石丸:浅利陽介さん、お久しぶりです。
浅利:お久しぶりです。
石丸:ドラマ『相棒』(テレビ朝日系)以来ですね。
今日は来てくださいましてありがとうございます。これから4週にわたってお話を聞きたいと思っています。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
浅利:今日は、「自分に問いかけること」です。
石丸:いつ問いかけますか?
浅利:まずは、稽古が終わって車や電車に乗ったりする移動の時間ですね。その時に、“音楽は何を聴く?”と。
石丸:乗り物に乗る前に?
浅利:そうです。最近は「ラプソディ・イン・ブルー」を聴いてひと息ついてから、移動の合間に“そういえば今日、あそこで台詞が出てこなかったな”とか、いろんなことを考えて。そうしていると段々とお腹が空いてくるので、“何を食べる?”と…。
石丸:それを自分に問いかける(笑)。
浅利:というのも、普段、いろんなことにチャンネルを合わせて動いているので。たとえば、人に合わせたり会話を合わせたりしている時間が長いと、「自分に今、本当に必要なものは何か」が分からなくなってきちゃうんですよ。
石丸:確認しないと流されていっちゃうからね。
浅利:そうなんです。だから、そういう自分への確認事項というか、“人とのチャンネルを切る”というか…。
石丸:ああ、そうか。自分に向き合う時間。
浅利:自分に向き合う時間を大事にしていますね。
石丸:自分の時間割をちゃんと作って。この後、何をする、何をしたい…。
浅利:そうです、そうです。
石丸:それで実行する?
浅利:シンプルに実行するんです。
石丸:行き当たりばったり派じゃないということですね。それが上手くいった時は、“よっしゃ!”と思うし、そうじゃない時もあるじゃないですか。
浅利:あります。
石丸:そういう時は、また新たに問いかけ直すんですか。
浅利:「その時に何をすれば良いのか」という優先事項を考えますね。家に帰ると子供がいるんですが、“すぐにお風呂に入れなきゃいけない”というタイミングがあったりするので。
石丸:マストな事項があるんですね。
浅利:そうなんです。
石丸:限られた時間の中で効率良く自分のプランを進めていくために(自分に)問いかけている、と。これは大事ですね。ダラダラ行こうと思ったら行ける世の中じゃないですか。その生き方に尊敬します。
浅利:いやいや(笑)。いろんな人がいると思うんですが、例えば、稽古場に30分前に入る人もいれば、1時間前の人もいらっしゃるじゃないですか。
石丸:浅利さんはどの辺り?
浅利:僕は30分前ですね。朝からやりたいことが詰まっているんです。起きてからまず、子供やみんなの機嫌がどうなのか様子を見て、“今日は娘の機嫌が良さそうだ”と思ったら一緒に近くを散歩して、電車を見たり、「ここにセミがいるね」とか会話をしながら汗をかいて、シャワーを浴びてご飯を食べて…ということをやっていると、何だかんだで、すぐに(家を)出なきゃいけない時間になるので。
石丸:そうなんだ。だから30分前でも精一杯ということなんですね。
浅利:そうなんです。予習復習をしたいんですけど、全然出来ないまま「よし、通すぜ」みたいな(笑)。
石丸:(笑)。でもお嬢さんのためにしっかり向き合うのは大事なことですもんね。そうしたら自分の時間はどうしてもね。
浅利:向き合うんですけどね。だから、それを自分のやりたいことの延長にしているんです。
石丸:そういうことね。
浅利:散歩もそうですけれど。稽古場でアップすると、“あれもやりたい”“これもやりたい”って始まるんですよね(笑)。キリがないので、どこかでキリをつけるために散歩をしているんです。
石丸:それをアップとしているんですね。
浅利:そうなんです。
石丸:話は変わりますが、いろんなドラマにも出ていらっしゃるじゃないですか。今までの俳優生活を振り返って、転機になった作品とかはありましたか。
浅利:やっぱり、ドラマ『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(フジテレビ系)という作品ですかね。
石丸:それは、どのような影響をご自分に与えましたか。
浅利:個人プレーじゃなくて、チームプレー。それまでは、個人プレーでやっていたんです。自分の台詞を覚えて、作品の流れは関係なくて(台本は)自分のシーンだけ読んでいる、みたいな感じだったんです。
山下智久しかり、新垣結衣、戸田恵梨香、比嘉愛未…自分と同年代の人と一緒に作品を作る経験がほとんどなくて。作品のテイストも、研修医1年目で、「やれ」と言われたことにしがみついていかないと振り落とされてしまうぞという内容もあって、それとリンクして、周りのスタッフの人たちも1人ひとりに“危機感”というか、「成長しないとやっていけないよ」というものを課していたと思うんです。それがすごく嫌で嫌で(笑)。
石丸:(笑)。試練を与えてくれているわけですもんね。
浅利:そうです。それで、台詞が出てこなくなったりして。(台詞を)覚えているけれど、カチンコの音が鳴った瞬間に台詞が飛んでいくとか、スランプみたいなことがあって、びっくりして。それに自分が対応できなくて…。
石丸:でも、何か原因があったんですよね?
