- 2017
- 06/17
マンガ家・ヤマザキマリの瀬戸内紀行
「男木島、女木島、直島。猫と島とスケッチブック」03
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- ヤマザキマリ(マンガ家)
北イタリア、パドヴァに暮らすヤマザキマリさん。年に何回か仕事で日本へやって来ます。5月の数日、瀬戸内の旅へ行きました。向かったのは、男木島、直島、女木島。ヤマザキさんの希望は、「猫充」(猫で充実)。パドヴァの自宅には猫がいて、いつも一緒に過ごしています。日本へ帰ってくると、猫に逢えない日々が続き、次第にストレスが溜まるといいます。「瀬戸内の島には、猫がたくさんいると聞きました。猫とひたすら戯れたい。他には特にリクエストはありません」とヤマザキマリさん。小さなスケッチブックを携えての瀬戸内の旅が、こうして始まりました。
今回、直島の案内をしてくださった丸尾誉さんは、直島で古民家カフェ&屋根裏ゲストハウス「瀬戸のおうち seto.UCHI」を営んでいます。直島の地のもの、瀬戸内海の幸がおいしい、レストランであり、カフェ。築100年を越える古民家なのでザ・ジャパンなんですが、中へ一歩はいると、とてもオシャレな空間で、日本ではないような……、ある意味で、「何処でもない場所」というような、素敵なお店です。旅人にとっての宿り木のようなその空間は、外国人旅行者にも大人気です。
そこでいただいた美味なるランチ。
人気の「たこ飯ランチ」。
その美味しいタコをとってきてくれたのが、タコ漁師の「よっちゃん」(通称)。直島のブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ?
ヤマザキマリさんに逢うというので、オシャレに決めてきたよっちゃん。タコ漁師であり、島の名物オヤジ、織田よしおさん。サングラスをはずすと、やさしい笑顔が現れました。70ウン歳、現役のタコ漁師です。海に潜れば魚のよう。
美味しすぎるたこ飯に舌鼓を打っていたヤマザキマリさんを見て、よっちゃん、裏のキッチンへ姿を消すと、その後しばらくして……出てきたのが、これ! 驚きの美味しさでヤマザキマリさん、スタッフ一同、まさに度肝を抜かれるくらいに驚いてしまいました。タコ漁師よっちゃんがとってきたタコを、丸尾誉さんがおよそ1か月ほど干して乾かしたものを、島醤油にさっとつけ込み、網であぶって……。ほんとうに、ほんとうに美味しくてびっくりです。酒の肴にまさにパーフェクト!な感じでもあります。島料理の味。
大爆笑連続のお昼ご飯が終わると、よっちゃんがヤマザキマリさんを自分の船に誘いました。実は、直島のすぐ向かい側に、向島(むかえじま)という小さな、緑濃い島があります。そこが、よっちゃんの生まれた島。直島の向かい側にあるから、向島。瀬戸内のは、「向島」と書いて、「むかいじま」「むかいしま」「むかえしま」など、いろんな呼び方がありますが、同じ名前の島が複数あるそうです。お店から小径を少し歩き、本村港という桟橋のような小さな港から、よっちゃん号が出航しました。向かい側の島、向島まで、およそ3分の船旅です。
左が、「瀬戸のおうち seto.UCHI」店主、「島フェス」実行委員長、瀬戸内の島ガイド、丸尾誉さん、
よっちゃんカメラ目線ですが手はきちんと船を操縦しています。笑
サーモンピンクがかった白い砂浜は美しく、瀬戸内の静かな海はどこまでも青く、なんだか夢のような午後の時間です。
よっちゃんの、手。瀬戸内の時間と歴史、風土が、ここに宿っています。
ヤマザキマリさん、スケッチブックを開くと、よっちゃんの絵を描き始めました。
向島から直島へ、また数分、船の旅をして帰ります。よっちゃん、ヤマザキマリさん、丸尾誉さんと、島の仲間たち。今回一緒に1日旅をしてくれました。楽しい豊かな時間をありがとうございました!
丸尾さんのお店の入り口の壁に、イラスト入りのサインをする、ヤマザキマリさん。
直島へ行かれたら、ぜひ丸尾さんのお店を訪れてみてください。「たこ飯ランチ」はお忘れなく!
旅人プロフィール
ヤマザキマリ
1967年4月20日、東京都生まれ。1984年にイタリアへ。フィレンツェの国立アカデミア美術学院に入学。1997年にマンガ家としてプロ・デビュー。比較文学を研究するイタリア人研究者との結婚を機に、シリア、ポルトガル、アメリカを経て、現在はイタリア在住。2010年、古代ローマを舞台にしたマンガ『テルマエ・ロマエ』で、第3回漫画大賞受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。世界各国で翻訳される。著書に『ルミとマヤとその周辺』、『ジャコモ・フォスカリ』ほか。現在、講談社:ハツキスで『スティーブ・ジョブズ』、新潮45で『プリニウス』(とり・みきと共著)を、連載中。
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