石丸:柄本明さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、4週にわたって人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしてまいりました。最終週は、“時を重ねながら長く大切にしていること”についてお伺いしたいと思います。それは一体何でしょうか。
柄本: はい。「朝、必ず水を飲むこと」です。
石丸:その日課は、いつから心がけていらっしゃるんですか?
柄本:う〜ん、いつですかね。でも、朝起きて水を飲みますね。
石丸:起きがけにすぐ?
柄本:大体、これ(手元のペットボトル)…どの位なんですかね?
石丸:500mlペットボトル1本?
柄本:飲みますね。多いですか?
石丸:一気に飲むならね。
柄本:そうですか。
石丸:そうなんですよ。お茶を少し飲む人は多いですけども。飲むと体の中が何か変わりますか。
柄本:どうなんでしょうかね(笑)。
石丸:今や習慣でしょうけどね。
柄本:“大体(1日に)2Lは飲みたいなあ”みたいな。
石丸:「体のために水をどんどん摂りなさい」とよく言われていますよね。では、朝は水ともずくで勢いをつけて(笑)。
柄本:水ともずくで(笑)。
石丸:習慣で続けてやっていらっしゃることってあります?
柄本:朝ね、ラジオ体操をします。
石丸:おお!
柄本:1人で、(ラジオ体操)第1。
石丸:音をかけて。
柄本:今は、音はかけてない。
石丸:じゃあ、頭の中で。これは毎日やるとその日の体のコンディションって?
柄本:何となくね、やった方が。それと、やっていて思うけど、ラジオ体操第1って上手く出来ているんじゃないかなあ。
石丸:僕も毎朝やっているんですよ。
柄本:そうですか!
石丸:音をかけないで、脳内で音を鳴らして。
柄本:ああ、なるほど。
石丸:自己流なんですけども。
柄本:第1ですか。
石丸:第1です。第2は、ゴリラみたいな動きがあって可笑しくて出来ないです。お話を伺っていると、健康面は気をつけていらっしゃる感じですね。
柄本:そうですね。
石丸:やっぱり、長く俳優として生きていくための秘訣として、“健康”というのは?
柄本:健康が一番じゃないですか。
石丸:突然なんですが、「芝居を50年やってても恥ずかしいんだ」という言葉を耳にしたことがあるんですけれども、これは一体どういう意味なんですか。
柄本:だって人が見ているじゃないですか(笑)。
石丸:いや、そうですけど(笑)。
柄本:僕はやっぱり、“恥ずかしい”ということがないと、どうもいけないような…だって、恥ずかしいですもん。
石丸:見られちゃうわけですからね。
柄本:だから、恥ずかしい壁が高い人ほど、良い俳優さんじゃないかなっていう。そのハードルを下げて「僕はこれも簡単に出来ますよ」という人より、見られるということに対して“恥ずかしさ”を持っていて「その高い壁は登れないんだ」っていう方に魅力を感じますね。
石丸:そうなんですね。
柄本:(ハードルを)低くして「はい、僕はこれを飛べます」っていうことが風潮としてはあるような。
石丸:それはあまり魅力的じゃない?
