石丸:浅利陽介さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、3週にわたって人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしてまいりました。最終週は、“時を重ねながら長く大事にしていること”についてお聞きしたいと思います。浅利さん、それは何でしょう?
浅利:ちょっと恥ずかしいですけれども、「演じること」です。
石丸:それは、どのあたりが大事にしたいポイントですか。
浅利:「よーいスタート」で目と目を合わせた瞬間から始まるというか、一緒に走り出す感覚。台詞の語尾を聞いて、“自分の台詞だ”というキャッチボールの瞬間。そして幕が下りる、またはカットがかかるという終わりの瞬間があるという、あの、何というか“ダッシュしている時間”を人と共有出来ている感じがすごく楽しいですね。
もちろん、俳優同士でもそうなんですが…子供の時に、「金太」という台詞があったんですよ。
石丸:そうなんですね。
浅利:十朱幸代さんが出ていらっしゃった舞台に、僕は子役で出ていたんです。(舞台に)出て来て、「お名前、何て言うの?」という振りがあって、それで「金太」と言うんですけど、そこで会場がボーンッって笑うんですよ。
石丸:なんででしょう?
浅利:なんでかは分からないんです。その「金太」というフレーズなのか、子供が出てきて「金太」と言う、その名前(のこと)なのか分からないんですけど、そこで、来てくれているお客さん達がすごく笑ってくれたのが記憶に残っていて。
石丸:それは心地良かったですか?
浅利:めっちゃ気持ち良かったです。それが、初めて“こんなことで笑ってくれた”みたいな瞬間だったんです。もちろん大人になってからも、喜劇に出ていると、積み上げて積み上げて“ここで笑い(を取る)”というタイミングで笑いが来なかったりとか、来たりとか…。何ですかね、シンプルに言うと、やろうとしたことが上手くいくのがすごく楽しいですね。
石丸:分かります。
浅利:あと、予期せぬハプニング。持っていなきゃいけない剣が飛んでいったとか。
石丸:はいはい。たまにありますよね(笑)。
浅利:あるべき物がここにないとか、あと、台詞がポーンっと飛んでいって。
石丸:そういうこと、あります?
浅利:あります、あります。そういう時にどういう風につなげていくか、という瞬間が結構好きで。あの1秒、0.5秒が。
石丸:そうですか。僕はあの瞬間になると、いつも俳優を辞めたくなるんですけど(笑)。
浅利:そうですよね、本当にそうですよね(笑)。
石丸:そういう試練をくぐりぬける快感はありますよね。
浅利:上手くいったらそうなんですけど、もちろん上手くいかなかった時もあるんですが、その瞬間が舞台の醍醐味で。もちろん僕も(予期せぬハプニングは)あってほしくはないですけど、あったらあったで、例えば石丸さんと共演した時に「あの時こうだったじゃないですか」と言うと、「あった!」という…深く関われた感じがするというか。思い出にはなるじゃないですか。
石丸:なりますよね(笑)。
浅利:多分、そういうことを共有出来るのが楽しいんですかね。
石丸:そういうことって、結構(記憶に)刻み込まれますよね。
浅利:はい。“俳優として役作りしている時間”というよりも、どちらかというと、そのエネルギーを持って来て、(舞台上で)バチバチするのか、絡み合っていくのか、という瞬間が楽しいんですかね。
石丸:僕もそう思います。あれはやめられないですよね。そういうハプニングがありつつ、上手くいけば物凄いことが起こるじゃないですか。
浅利:そうなんです。
石丸:二度と同じことはないじゃないですか。だから、そういう瞬間を大切にしちゃいますよね。
浅利:はい。
石丸:浅利さんと僕は、ドラマ「相棒」でご一緒しましたよね。あれはカチンコが鳴ってスタートするんですけど、僕は浅利さんのパフォーマンスが本当に面白かったです。
浅利:(笑)。
石丸:“この人、どうしてこうやって喋れるんだろう”とかね。水谷さんも面白いんですけども。
浅利:そうですね。
石丸:相通じるものを感じて。あの瞬間は僕も楽しかったんですけれども。こうやって俳優をやっていると新しい発見ってありますよね。
浅利:滅茶苦茶ありますね。
石丸:きっと我々も、今後どこかでまたご一緒するかもしれませんけど、その時は新しいことやスリルを味わいながら…冷や汗はあんまり出したくないけど(笑)。
浅利:(笑)。もちろんそうです。無ければ無いに越したことはないですよね。
石丸:そうですよね。
そうやっていろんなものを積み重ねていく浅利さんを、私もこれからも拝見させて頂きたいと思います。益々のご活躍を、ということで、1か月に渡り、どうもありがとうございました。
浅利:ありがとうございました。