浅利:多分、心が閉じ切ってしまっていたので。周りを意識しすぎていて、自分を見失っていたんです。
石丸:どこでそれが解消されてきたんですか。
浅利:いつなんだろう。とにかく無我夢中でもがき続けていたので、「いつ気が楽になった?」と言われたら、作品の中で藤川(一男)というキャラクターを演じていたんですが、どちらかというといわゆる“ポンコツ”で、最後の最後までドクターヘリに乗れなかったんですけど、(1st seasonの最後に)乗れて、ヘリコプターでロケ地の高速(道路)に降りたシーンくらいから全体がパーッと見れるようになってきて。
石丸:その時に「何か言われた」とか、「自分の中で何か発見があった」とかあったんですか?
浅利:多分、役と(自分が)リンクしていた部分と、あと、単純に“ヘリコプターって高速に降りれるんだ”ということと(笑)、あと、ヘリコプターに乗ってワクワクしたという興奮。
石丸:なるほど。
浅利:引き画で撮っているので、本当にヘリコプターから見ると大災害なんですよ。患者さんが横になっているとか、救急車が止まっているとか、そういう状態で。
石丸:セットとしてそういう風になっているということですよね。そこに本当に(ヘリコプターで)降りて来た。
浅利:降りるというシーンだったんですが、それが大きなきっかけになったのかもしれないですね。
石丸:何かがそこでカチッと。
浅利:はまって。“やらねばならぬ!”となったんでしょうね。
石丸:それまでは、人目が気になったり、周りとの関係性に悩んでいると言ってらしたけど、それはそこから徐々に解消されていったんですか。
浅利:しましたね。撮影時間も長かったので、お互いを励ますというか。“キツイなー”という時間になってパッと周りを見ると、みんなキツそうなんですよね。
石丸:ある意味、同志になってきたんですね。
浅利:そういう感じになってきて、本番に入る前にグルーヴが出来始めたりとか。
石丸:面白いですね。だから、“個”じゃなくて、みんなと動き始めたということですね。まさにドラマの中の世界観と合致していますね。
浅利:そうなんです。そういうパワーをいただいたタイミングでした。
石丸:その作品をやってから、その後の自分の俳優生活に何か影響がありましたか?
浅利:「チームプレー」です。無理じゃない範囲で、コミュニケーションを取るんです。
石丸:俳優たちやスタッフさんと。
浅利:はい。自分から今日あったこととかを喋るようになりましたね。
石丸:大きな変化ですよね。
浅利:そうですね。閉じ切っていましたからね、本当に。
石丸:逆に閉じ切っていた方がやりやすかった時期があったということですか。
浅利:きっとそうだったんだと思います。
石丸:その時に、“俳優をいつまでやっているんだろう”とか、自分に問いかけたりしませんでしたか。
浅利:ありましたね。“つまんないわ”と思ってましたね。
石丸:そうなんだ。
浅利:つまんないし、興奮しないし、“嫌だな”と思うことの方が多いし、“面白くない”と思いましたね(笑)。
石丸:でも、それがきっかけで180度逆になったんですよね。
浅利:思い出したんでしょうね。“信じ込むと面白いんだ”って。こんなことを石丸さんに言うのも恥ずかしいですけれど…信じ込んでやっているじゃないですか。
石丸:俳優をね。
浅利:石丸さんは石丸さんでやり方があると思うんですけれど、その瞬間に見えていないものをお客さんに見せないといけないという状況だと、自分がどれだけ信じ込めるかという熱量が大事だったりするじゃないですか。だから、そこまで突き詰めていけたら…という感覚を思い出した瞬間というか。
石丸:なるほど。