- 2017
- 08/12
バンドネオン奏者・小松亮太の瀬戸内紀行
「小豆島、サウダージの旅。バンドネオンをつれて」02
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- 小松亮太(バンドネオン奏者)
バンドネオン奏者の小松亮太さんが、香川県の島、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島へ旅をします。壺井栄の小説『二十四の瞳』、その映画の舞台となった海辺の校舎の教室で、緑の稲穂が揺れる棚田を見渡す神社の庭で、瀬戸内の静かな青く輝く海を見渡す浜辺で、小松亮太さんはサウダージの調べを奏でます。島人たちに出逢い、言葉を交わし、島の伝統に触れ、その香りと味に感動して……。小松亮太さんがバンドネオンをつれて、島を旅します。
小松亮太さんは、小豆島の「ふるさと村」にある美しい浜辺で、丸尾誉(まるお・たかし)さんと言葉を交わしました。今月末、8月26日(土)、27日(日)の2日間、ふるさと村を舞台に、「島フェス」こと『shima fes SETOUCHI 2017 ~百年つづく、海の上の音楽祭。~』が開催になります。丸尾誉さんは、この「島フェス」を立ち上げた人であり、実行委員長。丸尾さんがなぜ「島フェス」を立ち上げたのか。そこには、瀬戸内の島々と海、そこに暮らす人々への想いがありました……
香川県の港町に生まれ育った丸尾誉さんにとって、瀬戸内の海や風景、島々は、いつも「そこにある身近なもの」でした。高校を卒業すると関西へ出た丸尾さん、その後就職して東京に暮らします。都市への憧れや新しい世界への興味が募っていました。ある日、本を読んでいたら「原風景」という言葉が目に飛び込んできました。「自分の原風景って、なんだろう?」と丸尾さんは考えたそうです。思い出したのは小学生のときに描いた一枚の絵でした。画用紙に、島と港があり、海には小船が浮かんでいました。東京で、自分にとっての瀬戸内、海や港や島々のことを考えました。「その風景がある場所が、自分にとってのスタート地点=原風景なんだろうなと思った」と丸尾さんは語りました。
「自分でそう思ったとき、そう気づいたとき、いてもたってもいられなくなって、故郷へ帰ることにしました。30歳までには何か起業しようというような漠然とした目標がありましたが、まずは故郷へ帰って、自分の原風景の場所で何かを始めるんだ、興すんだ!という想いだけが大きく募りました」
丸尾誉さんがそうして立ち上げたのが、『shima fes SETOUCHI』、通称「島フェス」。コンセプトは「百年つづく、海の上の音楽祭。」でした。「ずっとこれからも続けること、それは、ずっとこれからも島々を愛し、大切にし、島々とともにあること」を意味しています。2011年、東日本大震災の年の夏の終わりに、第1回目の「島フェス」が開催されました。自分の原風景のある瀬戸内の「島で、開催する」ことが、丸尾さんにとっては大切でした。「島とは、日本の縮図であり、未来図である」と丸尾さんは語りました。
6千以上の島々からなる諸島、島国、日本。その中で有人島はおよそ420だとか。近代化する中で失われていく日本固有の豊かな自然、伝統、文化が、それら人が暮らす島々には、日々の暮らしの中に息づいていると丸尾さんは考えます。「島々には穏やかな時間が流れている」と丸尾さん。「一つ一つの島にそれぞれ違った魅力があり、そこに暮らす人々の笑顔を見ていると、日本人がいつしか忘れ去ってしまった大切な時間を思い出させてくれる」。一方で、小さな島々は、日本全体が今直面している少子・高齢・人口減というテーマに、ずいぶん前から直面しています。つまり、これからの日本が向き合うだろう課題に、いち早く向き合ってきたのが、瀬戸内の島々でもありました。つまり、「島とは、日本の縮図であり、未来図なんです」と丸尾さん。
日本の小さな島を訪れて、海の香りや、穏やかな時間を感じること。美しい自然を間近に感じること。百年先の子どもたちにもそんなことをきちんと伝えられるように。島フェスの、「百年つづく」に込めた、それが想い。
小松亮太さんは、丸尾誉さんの想いを胸に、小豆島ふるさと村の海と浜辺に、バンドネオンを響かせました。
『shima fes SETOUCHI 2017 ~百年つづく、海の上の音楽祭。~』は、
8月26日(土)、27日(日)に、小豆島「ふるさと村」にて開催されます。
チケット情報や内容については、こちらを!
オフィシャルサイト http://shimafes.jp
旅人プロフィール
小松亮太
1973年 東京生まれ。
1998年、ソニーミュージックよりCDデビューを果たして以来、国内はもとより、カーネギーホールやタンゴの本場ブエノスアイレスなどで、タンゴ界における記念碑的な公演を実現している。アルバムもすでに20枚以上を制作。「ライブ・イン・TOKYO~2002」がアルゼンチンで高く評価され、03年にはアルゼンチン音楽家組合(AADI)、ブエノスアイレス市音楽文化管理局から表彰された(授与者はレオポルド・フェデリコとカルロス・ガルシーア)。08年にはアストル・ピアソラの幻のオラトリオ「若き民衆」を東京オペラシティで日本初演。13年にはピアソラの「ブエノスアイレスのマリア」をピアソラ元夫人の歌手アメリータ・バルタールと共演し、ライブアルバムをリリース。
タンゴ界にとどまらず、ソニーのコンピレーション・アルバム「image」と、同ライブツアー「live image」には初回から参加。作曲活動も旺盛で、フジテレビ系アニメ『モノノ怪』OP曲「下弦の月」、TBS系列『THE世界遺産』OP曲「風の詩」、映画「グスコーブドリの伝記」(ワーナーブラザース配給・手塚プロダクション制作)、「体脂肪計タニタの社員食堂」(角川映画)、NHKドラマ「ご縁ハンター」のサウンドトラックなど多数を手掛けている。
これまでのタンゴ界以外での共演者は、ミッシェル・ルグラン、バホフォンド、イジョク(Juck Lee)、ジェイク・シマブクロ、ブロドスキー・カルテット、ミルバ、上妻宏光、石井一孝、NHK交響楽団、小曽根真、織田哲郎、佐渡裕、葉加瀬太郎、宮沢和史など。タンゴ界ではビクトル・ラバジェン、ラウル・ラビエ、マリア・グラーニャ、オスバルド・ベリンジェリ、フアン・カルロス・コーペス、藤沢嵐子など。
15年にリリースした大貫妙子との共同名義アルバム『Tint』は、第57回 輝く!日本レコード大賞「優秀アルバム賞」を受賞した。
16年12月「小松亮太 meets ワールド・バンドネオンプレイヤーズ」開催、17年7月にイ・ムジチ合奏団と共演するなど海外アーティストとの公演も重ねている。
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