yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

STORY

第499話 何度でも立ち上がる
-【軽井沢にゆかりのある作家篇】横溝正史-

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晩年、軽井沢を舞台にした本格探偵小説を書いた、ミステリーの巨匠がいます。 横溝正史(よこみぞ・せいし)。 横溝を一躍有名にしたのは、金田一耕助が事件を解決する、『本陣殺人事件』『獄門島』『八つ墓村』。 多くの作品がテレビドラマ化、映画化されました。 特に彼の名を全国に広めたのが、『犬神家の一族』です。 横溝が48歳のとき、雑誌に連載をスタートさせたこの小説は、日本古来の因習、家督争いをベースに、湖から飛び出した2本の足など、ショッキングなシーンが描かれ、大きな話題になりました。 名監督、市川崑が、二度も映画化。 興行収入で成果を上げるだけではなく、作品としても数々の賞を受賞しました。 この小説での成功を受け、横溝は軽井沢に別荘を購入。 夏の間は、信州の涼やかな風に吹かれながら、執筆に励みました。 彼が10年もの歳月をかけて完成させた『仮面舞踏会』は、晩年の傑作。 避暑地・軽井沢で起きた殺人事件に、金田一耕助が挑む物語です。 ミステリー小説、推理小説、捕物帳、大衆小説からジュブナイルまで、多彩なジャンルを書き分けた横溝ですが、最も好んだ肩書きは「探偵小説家」でした。 5歳で母を亡くした彼は、臆病で人見知り。 父の再婚相手には、血のつながらない兄弟が多くいて、孤独な思いが募ります。 そんな中、彼の心の支えは、国内外の探偵小説を読むことだけだったのです。 さらに彼を襲った病魔、結核。 病気のせいで、思うように執筆できない辛さも味わいました。 江戸川乱歩に認められ、デビューを果たすも、ヒット作は続かない。 一時は忘れられた存在になったのですが、1970年代、角川春樹のプロデュースで、時のひとに返り咲きました。 なぜ横溝は、何度も不死鳥のように蘇ることができたのでしょうか。 今も多くのファンを魅了する探偵小説家、横溝正史が人生でつかんだ、明日へのyes!とは? 横溝正史は、1902年5月24日、兵庫県神戸市に生まれた。 両親は共に、岡山県出身。 発展著しい神戸の造船所に職を求めてやってきた。 他県からやってきた住人で構成される地域は、神戸にあって、まるで隔離されたように貧しい街だった。 二軒長屋の狭い部屋。 母は薬を扱う商いをして父を支えたが、体を壊し、他界した。 父はすぐに再婚。 継母は、自ら産んだ子を連れてきた。 横溝は、孤独だった。 もともと、病弱で、引っ込み思案。 親は忙しく、彼の心のケアまで手がまわらない。 そんなとき、一冊の本に出合った。 三津木春影(みつぎ・しゅんえい)の『呉田博士 探偵奇譚』。 オースチン・フリーマンの「ソーンダイク博士」やコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」を三津木が翻案。 そうして生まれた法医学者の名探偵、呉田秀雄(くれた・ひでお)が事件を解決するストーリー。 薄暗い部屋の片隅で、夢中で読む。 ワクワクした。 刑事でも警官でもなく、探偵という仕事に魅了される。 自由で、型にはまらない。 相手を油断させて、鋭い推理で打ち負かす。 自分でも、見様見真似で書いてみる。 書くことで、違う自分になれる快感に酔いしれた。 さらに…探偵小説を好きな友人に出会い、彼は、孤独から這い上がった…。 横溝正史は、神戸二中に在籍しているとき、違うクラスの少年に出会う。 冬の朝。横溝が、剣道の寒稽古をさぼって、校舎の日当たりのいい場所で本を読んでいると、隣にやってくる同級生がいた。 西田君。 名前は知っていた。色白な美少年。 でも、彼は足に障害を持ち、歩き方に特徴があった。 運動会では、みんなに笑われていた。 西田君も、横溝を知っていた。 とある少年誌のコンクールに、小説が入賞。 