photo:昭和館
2019年5月に亡くなった思想家・文芸評論家の加藤典洋。「敗戦後論」「アメリカの影」などで、 平和主義を唱えながらも世界で戦争を続ける米国に従属するという戦後日本の「ねじれ」を指摘し続けてきた加藤典洋の、 最後の著作となったのが「9条入門」。戦後日本の「ねじれ」の原点でもある日本国憲法第9条の誕生について書かれたこの本をもち、 作家 小川哲が「加藤典洋」を巡る旅に出ます。時あたかも参議院選挙、さらには憲法改正の国民投票も現実化してきた2019年の夏。 長年加藤典洋が指摘してきた様々な「ねじれ」について、参院選の街頭演説、8月15日の靖国神社などの東京の街風景を歩きながら小川哲が考えます。 与党と野党のねじれ、政治と文学のねじれ、改憲と護憲のねじれ・・・・小川哲と対話をするのは、加藤典洋をリスペクトし、 話題となった2019年東京大学入学式でも「ねじれ」という言葉を使った社会学者 上野千鶴子。 さらには日本文学研究者で、加藤典洋が書いた村上春樹評論の英訳も担当しているマイケル・エメリック。 番組のストーリーテラーをつとめるのは女優藤間爽子。加藤典洋が訴えてきた「ねじれ」に向き合う、一夏のドキュメンタリーです。 「君には分からないだろうが、ねじれというものがあって、それでようやくこの世界に三次元的な奥行きが出てくるんだ。 何もかも真っ直ぐであってほしかったら、三角定規で出来た世界に住んでいればよろしい」 (村上春樹「海辺のカフカ」より)
番組を終えて この番組をやることになるまで、僕は加藤典洋という人のことを本でしか知りませんでした。でも不思議なことに、番組のために話を聞いた人々は、加藤さんの本の話よりも、人間としての加藤さんの話をしたがっていました。物書きが死んだあとは本だけが残ります。それは物書きにとって光栄なことですが、今回こうして追悼番組を作ったことで、それ以外の何か——魂のようなものを残すことができたのではないか、と思っています。本に書かれなかった加藤さんの数々の言葉や思いが、番組を聞いた人の心に残る手助けができたなら幸いです。小川哲 <2020年8月4日 追記> [作家・小川哲 受賞にあたってのコメント] かつて日本は他国に侵略し、多くの人々の命を奪いました。その結果、戦争に敗れ、平和憲法を制定しました。それ以来、僕たちは長い間「戦後」の中にいます。加藤典洋さんは、「戦後」という他人事のような概念を、どうにかして掴みとろうと考え続けました。僕たちはこれからも、永遠に「戦後」を生きることになるでしょう。加藤さんの言葉を通じてこの事実について考えるという無謀な番組に、このような形で光が当たったことを光栄に思います。 [東京大学名誉教授・上野千鶴子 受賞にあたってのコメント] 加藤さんの訃報を聞いたとき、息が止まりそうになりました。この番組は加藤ラブに満ちています。それだけではありません。戦後のわたしたちの出発点にあった「ねじれ」を忘れてはならない、と警告しつづけた加藤さんを、わたしたちが忘れないために作られた番組です。ふたたび巡る敗戦記念日の前に、この番組が受賞してうれしい思いです。
番組を終えて この番組をやることになるまで、僕は加藤典洋という人のことを本でしか知りませんでした。でも不思議なことに、番組のために話を聞いた人々は、加藤さんの本の話よりも、人間としての加藤さんの話をしたがっていました。物書きが死んだあとは本だけが残ります。それは物書きにとって光栄なことですが、今回こうして追悼番組を作ったことで、それ以外の何か——魂のようなものを残すことができたのではないか、と思っています。本に書かれなかった加藤さんの数々の言葉や思いが、番組を聞いた人の心に残る手助けができたなら幸いです。小川哲
<2020年8月4日 追記> [作家・小川哲 受賞にあたってのコメント] かつて日本は他国に侵略し、多くの人々の命を奪いました。その結果、戦争に敗れ、平和憲法を制定しました。それ以来、僕たちは長い間「戦後」の中にいます。加藤典洋さんは、「戦後」という他人事のような概念を、どうにかして掴みとろうと考え続けました。僕たちはこれからも、永遠に「戦後」を生きることになるでしょう。加藤さんの言葉を通じてこの事実について考えるという無謀な番組に、このような形で光が当たったことを光栄に思います。 [東京大学名誉教授・上野千鶴子 受賞にあたってのコメント] 加藤さんの訃報を聞いたとき、息が止まりそうになりました。この番組は加藤ラブに満ちています。それだけではありません。戦後のわたしたちの出発点にあった「ねじれ」を忘れてはならない、と警告しつづけた加藤さんを、わたしたちが忘れないために作られた番組です。ふたたび巡る敗戦記念日の前に、この番組が受賞してうれしい思いです。