- 2017
- 04/01
チェリスト・溝口肇の瀬戸内紀行
「琴平、牟礼、仏生山。チェロとライカを連れて」01
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- 溝口肇(チェリスト、作曲家、プロデューサー)
チェロとライカをつれて、溝口肇さんが瀬戸内を旅しています。琴電こと高松琴平電気鉄道に乗って、琴平町へ。そこは、現存する中では日本最古と言われる芝居小屋、「旧金比羅大芝居」のある町。高松市の牟礼は、古来「石と石工の町」として知られてきました。そんな牟礼の丘の途中に、イサム・ノグチが愛し、晩年を過ごした家とアトリエがあります。「イサム・ノグチ庭園美術館」を、溝口肇さんは訪ねます。今ではうどん、でもその昔は「素麺の町」として知られていた仏生山。琴電の仏生山駅を出て少し歩くとそこに、「仏生山温泉」があります。あるとき、小さなこの町に湧き出した温泉、その誕生の秘密とは? 仏生山に生まれ育った若き建築家と、溝口肇さんは言葉を交わします。ライカのシャッターを切りながら、ときどきチェロを奏でながら、溝口肇さんのロード・ムービーのような瀬戸内旅です。
高松と琴平を結ぶ琴電は、全国の鉄道ファンに愛されるローカル・トレイン。溝口肇さん、念願かなって、琴電に初乗車。愛すべきパートナーのチェロと一緒に、乗り込みます。
「わたしは、いわゆる鉄男なんです。車を運転することも大好きですが、幼い頃から鉄道に乗るのが大好きでした」と語る溝口肇さん。のんびりローカル列車の移動を楽しみながら、琴平町へ。
琴電琴平駅に到着。プラットフォームで次の出発を待つ琴電を撮影する溝口肇さん。
溝口肇さんが訪ねたのは、金丸座の愛称で知られる、「旧金比羅大芝居」。1835年(天保6年)に建てられた、現存する中では日本最古の芝居小屋。江戸時代から「讃岐のこんぴらさん」として人々に親しまれた金比羅宮が、琴平町にはあります。今も全国から、世界中から、数多の旅行者と参拝者を集める神社で、その昔、旅人は長い長い石段をのぼり、「こんぴらさん」に参詣し、そして長旅の疲れを旅籠で癒したといいます。その様子は今も変わりません。そして、参詣した人々がもうひとつ楽しみにしていたのが、芝居小屋でのいろいろな催し。芝居、相撲、軽業、操り人形などなど、言ってみればそこは、江戸時代のエンターテイメント施設でした。
初めて金丸座へやって来た溝口肇さん。中へ案内されて、その美しさと風情にびっくり。
今回特別に、ふだん見ることのできない場所にも。これは、舞台の下。金丸座の芝居(歌舞伎)では、機械や電気は一切使われません。ここは、江戸時代そのままの風情と環境を残した芝居小屋、照明は自然光のみ。明かり窓を開閉するのはもちろん人間。回り舞台をまわすのも、何もかも、すべて人力でおこなわれているそうです。
この春も、4月8日から、「第33回 四国こんぴら歌舞伎大芝居」が開催。
その「こんぴら歌舞伎」を最初からずっと見続けてきた金丸座の案内人、二藤龍文さん。
二藤龍文さんは、実は溝口肇さんの大ファン。CDを持っているのはもちろん、コンサートへ行ったこともあるそうです。たっぷり案内してくれた二藤さんへのお礼も込めて、溝口さんはチェロを奏でることに。国の重要文化財でもある江戸時代の芝居小屋に、溝口肇さんの「エスパス」が響きました。
旅人プロフィール
溝口肇
3歳からピアノ、11歳からチェロを始める。東京芸術大学音楽学部器楽科チェロ専攻卒業。学生時代から八神純子、上田知華とカリョウビン等のサポートメンバーを務め、大学卒業後スタジオミュージシャンとして6年ほどレコーディングに携わる。
24歳の時に自身が起こした自動車事故によってムチウチ症となり、その苦しみから逃れるため「眠るための音楽」を作曲し始める。スタジオミュージシャンとしての経験から「眠るための音楽」は自分自身のソロ楽曲として書きためられ、1986年『ハーフインチデザート』(Halfinch Dessert)でCBS SONYよりデビュー。以後、クラシック、ポップス、ロックなど幅広いジャンルで演奏・作曲活動を展開している。
作品には、映画音楽 やテレビ番組の音楽として用いられているものが多い。29年続いている番組「世界の車窓から」のテーマ曲はあまりにも有名。また、日本たばこピースライト、ギャラクシ-企業イメ-ジのCMにも出演し、多くの人々にその姿と音楽を、印象づけることになった。テレビ番組に自身が出演する機会も多く、特に旅番組には数多く出演している。
オフィシャルサイト
<株式会社グレース GRACE MUSIC LABEL>
溝口肇が主催する音楽制作会社。CD、コンサート他音楽に関わる全ての制作。レーベルはハイレゾ、DSDレコーディングに精通し、精力的に音楽性制作を行っている。Grace Music Storeから製品の購入もできる。