yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

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ストーリー

第472話 己の後悔と向き合う
-【千葉県にまつわるレジェンド篇】芸術家 高村光太郎-

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「僕の前に道はない  僕の後ろに道は出来る  ああ、自然よ  父よ  僕を一人立ちにさせた広大な父よ  僕から目を離さないで守る事をせよ」 という有名な書き出しで知られる『道程(どうてい)』。 この詩を書いた、レジェンドがいます。 高村光太郎(たかむら・こうたろう)。 高村光雲(たかむら・こううん)という高名な彫刻家の長男として生まれた彼は、当然のことのように彫刻の道に進みますが、一方で、いつも父親の存在に悩みます。 どちらかというと分業制をとり、職人肌だった父に対抗するかのように、文学や絵画にのめりこみ、職人というより、芸術家として独り立ちしたいという欲求に駆られました。 絶えず、父とは違うアイデンティティを探す日々。 そうして辿り着いたのが、詩を書くという行為でした。 いかに人の魂を揺さぶる作品を創るか、ということに心を砕いた74年の生涯の中で、高村光太郎は、二度の大きな後悔を経験します。 ひとは、後悔をせずには生きられないのかもしれません。 そして、その後悔をどう心の中に収めるかが、その後の人生を左右するのでしょう。 光太郎の一つ目の後悔は、妻、智恵子を早くに亡くしてしまったこと。 千葉県の九十九里で、心と体を病んだ智恵子を懸命に看病しますが、その甲斐もなく、妻は、彼が56歳のとき、亡くなります。 「夫が僕のような芸術家ではなく、芸術を解する一般のひとだったり、あるいは全く無関係のひとだったりすれば、君は心を壊さずに済んだのかもしれない」と激しく自分を責めます。 もうひとつの後悔は、太平洋戦争に際して、戦意高揚のための戦争詩を多く書いてしまったこと。 戦後、彼はそんな自分を罰するかのように、7年もの間、岩手県花巻の山奥にひとり、引きこもります。 今なお彼の作品が私たちの心をうつのは、自らの後悔から目をそむけず、真正面から対峙した姿勢にあるのかもしれません。 戦前から戦後を生き抜いた芸術家・高村光太郎が人生でつかんだ、明日へのyes!とは? 彫刻家で画家、詩人としても有名な高村光太郎は、1883年3月13日、東京下谷、現在の台東区東上野に生まれた。 父は、彫刻家の高村光雲。 光雲は、仏像を専門に作る仏師に弟子入りしたが、象牙彫刻が隆盛を極め、仕事がない。 当時、木彫りは衰退していたが、光雲はその木彫りを彫刻の世界に復活させた。 光太郎が生まれたばかりの頃は、家は貧しい長屋暮らし。 やがて父の木彫りが世に認められ、光太郎7歳のとき、父は東京美術学校、現在の東京芸大彫刻科の教授に昇格した。 その人事には、岡倉天心の推薦があったという。 長男だった光太郎には、父という壁が大きく立ちはだかった。 父は、考えること、学ぶことが嫌い。職人気質の親分肌。 多くの弟子たちに囲まれ、酒を飲むのが好きだった。 見栄をはり、他人にお金を用立てたり、仕事を世話することで気分を良くしていた。 光太郎は、幼い頃から体が弱く、大人しい。 4歳まで、人前でほとんど口がきけなかった。 父はどんどん出世していき、家で話す声も大きくなっていく。 父が、怖い。すごいとは思うが、自分とは違うひと。 父の跡を継ぐことを受け入れるしかなかったが、光太郎の中に少しずつ、父に対する違和感が膨らんでいった。 高村光太郎は、7歳か8歳の時、絶対的な存在の父から彫刻刀を3本もらった。 受け取るとき、体が震えた。もう後戻りできない。 自分は父の跡を継いで彫刻家になるしか、道はない。 そう己に言い聞かせる。 父は、伝統的な木彫りの技を事細かく、弟子たちに伝授していた。 それが彼の誇りであり、生きる意味だった。 光太郎は、15歳で東京美術学校の予科に無試験で合格。 この入学を機に、彼は変わっていく。 激しい知識欲が彼を突き動かす。 図書館に通い、むさぼるように、古今東西の本を読んだ。 英語学校に通い、ヴァイオリンを習い、ボディビルで体を鍛えた。 友人と激しく議論する。 世の中が違って見えた。 片時も本を放さず読書。 そんな息子を父は嫌悪した。 「職人に学問はいらん」と、声を荒げることもあった。 しかし、光太郎の向学心を止めることはできない。 やがて、彼は父の弟子たちにも勉強を教えるようになり、辞書を与え、その活用をすすめた。 「文章を書くときの、誤字、脱字、あて書きは、最も恥ずかしいものです。 辞書をひきましょう。辞書には全てが詰まっています。 正確な言葉を書けば、必ず、あなたは尊敬されます」 光太郎が、学問から学んだこと。 それは、常に自分と対話するという姿勢だった。 父はすごいひとだ。 でも、今日の反省や後悔を、その日の酒でごまかしてしまう。 そこに、光太郎が思い描く未来はなかった。 高村光太郎は、長沼智恵子(ながぬま・ちえこ)という女性に会ったとき、「このひとは、僕の理想のひとだ」と思った。 絵の心得があり、文学の話もできる。何より、笑顔が輝いて見えた。 30歳のとき、スケッチ旅行で訪れた、千葉県の犬吠埼。 たまたま、智恵子と一緒になった。 吹き付ける風の中、二人で絵を画いた。 同じ波や空を見て、違う絵を描く。それが新鮮でうれしかった。 智恵子には、ときどき嫉妬を覚えるくらいの才能があった。 先に売れたのは、光太郎のほうだった。 絵に彫刻、詩集の出版。忙しくなる。 やがて、智恵子の心が、壊れていく。 いっさいの仕事を断り、一緒に千葉県の九十九里浜に移り住んだが、智恵子は、先に逝ってしまう。 『智恵子抄』を書くことで、思い出を留める。 それは、針を飲むより苦しい作業だった。 全ての刃が、自分に向く。 それでも、光太郎は、智恵子の死から目をそむけなかった。 戦争に加担したつもりはない。 でも、結果的に、戦意高揚の詩を書いてしまった。 その断罪は、己でしなくてはならない。 『詩人』 いくら目隠をされても己は向く方へ向く。 いくら廻されても針は天極をさす。 高村光太郎 【ON AIR LIST】 ◆若者たち / 森山直太朗 ◆FATHER AND SON / Boyzone ◆Lemon / 米津玄師
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RECIPE

レシピ

霜降りひらたけとほうれん草の包み蒸し

今回は、千葉県の特産野菜、ほうれん草を使った料理をご紹介します。

材料 (2人分)
  • 霜降りひらたけ 1パック
  • ほうれん草 1/2束
  • ベーコン 2枚
  • 酒 大さじ1
  • しょう油 小さじ2
  • バター 10g
写真 カロリー / 137kcal(1人分)
調理時間 / 10分
使用したきのこ / 霜降りひらたけ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。ほうれん草は4cm幅に、ベーコンは2cm幅に切る。
  • 2.
  • クッキングシートを広げて(1)をのせ、酒、しょう油を振り、バターをのせる。
  • 3.
  • しっかりとシートで包み、端をねじって閉じる。フライパンに入れたら、1cm程水をはってフタをし、火にかけて5分ほど蒸す。

yesとは?

番組概要

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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