石丸:浅利陽介さん、今週もよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”を伺っております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
浅利:今日は、「家族との時間について」です。
石丸:すごく笑顔になっていますね。ご家族とのお時間は取れています?
浅利:そうですね。毎日毎日、子供とコミュニケーションを極力取るように色々としています。
石丸:自分の中では、いつも家族が大きな位置を占めている?
浅利:本当にそうですね。不思議なもので、仕事の仕方も全部変わってきちゃって(笑)。前は1〜2時間(かけて)、台本を覚えたりしていたんですが、子供が出来てからはそんな時間を取っている暇がないので、30分だけ。
石丸:集中して覚える。
浅利:そうです。
石丸:良いですね。その秘訣は? どうやって30分で出来ちゃうんですか。
浅利:出来ないですよ。30分経ったら「今日はここまで」。そして今日出来なかったら明日に持ち越す。
石丸:なるほどね。「どうしたって、そういう時間が取れないから仕方なく」というのもあるけど、すごく集中するんでしょうね。
浅利:すごく集中します。この間あったのは、台本をバーッと喋っていたら、隣で0歳の子供が「あー、あー」って相槌を打っていて(笑)。「いやいや、寝ろよ」とか言いながら(笑)。多分、隣でうるさかったんでしょうね。小さく喋っていたつもりがだんだん大きくなっていたんでしょうね。
石丸:きっと、その子も俳優になるんじゃないんですか(笑)。
浅利:どうですかね(笑)。
石丸:ご家族と一緒にいると、心も安定しますか?
浅利:やっぱり帰る場所があるのは嬉しいですね。失敗して帰って来たり、上手くいかなかったことを消化しきれないまま家の扉をガチャッと開けた瞬間に、「ワーッ」と騒いでいる子供に向かって妻が「やめてー」とか言う声が聞こえると、そこで「どうした? どうした?」って。
石丸:忘れちゃう?
浅利:忘れちゃいますね。
石丸:良い意味でリセット。強制ですけどね(笑)。
浅利:そうですね(笑)。
石丸:なるほど。お子さんが寝静まった後は、奥さんと会話したりとかも?
浅利:「今日はこうだったね。ああだったね」とか。
石丸:お互いの話を?
浅利:そうです。でも、僕の仕事の話は5秒位のもので(笑)。
石丸:そうですか(笑)。
浅利:どちらかというと僕から、「(今日は)どうだったの?」って聞いて、そうすると、「娘が、何か知らないけど、『2度と帰ってこないで』って言うんだよね」って言うんですよ。
石丸:え?
浅利:「“二度と”って言葉を使ったんだよね」って。「へえ、どこで覚えたんだろうね。その言葉」とか(笑)。
石丸:お父さんが読んでいる台詞から取ったんじゃないんですか(笑)。
浅利:そうか! そうかもしれないですね。1回、面白かったのは、終わった台本をその辺りに置いていたら、それを娘が取り出して僕のモノマネをしているんですよ。“あ、あんな事をしている”と思って、あれは衝撃でしたね。
石丸:すごいですね。それだけパパの姿を見ているってことですよね。
浅利:僕が気付いていないだけで、“見てるんだな”という瞬間が結構ありますね。
石丸:面白いなあ。お子さんは今いくつなりましたか。
浅利:今、2歳と0歳がいて。
石丸:お子さんの成長が楽しみですね。
浅利:すごく楽しみです。見るものが全て新鮮なんですよね。暑いとか寒いとか、雪もそうですし。旅行に連れて行ったりすると、行く前と帰ってきた後だと言葉の数も表情も格段に変わるんですよね。なので、お芝居もそうですけど、子供が観に行っても良いものに連れて行ったりとか、極力いろいろするようにしています。その時にしている顔を見ると、“そうだよね。こういうリアクションをするよね”って。
石丸:そうか。なるほどね。
浅利:僕の仕事の役に立つんです。落ち込む時とか、全力で落ち込むので。“そうですよね。落ち込むってやっぱり首をこうやって落とすんですよね”っていう。
石丸:それは演技じゃないもんね。
浅利:そういう瞬間に立ち会えると、メモというか、頭の中でスクリーンショットしてますね(笑)。
石丸:(笑)。話は変わりますが、浅利さんはいろんなご趣味があると伺っています。僕が聞いている限りでは、例えば乗馬、そして落語、釣り…まだまだ沢山ありそうなんですけども。落語は趣味でやっていたんですか? それとも落語のお仕事があった?
