- 2017
- 03/25
バイオリン奏者・古澤巌の瀬戸内紀行
「倉敷、児島、丸亀。古くて新しい風景を旅する」04
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- 古澤巌(バイオリン奏者)
古澤巌さんの旅は、岡山県倉敷市で始まりました。倉敷の川縁、そこは、ツアーで幾度も古澤さんが訪れてきた場所のひとつ。江戸の町並みが今に残る通称美観地区で、古澤さんの瀬戸内紀行がスタート。倉敷川の水はかつて瀬戸内へとつながり、海から山へ、山から海へと、物資を運ぶ水の道でした。今その川には、観光用の舟遊びの小舟が行ったり来たり。そんな旅人風情を楽しみながら、なじみの店や大好きな店へ顔を出し、ずっと行きたかった念願の場所で逢いたかった人と出会い、瀬戸内海の夕景を望む秘密の浜辺でバイオリンを奏で、そして、丸亀の山の中、森の樹木の世界へと・・・
愛用のバイオリンをつれての、古澤巌さんの瀬戸内です。
香川県丸亀市の里山にある、「山一木材(やまいち・もくざい)」。住宅をはじめとする、様々なことに使われる木、木材を販売する店。木を切る・加工する木工所も併設された、質実剛健な材木屋です。通りを挟んだ向かい側に、そちらとはずいぶん雰囲気の異なる、複数の建物からなる施設があります。看板には、アルファベットで、「KITOKURAS(キトクラス)」。ここは、「木、木材」をテーマにした、カフェ、雑貨店、遊技場、ギャラリーなどが集まった場所。広々としたその空間にあるものは、すべて木で作られています。
「山一木材」の跡継ぎ、熊谷有記さんが始めた、「キトクラス」。「木に触れて、木の匂いをかぎ、木と遊び、木の魅力を知る」。この場所で熊谷さんは、木と暮らす歓びを表現しています。ここはまるで、山の中に突然現れる、森のデパートです。
熊谷さんと愛犬。むかって左側が生活用品、雑貨などが置かれたライフスタイル・ショップ。熊谷さんの向こう、通りの向こうに見えているのが、山一木材の工場とお店。
樹と暮らす歓び、楽しさ、心地良さを教えてくれる場所です。
こちらは生活用品から衣服、小さなアクセサリーなども置かれた、ライフスタイル・ショップ。
中庭は遊技場。子供たちが遊ぶ道具も木で作られています。
子供たちが本を読んだり絵を描いたり遊んだり。
無垢な木の床の上で過ごす親子の時間がここにはあります。
樹、森を眺めるカフェ。
スイーツからプレートランチまで、とても美味。
木で作られたフリースペースで、古澤巌さんの即興ライブが始まりました。
岡山県倉敷市に流れる倉敷川の舟遊びで始まった古澤巌さんの瀬戸内紀行。古く懐かしい時間が流れているジュエリーショップ「呂舎」で親しい人へのギフト、お土産を買い求め、長年愛用するKAPITALの本社を訪ね、KAPITAL SOHOで憧れの創業者と出会い語らい、たっぷりお買い物も楽しみ、丸亀の住職の友人を訪ね丸亀うどんをはしごして、瀬戸内の島や海を眺める小さな浜辺でバイオリンを奏で、そうして最後は、丸亀の山の中、森のデパートへやって来た古澤さん。古いもの、木で作られたもの、職人が手作りしたもの……、そういったものたちを愛する古澤さんにとって、「愛すべき人とモノと場所に出逢った」今回の旅でした。
旅人プロフィール
古澤巌
1959年東京生まれ、1962年よりバイオリンを始める。74年中学生の部全国第1位。78年~大学でヴェーグのマスタークラスを体験、ヴェーグのバッハ演奏に初めて衝撃を受ける。79年日本音楽コンクール第1位。82年卒業の夏の2カ月間、小澤征爾の招待で、夢のタングルウッド音楽祭のコンサートマスターも務める。その後、初来日のロザンドの公演後パーティーに参加、「君の眼は何かが…」の理由だけで演奏も聞かずに83年文化庁給費留学生としてカーチス音楽院に特別編入。チェリビダッケ、バーンスタインに音楽の両極学ぶ。フィラデルフィアのダウンタウンでストリート演奏を続けながら、夏には南仏でギトリスのキャンプに参加、パリでも長時間に及ぶ丁寧なレッスンを受ける。84年よりチューリッヒ、ロンドンでミルシテインに師事(~8年間)、80を越えて最高の奏法に唖然とする。1985年春、パームビーチコンクールで同い年のコレッティのビオラに衝撃を受け、彼の勧めで、その夏カーチスを卒業しザルツブルクのヴェーグに入門。あまりに厳しいレッスンと観たこともない奏法を2年間学び、「極東で受け継いでゆけ」と送り出され1987年に帰国。アバドコンクール優勝記念イタリアツアーも行う。 夏休み(86年)帰国中、木曽で出会った葉加瀬太郎とジプシーバンドを結成、バイオリニストとしての道を歩み始め現在に至る。TFC(東儀、古澤、coba)メンバー。 最新アルバムはFMジェットストリームのテーマ曲を含む「愛しみ(かなしみ)のフーガ」(HATS)。
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