yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

STORY

ストーリー

第471話 理性と情(なさけ)を使い分ける
-【千葉県にまつわるレジェンド篇】儒学者 荻生徂徠-

Podcast 

その書物が、現代の経済学、経営学に影響を与えていると言われる、江戸時代中期の儒学者がいます。 荻生徂徠(おぎゅう・そらい)。 彼は、5代将軍綱吉や8代将軍吉宗に仕え、幕府ご意見番として政策の示唆・立案を任されました。 彼の逸話の中で最も有名なものは、赤穂浪士の討ち入り事件の裁きかもしれません。 松の廊下で刀を抜くのは、打ち首必至の御法度。 当時の法にも厳罰が記されていました。 47人の斬首は、誰もが納得する結末でしたが、徂徠は、47士たちの「義」を重んじ、名誉ある切腹を進言したのです。 切腹と斬首。 それは天と地の差があったのです。 法の裁きと、情け。 二つを使い分けることで、徂徠は、世の中を治める真理にたどり着きました。 『徂徠豆腐』という、有名な講談、あるいは落語があります。 芝・増上寺の門下で、ひどく貧しい暮らしをしていた徂徠が、近所の豆腐屋から、ほどこしを受けたお話です。 金のない徂徠に、毎日のように豆腐を持ってきてくれる豆腐屋。 彼が恐縮して断ると、代わりに『おから』の煮つけを分けてくれるようになったのです。 やがて、徂徠が姿を消してしばらく経った頃、火事で豆腐屋は焼けてしまいます。 そこへ、立派な身なりになった徂徠がやってきて、新築の店を与えたのです。 「こんなことをしてもらってはいけません、いただけません」と辞退する豆腐屋の主人に、徂徠は言いました。 「こいつは、新築の豆腐屋なんかじゃない、こいつは、ただの『おから』だよ」と。 この物語には、もちろん脚色はありますが、徂徠の実際のエピソードが元になっていると言われています。 ふだんは、歯に衣着せぬもの言いで、敵をつくり、「炒り豆を食べながら、ひとの悪口を言うのがイチバンの楽しみだ」と、うそぶいていましたが、常にひとを観察し、その心の行方を探ろうとしていたのです。 「理性」と「情け」で乱世を生き抜いた賢人・荻生徂徠が人生でつかんだ、明日へのyes!とは? 将軍吉宗に献上し、今も経営のバイブルとされる『政談』を書いた、江戸時代の儒学者、荻生徂徠は、1666年、江戸に生まれた。 父は、5代将軍綱吉専属の医者。 安定と豊かな暮らしを約束された環境に思えた。 幼い徂徠は、文字も読めないのに、本を開くのが好きだった。 漢書をただ、眺める。 同じ漢字が定期的に現れるのを見て、全体の意味をさぐる。 「こんなものを読んで楽しいのか?」と父に問われ、「はい。楽しゅうございます」と答えた。 徂徠が14歳になろうというとき、そんな平穏な暮らしが、一瞬で崩れる。 父が、綱吉の逆鱗に触れ、いきなりの解雇を告げられる。 ふだんは争いを嫌う穏やかな綱吉だったが、突然豹変する癇癪持ちでもあった。 意味もわからぬまま、江戸お構い。 江戸に住んではいけないという罰を受ける。 一家は、上総長柄郡本納村、現在の千葉県茂原市に引っ越すことになった。 大八車に家財を積み、一家で江戸を離れる。 父は、たいそう落胆したが、徂徠は、新天地への旅を楽しんでいた。 上総の国、千葉県で過ごした10年あまりを、のちに徂徠はこう振り返っている。 「私は、人生で大切なことは、全て、上総で学んだ」 江戸にいた頃の荻生徂徠は、林羅山(はやし・らざん)の末裔の家に通い、朱子学を学んでいた。 朱子学とは、儒学の集大成とも言われる、当時はやりの学問。 中国から伝来し、「理(り)」、すなわち、宇宙の法則やことわりを説く、理性を重んじる経典に従う。 人間の首から上、頭脳こそが重要で、首から下は、欲にまみれ、ろくなものではないという通説に根差していた。 幼い徂徠は、この朱子学に、どこか違和感を覚えた。 ただ、その違和感の源がわからない。 そんなとき、父の破門で、上総、現在の千葉県に引っ越した。 当時の本納村は、山あいの寒村。 のどかだったが、流行の最先端とは無縁だった。 14歳の徂徠は、ここで、学問への飢餓感、孤独を感じる。 閉ざされた村が、彼の才能を開花させた。 わずかな書物を、むさぼるように読む。 本はボロボロになり、四書の一言一句を諳(そら)んじた。 孤独は、朱子学への違和感をさらに高め、なぜ、そう思うのか、己の心の奥深くに降りていく環境を作ってくれた。 勉学に疲れると、徂徠は、外に出かけた。 村の噂で、かつて強盗をしていた頭がいると聞くと、いきなり訪ねた。 「ほんとうに、強盗の頭をしていたんですか?」 真正面から聞かれ、その男は答えた。 「まあな」 「なぜ、あなたは、生き延びることができたんですか?」 強盗は、瞳が綺麗な青年に、真摯に答えた。 「そりゃあ、あれよ、オレは、自分の村では無茶はしねえ。遠く離れた村で、仕事をするんだ。 で、オレの仲間に、オレの村を襲わせる。 ただなあ、とことん、とったりはしねえ。 そこは、名主とあらかじめ握っておくんだよ。ここまでは大丈夫ってなあ。 長く続けるには、長く生かすんだ。 たくさん欲しいっていう欲に勝てねえやつは、生き延びられねえよ」 徂徠は、男の言葉を紙に書きとめる。 生きた勉強の場が、そこにあった。 上総の国、千葉で学んだ10年あまりが、荻生徂徠の礎になった。 26歳で、ようやく江戸に戻ることが許された徂徠は、貧しいながらも、学問を究める。 やがて、柳沢保明(やなぎさわ・やすあきら)に抜擢され、川越藩で力を発揮。綱吉との対面を許された。 塾を開きながら、自分の思想を伝授。 理性だけでは足りぬ。 情け、感情を大切にしないひとは、学問でも政治でも大成しないと説いた。 彼は、迷うといつも、上総での日々を思い出した。 あの、学問への飢餓感と、孤独。 満ち足りれば足りるほど、思い出した。 「小事を気にせず、流れる雲のごとし」 荻生徂徠 【ON AIR LIST】 ◆チェンジ / トータス松本 ◆CRYSTAL BLUE PERSUASION / Joe Bataan ◆EARTH / Joe LoPiccolo & Ray Sandoval ◆LOGIKA / Thee Marloes 【参考文献】 『荻生徂徠 江戸のドンキ・ホーテ』野口武彦(中公新書) 『知の巨人 荻生徂徠伝』佐藤雅美(角川書店)
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RECIPE