浅利:落語をテーマにした『タイガー&ドラゴン』(TBS系)というドラマに出た時に、初めて落語に出会いました。
石丸:そうなんですね。
浅利:その時は、長瀬智也さんが主演だったんですが、(笑福亭)鶴瓶さんが、セットの寄席で、撮影の合間にエキストラのお客さんと楽しんで会話をしながら「こんな話あったな」「あんな話あったな」って話を振っていって笑いがバッコンバッコン起こって、「じゃあ、そろそろ本番行きます」って、本番なんですよ。その流れを見ていて“変な空気感だなあ”と思って。
そして西田敏行さんもいらっしゃって。西田さんはスタイルが全然違うんですよね。本物の落語家さんみたいで。
石丸:なるほど。
浅利:お客さんとのコール&レスポンスで作る人と、自分の芸をしっかり見せに行く人と。実際の落語もそうで、それが観ていてすごく心地良くて。江戸時代から伝わるお話がすごくファンタジーで、本当っぽいけど笑いがあって。『死神』もそうですけど、“そんな訳ないじゃん”とか。
『タイガー&ドラゴン』が楽しくて、自分のトレーニングの一環として(落語を)習いに行ったんです。
石丸:仕事としてではなく、楽しくて習いに行った?
浅利:そうです。初めてそういうことをしてみたんです。その時に、春風亭柳枝さんに教えていただいたんですが、実際に高座に上がって『初天神』というお話をやったんです。キャパが30位ですかね。全員の顔が見えるんですよ。“最悪だ”と思って。
石丸:オーディションみたいな感じだよね(笑)。
浅利:そうなんです(笑)。そこに来る人たちって、いわゆる「落語ファン」なんですよ。僕が『初天神』をやろうがウケないんですよ。
「はいはい、初天神ね。で?」「こうやってやるんだ、へえ」みたいな感じなんですよ。それがやりにくくてしょうがなくて(笑)。
石丸:そうですか。
浅利:それで、黙ったら空気が止まるし。初めて1人舞台…とはちょっと違いますけど、疑似体験をして。
石丸:なぜそれを自分に強いたんですか(笑)。
浅利:いや、分からないです。楽しそうに見えたんですよね。“実際にやってみるとどうなんだろうな”みたいな、軽い気持ちだったんですよ。実際に(高座に)出て、オチまでいって、頭下げて、ずっと変な冷や汗をダラダラかいた状態で、“終わった”と思って立ち上がろうと思ったら「足が痛い」ということに初めて気付くという。
石丸:しびれも切れてて。
浅利:足がしびれていて立てないんですよ。それに気付いて「もう二度と高座には上がらない」って言いました(笑)。
石丸:しびれが切れていることまで忘れて。全集中ですよね。
浅利:全集中です。
石丸:でもそれは格好良いですよ、本当に。
浅利:いやいや、水の中に落ちている感じです。喋れば喋るほど息が…ブレスするタイミングが分からなくなってくるというか。
それくらい追い詰められている集中力でした(笑)。
石丸:すごい。その後、落語は趣味では続けていらっしゃる?
浅利:そうですね。たまにInstagramでとか。でももう、最近は観るのが専門です。あの思いをしたからこそ、“落語ってこんなに恐ろしいものなんだな”ということが分かるので、浅草とか、いろんな演芸場に行くじゃないですか。“すっげえな”って思います。“ああ、ここで呼吸をおくんだ。すげえ”とか思います。
石丸:もう通(つう)の見方になってますよね(笑)。
浅利:そうですね(笑)。
石丸:それは素晴らしい。