先生に叱られて、学校中の噂になっていた。 二人は、ポツポツと話し始める。 お互い、探偵小説が大好きなことがわかった。 そうして二人は親友になる。 川のほとり、造船所の壁沿いの道、学校への通学路、いつも一緒に歩いて、探偵小説の話をした。 うれしかった。 こんなにも気持ちを分かち合える同志がいるとは思わなかった。 夕ご飯を食べるため、一度それぞれの家に帰っても、夜、西田君が迎えに来た。 雨の日でも、傘をさしながら、二人で探偵小説について語り合う。 思えば二人とも、学校では目立たない存在。 でも、二人でいれば、楽しかった。 西田君は言った。 「なあ、横溝、いつかさ、書いてくれよな。すごい探偵小説」 西田君は、中学を卒業すると、病で亡くなった…。 横溝正史と西田君の縁は、切れなかった。 西田君の兄、政治(まさじ)は、弟のように横溝を可愛がった。 海外の探偵小説を、横溝に読ませる。 小説を書くように、励ました。 横溝があこがれていた、ある作家に引き合わせてくれたのも、政治だった。 その作家とは、江戸川乱歩。 横溝24歳、乱歩32歳のとき、運命的な出会いが待っていた。 乱歩が主催する「探偵趣味の会」に、横溝が出席。 温和で優しい乱歩の雰囲気。 横溝はホッとした。 こうして、乱歩が亡くなるまでのおよそ40年間、親密な交流が続くことになる。 政治は言った。 「横溝君、世の中には、書くひとと書かないひとがいる。 君はね、書くひとなんだ。 だからさ、へこたれないでくれたまえ。僕の弟も応援してるからさ」 横溝は、どんなに苦しいときも、思い出した。 冷たい雨が降る中、傘をさして西田君と歩いた、あの泥の道を。 「探偵小説を書きつづけて五十年余。 あるときは情熱の火に身を焦がし、あるときは挫折して冷たい灰となり、しかし、私は不死鳥のごとく蘇ってきた。 私は生ある限り謎と論理の結合に、執念の火を燃やしつづけるであろう。 嗤(わら)わば嗤(わら)え。 私は探偵小説一代男なのである」 横溝正史 【ON AIR LIST】 ◆青空に問いかけて / 小室等  映画『八つ墓村』主題歌 (1996年) ◆メインタイトル(八つ墓村) / 芥川也寸志 (1977年) ◆ハンガリア田園幻想曲 / ドップラー(作曲)、吉田雅夫(フルート)  (『悪魔が来りて笛を吹く』の想像力の源となった曲) ◆何度でも立ち上がれ / エレファントカシマシ
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RECIPE

霜降りひらたけとキャベツのさっと煮

今回は、軽井沢で栽培が盛んな野菜、キャベツを使った料理をご紹介します。

材料 (2人分)
  • 霜降りひらたけ 1パック
  • あさり(殻つき) 150g
  • キャベツ 2枚
  • いんげん 2本
  • にんにく 1片
  • バター 10g
  • 白ワイン(酒でも可) 大さじ3
  • 塩 少々
写真 カロリー / 88kcal(1人分)
調理時間 / 15分
使用したきのこ / 霜降りひらたけ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。あさりはよく洗って砂抜きをする。
  • 2.
  • キャベツはざく切りにし、いんげんは長さ3cmに、にんにくは薄切りにする。
  • 3.
  • 鍋にバター(半量)を熱して、にんにくを炒め、香りが立ったらキャベツ、霜降りひらたけ、あさりの順に重ねて入れる。
  • 4.
  • (3)にワインを回し入れてフタをし、あさりの口が開くまで蒸し煮にする。
  • 5.
  • いんげんを加え、さらに3分ほど煮たら、塩で味を調え、器に盛り付けて、残りのバターをのせる。

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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