- 2017
- 06/03
マンガ家・ヤマザキマリの瀬戸内紀行
「男木島、女木島、直島。猫と島とスケッチブック」01
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- ヤマザキマリ(マンガ家)
北イタリア、パドヴァに暮らすヤマザキマリさん。年に何回か仕事で日本へやって来ます。5月の数日、瀬戸内の旅へ行きました。向かったのは、男木島、直島、女木島。ヤマザキさんの希望は、「猫充」(猫で充実)。パドヴァの自宅には猫がいて、いつも一緒に過ごしています。日本へ帰ってくると、猫に逢えない日々が続き、次第にストレスが溜まるといいます。「瀬戸内の島には、猫がたくさんいると聞きました。猫とひたすら戯れたい。他には特にリクエストはありません」とヤマザキマリさん。小さなスケッチブックを携えての瀬戸内の旅が、こうして始まりました。
四国、うどん県こと香川県の高松市。高松港から雌雄島海運の定期船に乗って、およそ40分で到着する、男木島の男木港。小さな島で、港から見える急な丘に沿って集落があります。古民家がひしめき合っています。人口はおよそ180人。過疎化が進む瀬戸内の島々の中で、人口が増えているというユニークな島。移住者に人気の島で、島の人口のおよそ4分の1近くが移住者なんだとか。さらに、そのうちの半分くらいが外国人。瀬戸内国際芸術祭の舞台にもなりました。
「そうだよにゃ〜。わてもここでのんびりしてるにゃ〜」
ヤマザキマリ「こんにちは〜。Ciao! Ciao!」
猫「誰や、あんた? 何しにきたん?」
ヤマザキマリ「猫充中〜!」
猫「おお、そこそこそこ。いい感じにゃ〜」
島に移住したご夫婦、ダモンテ海笑さんと祐子さんの家を訪問。結婚して1年間世界を旅して、男木島と出逢いました。お2人は島でベイカリー&カフェを開こうとして、現在、自宅の納屋をお店と工房に改装中です。夫の海笑さんがパンを焼き、妻の祐子さんはグラノーラを手作りし、コーヒーをいれます。
海笑さん焼きたての、パン・ド・カンパーニュ。滋味あふれる美味しさでした。
お父さんがアメリカ人、お母さんが日本人で、日本育ちのダモンテ海笑さん。筑波大学で考古学を学んでいるときに、祐子さんと出逢いました。
祐子さんは、筑波大学のキャンパスにあるスターバックスで店長を務めていました。お2人はそこで知り合い、恋に落ち、結婚。そして世界中を旅して周り、いろんな偶然から男木島へ。そして、不思議なタイミングとご縁によって、この島に移住しました。
もうすぐ(?)ここに、海笑さんと祐子さんのカフェ&ベイカリーができます。
「とても魅力的な島でした。猫もいっぱいいて、充実。大好きな場所です。また来たい。私も住める。いや、住みたい」ヤマザキマリ。
「いかにして働かないで暮らしていけるか、それが私たちがめざしていること」と祐子さん。ダモンテさん「この島ではほんとうにお金を使いません。魚やタコは毎日、島の人がただでくれるので(笑)」。なるほど……。「人も猫もみんな幸せ。猫がのんびり幸せな場所は、いい場所なんだと思う」ヤマザキマリさん。
旅人プロフィール
ヤマザキマリ
1967年4月20日、東京都生まれ。1984年にイタリアへ。フィレンツェの国立アカデミア美術学院に入学。1997年にマンガ家としてプロ・デビュー。比較文学を研究するイタリア人研究者との結婚を機に、シリア、ポルトガル、アメリカを経て、現在はイタリア在住。2010年、古代ローマを舞台にしたマンガ『テルマエ・ロマエ』で、第3回漫画大賞受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。世界各国で翻訳される。著書に『ルミとマヤとその周辺』、『ジャコモ・フォスカリ』ほか。現在、講談社:ハツキスで『スティーブ・ジョブズ』、新潮45で『プリニウス』(とり・みきと共著)を、連載中。
オフィシャルサイト