第485話 優しさで立ち向かう
-【石川県にまつわるレジェンド篇】脚本家 佐々木守-
Podcast
[2024.12.14]
石川県能美市出身の、天才脚本家がいます。
佐々木守(ささき・まもる)。
佐々木は、いっさい自分の名前を売ろうとせず、いつも黒子に徹していたので、彼の名前を知らないひとも多いかもしれません。
しかし、彼が書いたテレビドラマや漫画原作のタイトルを聞けば、途端に彼の偉大さが見えてくるでしょう。
『ウルトラマンシリーズ』『柔道一直線』『コメットさん』、山口百恵の『赤いシリーズ』、アニメの『アルプスの少女ハイジ』。
漫画原作は、『男どアホウ甲子園』など、枚挙にいとまがありません。
ふるさとの石川県を愛した佐々木は、出身地に近い、加賀市山中町に移り住み、その温泉街を舞台に、連続テレビ小説『こおろぎ橋』を執筆しました。
さらに県内の高校の校歌の歌詞を書き、地元で視聴できる民放局が少なかったので、ケーブルテレビ会社の設立に尽力。社長に就任しました。
佐々木のトレードマークは、白いジャンパーにジーンズという出で立ち。
皇室に取材に行くときも、総理大臣に会うときも、高校に招かれて講演をするときも、いつも必ず、白いジャンパーにジーンズ。
気取らない、飾らない、そして自己顕示しない。
ただ作品に関しては、誰にも思いつかないアイデアで周りをあっと言わせてきました。
『ウルトラマン』で彼が創った怪獣は、ジャミラ。
第23話、タイトルは『故郷(ふるさと)は地球』。
ジャミラは、実は怪獣ではありません。
地球から宇宙に飛び立った宇宙飛行士。
宇宙船のトラブルで、地球に帰ることができなくなり、救出を待っている間に体に異変が起きて、醜い姿に変ってしまいました。
しかし、地球では宇宙船のトラブルを隠蔽。
そのことに怒ったジャミラは、復讐のためにやってきたのです。
怪獣の正体が人間であるという事実に、苦悩するウルトラマン。
誰も発想しなかった作品は、絶大な反響を呼びました。
ちなみに、ジャミラは、アルジェリア独立闘争の最中、虐殺された少女の名前です。
佐々木の人柄や作風を尋ねると、多くのひとの感想は、ただひとこと、『優しい』。
優しさだけを手にして、膨大な脚本を書き切ったレジェンド、佐々木守が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?
『ウルトラマンシリーズ』で知られる脚本家、佐々木守は、1936年9月13日、石川県能美市に生まれた。
両親は共に、教師。忙しかった。
近所の祖母に預けられたが、あいにく、祖母は病弱。
当時の村では、近所の子どもたちが生まれたばかりの赤ん坊の子守をするのが、ならわしだった。
佐々木は、よね子という小学2年生の女の子に、子守をしてもらう。
よね子は学業優秀。本を読むのが大好きだった。
佐々木は、彼女におんぶしてもらいながら、昔話を聞かせてもらう。
どんなに泣いていても、よね子が話し始めると、泣きやむ。
やがて彼も、本が大好きになった。
村人たちが、みんなで助け合い、守り合って、子どもを育てる。
そんな環境が、佐々木の心に相手を思いやる心を育む。
同時に、本から飛び出す物語の世界は、彼をとりこにした。
村に本屋はなかったけれど、「なんでも屋」という店先に、雑誌や本が並ぶ。
同じクラスの子が買った雑誌や本を借りて、むさぼるように読んだ。
『グリム童話』は、擦り切れるほど読んだ。
何か月かに一度、小松市から出前の本屋さんが来た。
オート三輪に、本がぎっしり積まれている。
クルマの音が近づくと…ワクワクして走り出した。
石川県出身の脚本家・佐々木守は、生まれつき、運動が苦手。
兵隊ごっこでも、水泳でも、足手まとい。
農作業も満足にできず、草野球にも居場所はなかった。
暇さえあれば、本を読んでいた。
小学3年生のとき、終戦を迎えた。
5年生のとき、先生に連れられて、村からイチバン近くの都会、小松市に行った。
近隣の生徒たちが小松の高校の講堂に集められ、進駐軍の訓示を聴いた。
初めて聴く英語は、まくしたてるようで、早口に感じた。
「民主主義」という言葉だけ、心に残った。
帰りの汽車まで時間がある。
まだ若い宮本先生は、「小松の町を見物しよう」と佐々木を誘った。
先生は、本屋さんに連れていってくれた。
うれしかった。感動した。
初めての、本屋さん。
いつまででも、そこに居たかった。
江戸川乱歩を買った。大切に胸に抱え、駅に向かう。
先生は言った。
「読み終わったら、オレにも貸してくれよな」
運動が苦手で、他の子どものように走り回ることができない自分を恥ずかしいと思っていたが、帰りの汽車の中で宮本先生は言ってくれた。
「佐々木はさ、おだやかなのがいいよな。
おまえは、優しい。クラスみんなのことを、ちゃんと見てる。
オレはさ、わかってるから、大丈夫、安心して、大丈夫」
佐々木守は、いつしか、小学校の中でリーダーのような存在になっていた。
学級新聞をつくり、校内放送を企画した。
そのとき、彼が夢中になったものがあった。
菊田一夫が書いた連続ラジオドラマ『鐘の鳴る丘』。
放送時間には、ラジオの前に正座。聴き入った。
毎週土曜、日曜の週2回。15分。
あまりの人気ぶりに、やがて、月曜から金曜まで毎日放送されることになる。
兄弟愛、メロドラマ、サスペンス。
あらゆるドラマの要素が散りばめられた作品。
次の話が待ち遠しい。
音だけの世界が、脳内で映像に変る。
この放送を聴いて、佐々木少年の心に、ある思いが湧き上がる。
「ボクも、物語を書いてみたい…」
人間の哀しさと優しさを描いた『鐘の鳴る丘』が、佐々木の原点になった。
脚本家になった佐々木守は、文字通り「書いて書いて書きまくった」。
筆は速かった。
手書きで書いているとき、腱鞘炎になり、腕が動かなくなると、右手に鉛筆をくくりつけて書いた。
彼の口ぐせは、「だってかわいそうじゃない」。
弱者に寄り添い、虐げられたものの哀しさに同化した賢人、佐々木守は、69年の人生を駆け抜けた。
【ON AIR LIST】
◆ウルトラマンのうた / みすず児童合唱団、コーロ・ステルラ
◆おしえて(アニメ『アルプスの少女ハイジ』主題歌) / 伊集加代子
◆柔道一直線 / 桜木健一
◆鐘の鳴る丘 / 川田正子
◆赤い運命 / 山口百恵
【参考文献】
『無冠それでいい 天才脚本家佐々木守の世界』編・著者・片桐真佐紀(ワイズ出版)
『戦後ヒーローの肖像』著・佐々木守(岩波書店)
★今回の撮影は、「能美市 まなび文化スポーツ課・根上学習センター」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
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