブアルバムをリリース。
タンゴ界にとどまらず、ソニーのコンピレーション・アルバム「image」と、同ライブツアー「live image」には初回から参加。作曲活動も旺盛で、フジテレビ系アニメ『モノノ怪』OP曲「下弦の月」、TBS系列『THE世界遺産』OP曲「風の詩」、映画「グスコーブドリの伝記」(ワーナーブラザース配給・手塚プロダクション制作)、「体脂肪計タニタの社員食堂」(角川映画)、NHKドラマ「ご縁ハンター」のサウンドトラックなど多数を手掛けている。
これまでのタンゴ界以外での共演者は、ミッシェル・ルグラン、バホフォンド、イジョク(Juck Lee)、ジェイク・シマブクロ、ブロドスキー・カルテット、ミルバ、上妻宏光、石井一孝、NHK交響楽団、小曽根真、織田哲郎、佐渡裕、葉加瀬太郎、宮沢和史など。タンゴ界ではビクトル・ラバジェン、ラウル・ラビエ、マリア・グラーニャ、オスバルド・ベリンジェリ、フアン・カルロス・コーペス、藤沢嵐子など。
15年にリリースした大貫妙子との共同名義アルバム『Tint』は、第57回 輝く!日本レコード大賞「優秀アルバム賞」を受賞した。
16年12月「小松亮太 meets ワールド・バンドネオンプレイヤーズ」開催、17年7月にイ・ムジチ合奏団と共演するなど海外アーティストとの公演も重ねている。
オフィシャルブログ
オフィシャルTwitter