柄本:僕にとっては。でも、いわゆる社会の風潮というものが、今はどうもそちらの方に行っている感じがしますね。
石丸:こんな言い方は良くないかもしれませんが、一般の人でも出来るようなことをやって見せちゃうということが、世の中の流れ。
柄本:そう。その簡単さというものが、どうも経済とも結びついている。
石丸:僕より大先輩でいらっしゃいますけども、(昔は)“誰もが出来ないような芸を見せる時代”だったじゃないですか。笑いについてもそうですし、伝統の文化にしても。それが今、その高みを観に来ない人が多くなっちゃっているんですかね。
柄本:ですかね。
石丸:「恥ずかしい」とおっしゃいましたけど、その恥ずかしいようなことまでも求めてやり続ける俳優であれ、ということでもありますか。
柄本:それと、良い歳なんだけど“結局、何にも出来ないんだな”っていうことばかり気付きますね。
石丸:深いですね。私から見たら全て出来ていらっしゃるのに。でも“もっとこうしたい”とか、“こうであったら良いな”とか。
柄本:だからどうしても欲望というものはどんどん肥大化していくんでしょうね。生きているっていうことは、常に満足しない。
石丸:特に興味があることに関してはね。
柄本:そうですね。
石丸:話は変わりますが、柄本明ひとり芝居「煙草の害について」は、柄本さんご自身が構成、演出をされて1993年から上演されていて、再演化されています。これは柄本さんならではの作品とあって、今後も大切にしていきたい演目なのでしょうか。
柄本:そんなことないんですけどね(笑)。
石丸:(笑)。
柄本:チェーホフという(ロシアの)作家がいるんですけども、チェーホフの短編で「煙草の害について」という戯曲(ホン)があるんです。これは読んじゃうと15〜20分位で終わっちゃうんですよ。その戯曲を見つけて“やりたいなあ”なんて思って。チェーホフの他の作品から使えるところを僕がいろいろくっつけて、1時間くらいのものにしたんですけども、本当に大したものじゃないです。
石丸:いやいや。
柄本:もうね、情けなくなってくるんだけどね。結局、戯曲だったらその作家のせいに出来る、「その作家の書いた戯曲をやっているんだ」ということになるけど、自分で構成とか(ストーリーを)増やしたりしているじゃないですか。最初は良かったんですよ、とにかく勢いだけでやってたりしたんですよ。どんどんやっていくと、“いや、ちょっとこの戯曲おかしいぞ”って(笑)。
石丸:(笑)。
柄本:だけどもう始めちゃったからね。
石丸:だけど何十年もやっていらっしゃると、そこを手直しされたりするんですか。
柄本:いい加減な芝居だから、そんなこともするんだけど、苦しいですね。
石丸:苦しいですか。
柄本:苦しいんだけど、“もうしょうがない”と。まあ、のたうち回るまではいかないんだけど。
石丸:やり続けることに面白さがありますよね。もちろん意味もあるんでしょうけども。
柄本:でも、何かをやるということは本当に難しいですね。そんなことばかり考えますね。
石丸:でも答えはないですもんね。
柄本:そうなんですよ。答えがないのが幸せでもあり、また不幸せというか、答えを求めちゃう自分というものもいますしね。情けないもんですね(笑)。
石丸:いやあ、深いお言葉です。演劇の大ベテランである柄本さん、俳優人生は60年を超えていらっしゃいますけども、今後俳優を目指す若者たちに対して何かお言葉をひとつ頂戴出来たら。
柄本:う〜ん、何だろう。ないかなあ(笑)。
石丸:(笑)。
柄本:すいません。
石丸:でもね、答えのないものですしね。でも、“やりたい”という想い。以前お話されたように、お金じゃないし、その人の熱ですよね。
柄本:そう。だからやりたいと思ったらやれば良いし、それに対して保証は何も出来ませんからね。
石丸:ですよね。やるためには覚悟もね。
柄本:でも、その時覚悟していたって変わっていくわけですからね。
石丸:確かにそうですね。
柄本:だからよく「覚悟はできているな」とか言うけどね、“そんなもの何の役に立つの”っていうことじゃないですか(笑)。
でも、(世間は)そういうフレーズが好きなんだよね。
石丸:そうなんですよ。
柄本:「お前は覚悟があるのか」、「はい、あります!」。どうもこれが世間ですね。
石丸:(笑)。柄本さん、この番組は2019年4月からスタートしたんですけども、実は今日が最終回なんですよ。これまでいろんな方に出てもらった時間なんですけれども、最後が柄本さんということが、僕は本当に嬉しかった。
柄本:いえいえ、本当に役立たずで申し訳ない。
石丸:いえいえ、光栄です。また私も柄本さんの舞台を追いかけていきたいと思いますので。テレビでもご一緒することがあるかもしれません。その時はどうぞよろしくお願いいたします。
柄本:よろしくお願いします。
石丸:そして改めて1か月に渡り、どうもありがとうございました。
柄本:ありがとうございました。