- 2017
- 06/24
マンガ家・ヤマザキマリの瀬戸内紀行
「男木島、女木島、直島。猫と島とスケッチブック」04
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- ヤマザキマリ(マンガ家)
北イタリア、パドヴァに暮らすヤマザキマリさん。年に何回か仕事で日本へやって来ます。5月の数日、瀬戸内の旅へ行きました。向かったのは、男木島、直島、女木島。ヤマザキさんの希望は、「猫充」(猫で充実)。パドヴァの自宅には猫がいて、いつも一緒に過ごしています。日本へ帰ってくると、猫に逢えない日々が続き、次第にストレスが溜まるといいます。「瀬戸内の島には、猫がたくさんいると聞きました。猫とひたすら戯れたい。他には特にリクエストはありません」とヤマザキマリさん。小さなスケッチブックを携えての瀬戸内の旅が、こうして始まりました。
女木島の港に船が入っていくと……たくさんのカモメたちがきれいに整列している!
もちろんカモメは本物ではありません(笑)。女木島は瀬戸内国際芸術祭の舞台のひとつになってきました。そのため、島内にはアート作品やギャラリーが点在しています。港に整列するカモメたちも、そんなアート作品のひとつ。カモメたちは風を受けてくるくるとまわり、島の空気を感じさせてくれます。
香川県高松市女木町。高松港に立つと、すぐ目の前にあるのが、女木島です。高松港から定期船のめおん号に乗って、およそ20分で到着します。めおん号は、高松港と女木島、男木島を結ぶフェリー。雌雄でめおん。雌の女木島と、雄の男木島です。
女木港でもうひとつ、存在を主張しているのが……鬼。そう、女木島は別名「鬼ヶ島」。島には「鬼ヶ島伝説」が伝わります……。
ヤマザキマリさんは、港の駐車場に停まっている(停まっているのか、それとも「止まって」いるのか、最初わかりませんでした・笑)このバスに乗って、山の上にある「鬼が棲んでいた」という洞窟へ向かいました。でも、このバスが、鬼以上のインパクトです(笑)。
「鬼が棲んでいた?」と語られる洞窟への入り口です。
洞窟の中を案内してくださったガイドのおじさんと、記念写真をパチリ!
島の集落を散策していると、なにやら大勢の猫たちが集まる一軒の家を発見したヤマザキマリさん。男木島に続き猫充のため、早速、猫たちがいる方へ。「こんにちは~」とお庭の方へ声をかけてみると、奥に島のおじさんがひとり。おじさんは、やって来る猫たちにご飯をあげている、とってもやさしい人でした。おじさんが外へ出てくると、庭に散らばっていた猫たちはみんなおじさんのそばに集まってきました。おじさんのお話を聞いたヤマザキマリさん。「なんだか泣きそうになっちゃった。ほんとうに素晴らしい人ですね。猫のために無償ですべてをやっている。いい人がいる島」と感動です。
ヤマザキマリさんは、女木島の小高い山の上にある、展望台へ。瀬戸内の多島海が一望できました。これは、眼下に女木島の女木港と、海峡の向こうに高松港、高松の街が見渡せます。
瀬戸内独特のアーキペラーゴに深くたくさん感動したヤマザキマリさん。マリさんが暮らすイタリアにも、美しい海の景色があり、タコや魚の海の幸があり、漁師や猫が暮らす島や港がありますが、「ここは、世界でここだけの場所。瀬戸内はほんとうに美しい。島ごとに個性と魅力があって、楽しい。これから何度でもまた訪れたいと思いました」とマリさんは笑顔で語りました。
そして女木島でもヤマザキマリさんはスケッチブックを広げて絵を描きました。
10代の頃からずっと「旅」をしてきたヤマザキマリさん。今回、男木島、直島、女木島と旅をして、瀬戸内の海と島々に強く惹きつけられました。マリさんの旅はまだまだこれからも続きます。イタリアへ帰り、そしてポルトガルへ行き、その次は……? マリさんが次に瀬戸内を訪れるのは、いつのことでしょうか。「きっとまた来ます。男木島に家を借りて住むのもいいし、漫画家は、紙とペンさえあれば、どこでも仕事ができるので(笑)」
旅人プロフィール
ヤマザキマリ
1967年4月20日、東京都生まれ。1984年にイタリアへ。フィレンツェの国立アカデミア美術学院に入学。1997年にマンガ家としてプロ・デビュー。比較文学を研究するイタリア人研究者との結婚を機に、シリア、ポルトガル、アメリカを経て、現在はイタリア在住。2010年、古代ローマを舞台にしたマンガ『テルマエ・ロマエ』で、第3回漫画大賞受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。世界各国で翻訳される。著書に『ルミとマヤとその周辺』、『ジャコモ・フォスカリ』ほか。現在、講談社:ハツキスで『スティーブ・ジョブズ』、新潮45で『プリニウス』(とり・みきと共著)を、連載中。
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