- 2017
- 03/04
バイオリン奏者・古澤巌の瀬戸内紀行
「倉敷、児島、丸亀。古くて新しい風景を旅する」01
もしあなたが鳥になり、瀬戸内の空を飛んでいけば、あまりに美しいその景色に涙を流すことでしょう。青い湖のような瀬戸内海に、ぽこぽこと浮かんでいる島々。陸地には森や田畑が広がり、穏やかな海には漁船が行き交います。瀬戸内を旅すると、あなたは、海と山とがかくも近くに存在し合っていることに気づくでしょう。山が雲を集め、雨を降らせ、森を育み、流れる川は海へと注ぎ込みます。いのちの繋がり、多様性・・・瀬戸内は、そんなことを教えてくれます。シルクロードの命名者として知られる、ドイツの探検家・地理学者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、明治維新直後、瀬戸内を旅し、日記にこう書きました、「これ以上のものは、世界のどこにもないであろう」。
- 今月の旅人
- 古澤巌(バイオリン奏者)
古澤巌さんの旅は、岡山県倉敷市で始まりました。倉敷の川縁、そこは、ツアーで幾度も古澤さんが訪れてきた場所のひとつ。江戸の町並みが今に残る通称美観地区で、古澤さんの瀬戸内紀行がスタート。倉敷川の水はかつて瀬戸内へとつながり、海から山へ、山から海へと、物資を運ぶ水の道でした。今その川には、観光用の舟遊びの小舟が行ったり来たり。そんな旅人風情を楽しみながら、なじみの店や大好きな店へ顔を出し、ずっと行きたかった念願の場所で逢いたかった人と出会い、瀬戸内海の夕景を望む秘密の浜辺でバイオリンを奏で、そして、丸亀の山の中、森の樹木の世界へと・・・
愛用のバイオリンをつれての、古澤巌さんの瀬戸内です。
かつて、江戸幕府の直轄領、「天領」だった、倉敷。人とモノが各地から集まり、大いに栄えていました。倉敷川沿いには今も、江戸の風情、古い建築物が、数多く残されています。また、明治維新前後や直後に建てられた、モダンな建築物も。
潮の満ち引きを利用して、物資を乗せた舟が数多く行き交っていたという倉敷川。古澤巌さんは、そんな時代に思いを馳せながら、川面を滑る木の船の短い旅を楽しみました。
倉敷の通称「美観地区」。その本町通りを散策する古澤巌さん。観光客でにぎわう川沿いから、道一本隔てた本町通りもまた、江戸の面影を今に伝える場所のひとつです。かつてこの通りは、倉敷と早島を結ぶ街道で、たくさんの旅人、行商人たちが行き交っていたそうです。たんす屋、桶屋など、軒を連ねていたのは、職人たちの店。今も、古く黒い格子戸が残り、軒先には杉玉がつり下げられています。江戸の時代にタイムスリップしたような風景が続きます。
「呂舎(ろしゃ)」は、倉敷市本町にある、手作りジュエリーの店。店内奥に工房があり、そこで日々、松浦聡さんが ひとり静かに仕事をしています。
寡黙な職人、クラフトマンである、松浦さん。洗練されたデザインで、ファンのとても多い 呂舎のジュエリーですが、手に取れるのは、ここ倉敷だけ。「日々、ここで作り、自分がいるこの場所でのみ売りたい」。地産地消・・・とはちょっと異なりますが、でも、地元・倉敷にこだわり続ける職人、松浦聡さんです。
彼が作り上げる繊細で美しいジュエリーたちは、生まれたばかりなのに、すでに、どこか懐かしい感じ。真新しいのに、長い時を経たアンティークのようです。
古澤さんは、松浦さんの工房を見学、あえて古い道具を使って手作りする松浦さんのこだわりに深く感銘を受けました。
倉敷川の舟下りを楽しみ、倉敷うどんに舌鼓を打ち、美観地区の古き良き面影を残す通りを散策、再訪したかった「呂舎」で親しい人へのギフト、お土産を買った古澤さん。大満足な旅の初日でした。
旅人プロフィール
古澤巌
1959年東京生まれ、1962年よりバイオリンを始める。74年中学生の部全国第1位。78年~大学でヴェーグのマスタークラスを体験、ヴェーグのバッハ演奏に初めて衝撃を受ける。79年日本音楽コンクール第1位。82年卒業の夏の2カ月間、小澤征爾の招待で、夢のタングルウッド音楽祭のコンサートマスターも務める。その後、初来日のロザンドの公演後パーティーに参加、「君の眼は何かが…」の理由だけで演奏も聞かずに83年文化庁給費留学生としてカーチス音楽院に特別編入。チェリビダッケ、バーンスタインに音楽の両極学ぶ。フィラデルフィアのダウンタウンでストリート演奏を続けながら、夏には南仏でギトリスのキャンプに参加、パリでも長時間に及ぶ丁寧なレッスンを受ける。84年よりチューリッヒ、ロンドンでミルシテインに師事(~8年間)、80を越えて最高の奏法に唖然とする。1985年春、パームビーチコンクールで同い年のコレッティのビオラに衝撃を受け、彼の勧めで、その夏カーチスを卒業しザルツブルクのヴェーグに入門。あまりに厳しいレッスンと観たこともない奏法を2年間学び、「極東で受け継いでゆけ」と送り出され1987年に帰国。アバドコンクール優勝記念イタリアツアーも行う。 夏休み(86年)帰国中、木曽で出会った葉加瀬太郎とジプシーバンドを結成、バイオリニストとしての道を歩み始め現在に至る。TFC(東儀、古澤、coba)メンバー。 最新アルバムはFMジェットストリームのテーマ曲を含む「愛しみ(かなしみ)のフーガ」(HATS)。
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