レシピ

霜降りひらたけの麻婆ごはん

今回は、荻生徂徠ゆかりの地、千葉県茂原市の特産物でもある、ねぎを使った料理をご紹介します。

材料 (2人分)
  • 霜降りひらたけ 1パック
  • にんにく 2片
  • しょうが 1片
  • 長ねぎ 1本
  • 万能ねぎ 8本
  • ごま油 小さじ2
  • 豚ひき肉 200g
  • 塩 少々
  • 豆板醤 小さじ1・1/2
  • 【A】酒 小さじ1・1/2
  • 【A】甜面醤 小さじ1・1/2
  • 【A】しょう油 小さじ1・1/2
  • 【A】砂糖 小さじ1
  • 【A】水 300ml
  • 【B】片栗粉 大さじ1・1/2
  • 【B】水 大さじ1・1/2
  • ごはん 300g
写真 カロリー / 565kcal(1人分)
調理時間 / 10分
使用したきのこ / 霜降りひらたけ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。にんにく、しょうが、長ねぎはみじん切りにする。万能ねぎは小口切りにする。
  • 2.
  • フライパンにごま油を熱し、にんにく、しょうが、長ねぎを炒めて香りが立ってきたら、霜降りひらたけ、豚肉、塩を順に加え、肉の色が変わったら、豆板醤を加える。
  • 3.
  • 【A】をよく混ぜ合わせ、(2)に加えてひと煮立ちさせ、【B】をまわし入れ、よく混ぜて、ひと煮立ちさせる。
  • 4.
  • 器にごはんを盛り、(3)をかけて万能ねぎをのせる。

yesとは?

番組概要

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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