石丸:柄本明さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。
柄本:宜しくお願いします。
石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
柄本:今日は、「お金」です!
石丸:お金。
柄本:(笑)。
石丸:どういう想いがあって「お金」と?
柄本:お金、嫌いですか?
石丸:好きですよ。
柄本・石丸:(笑)。
柄本:僕も好きですね(笑)。なんだか、やっぱりないとしょうがないですしね。
石丸:お金を手に入れるのって…私たちの仕事は、体を張ってナンボじゃないですか。
柄本:そうですね。
石丸:今はもちろんないと思いますけど、若い頃はお金で苦労様されていたことはありましたか。
柄本:まあ、バイトはやってましたね。でも、若かったし、みんなそうだったし、青春ですよね。
石丸:前回は“青春の誤解”とおっしゃっていましたけど、その時は、NHKで大道具をやってらした時は、お金(給料)が良かった。
柄本:そう!
石丸:良かったのに俳優になられた。これもひとつの“青春の誤解”になりますか。
柄本:俳優になったというか、要するにバイトをする時間が削られていったというか(笑)。芝居の時間が増えていって、バイトをする時間がなくなっていったということですよね。
石丸:その当時、特に劇団を作られている方たちというのは、収入源はバイトで、(そこで)稼いできたものを現場に投じる。
柄本:今でもそうじゃないですか。
石丸:もちろんね。だからこそバイトが減っちゃうと大変な思いをするのに、敢えて大変な思いをしている?
柄本:そうですよね。どうなんでしょうね、お芝居。
石丸:(笑)。“誤解”とおっしゃいましたけど、なぜ誤解をするんでしょうかね。
柄本:若いからねえ。それで“夢”ですよね。「スターになる」とか、そういうこともあるでしょうし。
石丸:でしょうね。
柄本:そんなことを思ったこともないけど。
石丸:最初の頃って、面白いから、あんまりお金のことを考えずにがむしゃらにやっているじゃないですか。
柄本:そうですね。若いから、体が動くしね。走れますからね。
石丸:確かに(笑)。
柄本:もう走れないからね(笑)。
石丸:徹夜も出来たし、いろんなことに夜通し時間をかけることも出来た。そこにお金は結びつかないかもしれないけれども、得るものは大きかったですよね。
柄本:そうですね。だからお金は大切だけど、お金っていうものは全てじゃないですね。どうもそう思います。やっぱりお金じゃないんじゃないのかな、生きていて。
石丸:大切なものだけども。
柄本:大切ですよ。あそこに行くのに電車賃を払わないといけないんだもの。走れないし(笑)。
石丸:もう体力がないですから。私も。そういった意味では、得るものがあるために、最低限お金は必要?
柄本:最低限というか、最大限欲しい(笑)。
石丸:(笑)。あれれ。
柄本:欲しいんだけど(笑)、でも、最大限欲しければ欲しいほど思うのは、“やっぱりお金じゃないな”っていうことなのかな。
石丸:なるほどね。“お金ありき”じゃないということですよね。“お金が欲しいからやる”じゃなくて、“やった結果、お金が入ってくる”と。
柄本:まあ、入ってくりゃ良いんですけどね(笑)。
石丸:(笑)。柄本さんは劇団を立ち上げて長いですが、そこに(自分の)お金を投じるということもありましたよね?
柄本:お金がないからね、投じられないんですよ。だから、何でも自分たちでやりますね。芝居をやる時は、道具とか必要なものは全部自分たちで作ったりとかね。それでセットのある芝居はたくさん出来ないとかね。
石丸:なるほど。
柄本:金がかかるから。だから金のかからないお芝居ですよね。でも、本は素晴らしいものがいくらでもあるから、そういう本を調べていくと、お金をかけなくてもいろいろ(出来る)。だからお金がないということが知恵になりますよね。
石丸:そうですね。
柄本:そこで経済が生まれてないから、そういったところで我々の舞台はやってますね。おそらく劇団ってそういう場所が多いんじゃないかっていう気がするんですけど。
石丸:そうですよね。今ある小屋の中で最大限出来ることをやって、という風に。そう思うと、劇団東京乾電池さんは、最初に始めた小屋から大きいところへ移ったりしましたでしょうか。
柄本:うちは、本多劇場が最大限みたいな感じで。
石丸:キャパ800位ですか。
柄本:いや、400位ですね。今、僕らがやる所は自分たちのアトリエがあるので、大体そこで。それかザ・スズナリとか。
石丸:下北沢のね。まさに下北沢と言ったら演劇のメッカですよね。特に小劇団、アングラの方もそうですし。
柄本:そうですね。
石丸:周りのエリアでいろんなことをやっているじゃないですか。
柄本:まあ、本多(一夫)さんのお力ですよ。
石丸:本多劇場自体は大きくて立派ですけども、スズナリさんとかは。
柄本:最初はスズナリですね。あそこはアパートでしたからね。
石丸:あ、そうなんですか。
柄本:だから…スズナリでは演ったことがありますか。
石丸:観に行くことはありますけど。
柄本:脇に行くと小部屋があって。昔の部屋があった。
石丸:そうだったんですね。本当に、もろに小劇場。今やある意味そこにしかないような世界ですもんね。
柄本:そうですね。良い劇場ですね。僕は一番好きな劇場ですね。
石丸:今でもそちらの劇場に上がられることはありますか。
柄本:ありますね。うちはたまに使わせていただいてます。
石丸:そういうエネルギーが一番充満している下北沢。その一番エネルギーが充満していた時代に乾電池さんも旗上げされていて、拠点はずっと下北沢?
柄本:そうですね。
石丸:下北沢の良さってどういうところにありますか。
柄本:どうなんでしょう…。
柄本・石丸:(笑)。
柄本:交通の便が良いというか、ずっとそこにいるから“住めば都”的なところもありますし。
石丸:観に来る人たちの感じって、どうですか?
柄本:うちなんかは、自分が歳を取ってきたから、若い人もいるんだけど、観に来る方はお年寄りが多いですかね。だから、そういうお年寄りのある種のパワーを感じますね。やっぱり若い人たちだけではなく、“何か起こらないかな”ということがあるんじゃないですかね。
石丸:アングラの時代というのは、どちらかというと詰めかける人は同じ世代の人が多かった。その人たちがずーっと時を重ねて一緒に成長して、という感じなんですかね。
柄本:そうですね。観なくなる人もいるでしょうし。
石丸:そうですよね。そういった意味での下北沢パワーは僕も憧れます。「あそこに行くと何かが起こってる」とかね。